愛へと収束する王道路線ー笹塚心琴『ご縁があれば』評
※今回は透明批評会用の批評記事になります、解説がド下手なので内容の紹介はリンクにとどめます。お時間あればぜひ対象作品もご一読ください。
さてさて今月もやってまいりました透明批評会。
毎回毎回、「自分の事は棚に上げる」をモットーに批評なのか感想文なのか、曖昧な記事を展開していきたいと思います(スミマセン)。
1 人に対する思いやり。暖かな肯定感。
まず、笹塚さんの今回作品にはそれが満ち溢れていると思いました。
主人公の詩織のそれも、秋野が死神だと知っても決して揺るがない。ここまで誰かを信じる事ができたなら、人生にはそれだけで意味があるのかもしれません。また、主な登場人物が二人というのもうまく作用していたと思います。
2 世界はどうとらえられているか
『ちょうど三日月が浮かんでいた。あれがパンだったらクロワッサンだ。バターたっぷりで、サクサクふわふわの。』
これが笹塚さんの世界の捉え方を最も良く表現している一行なのではないかと思いました。甘くてサクサクでふわふわで、それだけで済ませられないこともたくさんあるけど、でもクロワッサンがあるからまた歩いて行けるんだといったような。生命力に溢れた素晴らしい表現です。
3 豊かな感情表現と軽快な台詞回し
ここも見所だと思いました。さらっとこなされているのでうっかりスルーしそうになりましたが、何度か読み返してると相当上手いという事に気づきます。また、高尾山という土地も作品に非常に良く馴染んでいます。これが富士山とか雲仙普賢岳では駄目ですね。そして会話の端々から滲み出る秋野の掴みどころのない感じと詩織の溢れんばかりのピュアな少女性。なんというか、ジブリのショートムービーとかにあっても十分成立しそうなくらい自然でバランスが取れていました。
さて、今回もまた素晴らしい作品ですが、怒涛のように日々氾濫する他の作品と差別化するために、より誰かの心に刺さるにはどうしたらいいか、という視点で、自分なりのアイディアのようなものをもう少しお話ししてみます。
4 ノルウェイの森は何故ベストセラーになったか?
著者の村上春樹曰く「百パーセントの恋愛小説」である某作品。人気になった理由は色々あるでしょうが、特に物語の中で重要なのは二人のヒロイン。「直子」と「緑」です。
どうにもならないくらいに死の世界に引きずり込まれてしまう直子。徐々にそれに感化されてしまう主人公と、それを生きる側に連れ戻す緑。特に作中の死の象徴と言っても過言ではない直子というキャラクターが強烈な魅力と説得力を持っていました。
つまり、直子を介して死の存在というものをより濃く映す事によって、「生きるとは何か?」という事を鮮明に浮かび上がらせているのです。
蛇足:トランアンユンの実写化では直子役の菊池凜子の演技力が凄まじすぎて、ほぼゾンビ映画みたいになってました。
......さて、批評の方に戻ると、秋野は死神でありながら、自殺に対しては否定的です。じゃあ肯定させろというのもおかしな話なのですが、この事によって明暗のコントラストの「暗」が薄まってしまった印象を受けました。自殺をしてしまう人というのは社会的には「負け犬」扱いされがちですが、本当は繊細すぎたり、優しすぎたりする人が多いのも事実です。独自の倫理で、そういう人の実情にももう少し光を当ててあげられると、読んでいる人は思いもしなかった何かに触れて、ハッとさせられたり、どこか深く刺さったりするのではないかと思いました。
つまりこれは、もう少しキャラクターに地獄の釜の蓋を開けさせてみてもいいかもしれませんという、ろくでもない類の提案だったのですが、あくまでも私個人の偏った感想ですので、ご参考までに記憶の片隅に置いといていただけると幸いです。。
なにはともあれ、他者への不信感、不安感がますます強くなっていく現代社会、こういう素直なストーリーがあると安心しますね。ハプニング的な出会いからテンポよくハッピーエンドへ結実していく物語はシンプルにも見えますが、実は書こうと思っても簡単に書けないのではないかと思います。
妙な事をごちゃごちゃ書きましたが、基本的には明るく温かな作風を貫いていって欲しいと思います。素敵な作品をありがとうございました。
成田 拝
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