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成田 くうこう (小説、詩、エッセイ)
2017年10月13日 14:45
......人はね、水槽の中を泳いでる魚と一緒なのよいつだったか、母親が何かの帰りに車を運転しながらそう言い出した。「この先ね。どういう人達と出会って、その人達とどういう風に過ごすか。それであなたの水槽の広さが決まるの…」 そう言い終えた後に母親は、何もなかったかのように視線を正面に据えて、また運転に集中し始める。まだ小さかった青柳は、その横顔を見ながらあくびを一つして、言われた
2017年10月13日 15:09
雄二が売店の冷凍庫を開けると、アイス達が冷気と霜に覆われたまま、奥の方で化石のように眠っている。雄二は、その中から一つを選んで、霜を払い落としてからレジで会計を済ませると、大学構内の中庭にあるベンチまで移動して、アイスの蓋を開けるとおもむろにその中身をスプーンでつつきはじめた。夏からずっと売れ残っていたせいなのか、そのアイスは硬く凍りすぎていて、雄二はその表面を木ベラのスプーンでガリガリと
2017年10月13日 15:12
雄二と青柳が研究室に戻ると、時間を潰しにどこかに行っていたはずの美雪が先に部屋に戻ってきていた。美雪は壁に向かって並んでいる本棚から何かの資料を探している様子で、青柳はその痛々しい搔き傷が重なったアトピーの首元を、思わずじっと見つめてしまっていた。「ねぇ、茄子川さん。先生来た?」 雄二がそう話しかけると、考え事に集中していた美雪は二人がいつの間にか部屋にいることに一瞬驚いて、少し間があ
2017年10月13日 15:14
ちょうどその時、飛鳥が電車の窓から外の流れる風景を見つめていると、何かの催しでもしていたのか、一際高いビルの屋上からふいにたくさんの風船が放たれるのが見えた。 冬空にまばらに散っていく白や赤の情景を、電車は一瞬で横切ると次第に遠のいていって、そしてそれを見たことで最悪だった気分が少し和らいでいくような気がした。飛鳥は、ゆっくりと深呼吸を繰り返した後に、今度は目を閉じてウォークマンの音楽に意
2017年10月14日 14:18
「…ねぇ、オレ、本当に暇なんだけど」 またしばらくしてから青柳がそう言い出した。顔を上げた美雪と目が合うと、青柳はキャスター付きの椅子に座ったまま、ゴロゴロと音を鳴らして近づいてくる。「暇って…卒論やらなくていいの?」「うん。オレは平気」「平気って、もう終わったって事?」「うん。まぁね」 それを意外に感じつつも、美雪はふと気づいた事を青柳に聞く。「あれ?じゃあ何で今