【裏タケノコ王】 第1弾 プロアスリート農家
「本当のぼくは、テレビとは違うさ」
たけのこの山仕事を手伝いながら、真実のタケノコ王に迫るシリーズ。
現地取材18回、タケノコ王の右腕早大生が、ぶっ倒れない程度に更新します。
裏タケノコ王シリーズ
第1弾 プロアスリート農家
— 本当のぼくはいたって真面目な青年さ。
たけのこに真剣に取り組めば取り組むほど、
ぼくを笑う人が増えたんだよね。
◆ 地獄でなぜ悪い
よし!今日は、ぼくの日常を体験してもらおう。
たけのこの味を上げるにはどうすればいいと思う?ぼくは、竹を間引いて(伐採して)いるよ。めちゃくちゃ手間はかかるけど、栄養が行き渡るようになって、素晴らしいたけのこができるんだ。今日はその一部を手伝ってもらう。
そうだよ!ざっと500本くらい用意してあるさや。
まずはその竹を運んできてよ。
そういう長いのはチェンソーで切ったら運びやすいさ。
そして機械にかけて粉砕する。粉砕した竹チップも、いい養分になるさ。
はい、これで1セット。山の上の方にもあるからどんどん降ろしてきてね!
(ぷ〜〜〜〜〜〜ん)
ここにいると、蚊にばっかりモテて困っちゃうら?
オーラがあるからだら!(笑)
山の斜度は、スキー場の上級者コースくらいあるからね。そこで働けばそうなるよね。ぼくは、夏の暑い日には水を6リットル補給するさ。水が足りない日は、時間節約のために水たまりの水を飲んだりもする。
一番きついのは練習でやっとかなきゃダメさ。ぼくは昔から「地獄」を選んできたんだよね。思い出すのは、短大から始めたトライアスロンさね。
夜、筋肉痛で激痛が走って、布団の中で涙が出るさ。自転車、水泳、そしてフルマラソン。鉄人レースに耐えられるように、身体をギリギリまで追い込まないといけないさ。
だけど、気持ちは一点集中だったね。成人式にも出なかっただよね。ひとり黙々練習さ。「日本の20代のライバル選手は遊んでいる。1日得してラッキー!」くらいに思ったよ。死ぬ気でやったって、終わってみれば、ほら、生きてる。ならばレースで輝くために、日々が地獄でなぜ悪いんだと。
◆ KENSの学校
競技歴1年で、国内大会で2度優勝したさ。競技歴4年目には、現日本代表監督の飯島健二郎率いる強豪、TEAM KENSにひろってもらったんだ。
飯島さんは、元熱血体育教師だったさ。
「プールを出るとき、受付の人にあいさつしたか!?」
「車に荷物を積み込むとき、愛を持っていたか!!?」
成人してからあれほど叱られるとは思っていなかったよね。でも、“速くて強い”以上に大切なものを叩き込んでもらったと思ってる。だからぼくは敬意を込めて、“KENSの学校”と呼んでいるさ。
当時、チームから支給されたのはユニフォームだけで、給料は一切なし。アルバイトをしながら、練習に打ち込んだよ。あの頃の練習量をお金に換算したら、月収200万円くらいになると思うね。スポーツの世界ではよくある話だけど、プロフェッショナルで食べていくのは、それくらいむずかしいことさ。
国内大会で13回優勝して、いよいよ世界へ羽ばたこうとした矢先、5年間の疲労の蓄積で、右脚が使い物にならなくなった。23歳のことだった。
1年は治らない故障、トライアスロンでは食っていけないという事実。引退を申し出たぼくを、飯島さんは飯に連れ出した。
「お前に食事をご馳走するのは、これで最後だろうなあ……」
1年前、国内大会での活躍を見てKENSにスカウトしてくれた恩師からの別れの言葉。わかっていても、涙がぽろぽろこぼれたさ。
飯島さんに教えてもらったことは、今も生きているよ。お世話になった人に感謝すること。人の見ていないところで努力すること。脚光を浴びて「光」が濃くなれば、そのぶん日常の「影」も濃くなるよね。スポーツアスリートの現役期間は短いさ。でも、一生は長い。だから、飯島さんはああいう教育をしたんだと思うさ。あの5年間で、ぼくの一生の人格が形成されたんだ。
おっと、昔話が長くなっちまった。今日はおわりにして帰ろうぜ。
◆ プロアスリート農家
あくる日……
さて、昨日降ろしてきた竹を全部粉砕するよ。こっちの粉砕機まで、運んできて!
身体の使い方、けっこう慣れてきたようだね。
昨日の晩、一緒にボクシングの世界戦見たら?ぼくもトライアスロン引退後は、ボクシングをやっていたさ。できればスポーツ、プロフェッショナルな道で食っていきたかったんだよね。
山中だね(即答)
やっぱり!(笑)
今も変わらずプロアスリートの心境だね。長くて厳しいトレーニングシーズンと、短く輝けるレースシーズン。たけのこにかける1年に重なるだよね。年間300日の山仕事なんて、常人にはできっこない。目指すは、「日本一の味のたけのこ」さ。そうだね…… “プロアスリート農家”というイメージかな?種目はたけのこ。たけのこ農家の日本代表。
サインにしても、トライアスロン時代はあんまり求められなかったけど、いまは毎日のように書いているさや。
こないだ、テレビの取材がきっかけになって、久しぶりに飯島さんと電話したよ。今のぼくの様子を、すごく喜んでくれたさ。
「おめでとう。トライアスロンで叶えられなかった夢を、たけのこで叶えることができたんだな」ってね。
裏タケノコ王シリーズ
第1弾 プロアスリート農家
第2弾 ファイトマネー
第3弾 呼吸するフェラーリ(前編)
第3弾 呼吸するフェラーリ(後編)
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