「黒んぼとは結婚しないでね」と言われて育ったわたしから見た映画「バーデン」
KKK博物館をオープンしたトムに育てられ、当然のように自らも入団していたバーデン。
恋したジュディが黒人を家に招き入れていたことから、言動を見つめ直すようになっていきます。
彼は父親同然の男と愛する人、そして「植えつけられた差別心」と「それをおかしいと感じる、芽生えた猜疑心」の間で揺れることとなるのですが、こちらの心も激しく揺さぶられました。
それはその苦悩が普遍的なものとして描かれ、ギャレット・ヘドランドの演技が驚くほど的確でリアルだったからというのももちろんありますが、わたし自身が差別主義者の母に育てられたことも大きかったように思います。
母は「黒んぼやちゃんころとは結婚しないでね、孫が産まれてもかわいがらないよ」「最近流行りのLGBTってずるいよね」「もう四捨五入したら30なんだから早く結婚しなさいよ、女には期限があるからね」などが口癖。
かつてはわたしもこういった言葉に心から同意していましたが、今や彼女との会話や時間は苦痛です。
それでも憎みきれず、縁どころか仕送りも断てません。
何と言ってもわたしを育ててくれた人なのです。
そして、母の言葉に怒りながら、わたし自身も差別心を完全には消せていません。
意識のアップデートを心がけていますが、それでも映画などを観て己の偏見にハッとさせられるのは日常茶飯事です。
先月はイザベル・ユペール主演舞台「ガラスの動物園」の来日公演を観て、ジム役が黒人俳優で驚いてしまいました。
夢の騎士のようなジムは白人が演り続けるものとどこかで思っていたわけです。
以下ネタバレあり。
バーデンと共に苦悩するわたしを救ったのは、やはりジュディの「あなたはKKK。それでもあなたを愛してる」「わたしはあなたがKKKを抜けなくても愛する。でもトムはあなたが抜けたら憎む」という言葉、そしてそれを受けてバーデンがKKKを辞めたことでした。
「母を憎まなくて良い、何なら愛し続けることで変えられることもあるかもしれない」と言ってもらえたような気がしたのです。
そして、愛こそが憎しみに勝てると力強く説くケネディ牧師にさえ差別意識があるということ。
元KKKのバーデンを家に入れるのは恐いし、若い白人男性は歯がないという冗談に思わず吹き出した自分に呆れたり。
対等に扱われずに苦労してきたであろう黒人男性が、女性(ジュディ)について「いいケツだ」と失礼なことを言うくだりもあります。
完全に差別心のない人なんていなくて、バーデンのように変わっていくしかないのですよね。
登場人物を差別する人/しない人で二分せず、差別への敏感度がグラデーションになっていて見事でした。
わたしの意識のアップデートは一生続く、というか続けるべきですし、母は変わらない可能性が高いでしょう。
それでもわたしはバーデンとジュディの愛が溢れてキスを交わした瞬間、逆光で彼らの肌の色がわからなくなったあの美しさを信じ続けてみたいのです。