Fish in the tank(4)
ちょうどその時、飛鳥が電車の窓から外の流れる風景を見つめていると、何かの催しでもしていたのか、一際高いビルの屋上からふいにたくさんの風船が放たれるのが見えた。
冬空にまばらに散っていく白や赤の情景を、電車は一瞬で横切ると次第に遠のいていって、そしてそれを見たことで最悪だった気分が少し和らいでいくような気がした。
飛鳥は、ゆっくりと深呼吸を繰り返した後に、今度は目を閉じてウォークマンの音楽に意識を移していった。
耳の中では、思いつきでダウンロードしたものの、普段はそこまで聞くことのなかったクラシックが鳴り響いていて、そしてこういう時にその類の曲が驚くほど適している事を飛鳥は改めて実感した。
再び目を開けると、何気なく流れていく雑多なビルや家屋は急に価値を帯びたもののように見え始めて、薄暗くぼんやりした冬の曇り空から漏れるわずかな日の光も、何か神秘的な出来事の予兆のように思えてきた。
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