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涅槃寂静。Tache-Romanee 1929 by Marc Chevillot

1、2世紀にフランスでぶどう栽培が始まり、8、9世紀からワイン生産が発展し、果てしない歴史を背景にありながらにしてこの言葉を言っていいのかは分からないけれど、1929年のTache-Romanee (コントリジェベレール所有)は、まだ魂が宿る前のワインでした。

19世紀後半から20世紀初めにかけては、ラ・ターシュ・ロマネ、ロマネ・ラ・ターシュなど、いろいろなラベルを冠していたこの土地。

1931年にドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティが区画を買い取り、1932年にレ・ゴーディショが加わる以前 1.416haの区画だった時代のTache。ネゴシアン・シュヴィヨによって生産された最後のヴィンテージの一つ。そんな一生味わうことのないワインをいただく機会がありました。

宇宙が始まる前。とても静かで、安らかな、無。
果実味はまだあるけれど、優しくて、消えそう。
黒。
グレートヴィンテージではあるけれど、95年経っていて、やはりピークアウトはしているからの印象なのかもしれません。
数多くの素晴らしいワインをいただいた後に飲んだこともあり、舌がまっさらな状態で飲んだら印象も違ったと思います。とはいえもう一生会えないきっと。

仏像や仏教絵画で例えると分かりやすいのはないか、ちょっと考えてみたけれど、やはりこの液体は、魂が生まれる前のまだ無のワインだから、何にも例えられないという結論に至りました。

涅槃寂静の状態はある意味幸せ。だけどこの後、一切皆苦の中で「この世は美しい。人生は甘美である」を体現していく、燦然たるTacheになっていく。そんなTacheを味わえている今に感謝しつつ、しばらくTacheなんて飲んでないから飲みたいなぁと欲望にまみれた私の週末がまた終わっていくのでした…。



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