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「日本の組織におけるフォロワーシップ」を読んで

DX、イノベーション、心理的安全性、ダイバーシティ、リモートワーク、パワハラ、エンゲージメント、メンタルヘルスなどなど

パッと思いつくだけでも組織や人にまつわる課題は多い。それらについて、リーダーに責任があるとの論調をよく見かけます。

半分はその通りだと思う反面、本当にリーダーの責任なのか?リーダーだけが背負い込むのはいかがなものか?などの疑問はあります。

というわけで、今回はフォロワーについて学べる本を読んでみました!

要約

組織の大変はフォロワーだが、リーダーシップ研究に比べフォロワーシップ研究は数少ない。

本書は過去のリーダーシップ、フォロワーシップの研究についてレビューした上で、日本の組織におけるフォロワーシップを明らかにしています。

目次

序 章
第1章 フォロワーに注目したリーダーシップ研究のレビュー
第2章 フォロワーシップ研究のレビュー
第3章 日本の組織におけるフォロワーシップの行動要素
第4章 日本の組織におけるフォロワーシップの探索的研究
第5章 フォロワーシップとリーダーシップがLMXに及ぼす影響
第6章 リーダーシップとフォロワーシップが成果にもたらす影響の経験的研究
第7章 要約と結論

先行研究のレビュー

はじめに、リーダーだけでなくフォロワーを対象として扱っている複数のリーダーシップ研究をレビューしています。これらの研究の共通点である「フォロワーは受動的と捉えている」ことに課題があるとしています。

フォロワーがイニシアティブをとる積極的な存在であり、リーダーや組織に影響力を与える存在になりうる

日本の組織におけるフォロワーシップ

続いてフォロワーシップ研究のレビューに移ります。
まずフォロワーシップの分類について、4つの研究をレビューしています。

(例:Kelleyのフォロワーシップ)

日本の組織におけるフォロワーシップ

分類の軸は主に「積極的か/消極的か」あるいは「独自のクリティカル・シンキングを持つか/依存的・無批判的な考え方なのか」の2軸で議論されています。
この軸はアメリカ人にフォロワーシップの軸の可能性が高く、日本のフォロワーシップには別の軸の検討が必要になる可能性をもって、この後の話につながります。
またフォロワーシップの経験的研究からは、フォロワーシップは職場環境よりも国の文化的背景の影響をより大きく受ける可能性があります。

これまでの研究レビューを踏まえ、筆者はフォロワーシップを定義しています。

組織のゴールをリーダーと共有し、フォロワーがそのゴールに向かって行動することで直接的または間接的にリーダーや組織に対して発揮される影響力

日本の組織におけるフォロワーシップ

日本の組織におけるフォロワーシップの行動要素と探索的研究

これまでの内容を踏まえて、日本企業の従業員がフォロワーシップを発揮するためにどのような行動をとっているかを検討しています。

「上司をうまく動かした事例」についてインタビュー調査を行ったとろころ、日本の組織には先行研究にはあてはまらない行動がみられた。

日本の組織におけるフォロワーシップ

「上司の判断を仰ぐため報告する」「顧客に会うとき相手の役職に応じた上を巻き込む」などの行動です。これはフォロワーがリーダーに対して石家艇をしてもらうためにとったリーダシップを促す行動となります。この軸を「上を立てる」というカテゴリーを設けて分類しています。

これに基づき53項目の測定尺度からなるフォロワーシップの質問票が作られました。その結果、3つの因子「積極的行動」「批判的行動」「配慮的行動」が抽出されました。

「積極的行動」の項目例

  • あなたは上司の出す要求、目的を理解し、それに見合うよう一生懸命はたらいていますか

  • あなたは最高のアイデアや成果をもたらすため精力的に働いていますか

「批判的行動」の項目例

  • あなたは職場環境を改善するためなら上司の行為を批判しますか

  • あなたは上司にあなたの考え方と正反対のことを頼まれたら「いいえ」と答えますか

「配慮的行動」の項目例

  • あなたは上司と本音で理解し合うための海や食事などに行きますか

  • あなたは上司に声をかけて早く帰ってもっらていますか?

フォロワーシップとリーダーシップがLMXに及ぼす影響

LMX(Leader-member exchange)はリーダーとメンバーとの間に存する交換関係の質」と一般的に定義されています。
※簡単に言えば、リーダーとメンバーが互いに信頼しあえているような良い関係=高いLMXではリーダーシップが発揮されやすい。

LMXについてフォロワーシップとリーダーシップがどのような影響を与えるかを調査した結果、以下のようなことが分かった。

「日本の組織におけるフォロワーシップ」を元に作成

フォロワーシップとリーダーシップが互いに独立してLMXに影響を与えることが分かりました。

LMXに対して、フォロワーの積極的行動は正、批判的行動は負の影響を与えるが、配慮的行動は影響を与えていません。

リーダーシップとフォロワーシップが成果にもたらす影響の経験的研究

特定企業を調査対象として、個人成果にもたらす影響を調査している。

「日本の組織におけるフォロワーシップ」を元に作成

情緒的コミットメントはフォロワーシップのすべての要素に正の影響を与えており、フォロワーシップの先行変数だと考えられます。

またフォロワーの積極的行動は利益、売上の予算達成率に正の影響を与えており、配慮的行動はどちらにも影響を与えていません。
積極的行動と批判的行動の交互作用(先述のKelleyの模範的フォロワー)は、売上予算達成率のみに正の影響を与えています。

また、リーダーの関係行動と部下の批判的行動の交互作用(上司は部下に配慮し関係をつくろうとしているのに、部下がそれに反する行動をとる)は売上予算達成率に負の影響を与えていました。

筆者の結論

筆者はこれまでの内容を踏まえて、2つの実務的インプリケーションを示しています。

(フォロワーシップを高めるリーダーの役割について)

今回の分析からはフォロワーシップに対してリーダーシップは直接的に影響を及ぼしておらず、情緒的コミットメントを通じて間接的に影響している可能性が示されています。

これを踏まえるとリーダーは、情緒的コミットメントが高まるような助け合う風土や意見を言いやすい環境を整える努力が必要です。

(フォロワーシップ開発の重要性)

リーダーシップ開発だけでなく、フォロワーシップ開発が重要と考えています。過去の研究では入社3年間のLMXの高さは、その後20年以上にわたって、給与、ボーナス、昇進に正の影響を与えることが分かっています。

リーダーシップが発揮できないリーダーのもとでもフォロワーシップが発揮できるような開発を行うことも組織にとっては必要ではないかと考えています。

筆者はフォロワーシップについて新たな研究成果があったとともに、いくつか今後に課題があるとしています。

課題の中で特に私が気になったのは、フォロワーの批判的行動と配慮的行動がどのような場面で有効になるのかを示せていないことです。

読み終えて

ここまで読んでいただいたらお分かりのように本書はフォロワーシップについて、先行研究も踏まえて理解できます。

また、リーダーシップ、フォロワーシップなどの理論は欧米の研究がもとになっいて「本当に日本(の会社組織、雇用関係、文化背景)であてはまるのか?」の疑問を持つことがあります。

本書は日本企業を焦点に独自の「フォロワーの配慮的行動」を見出している点について納得できます。

このようにとても良書だと感じている反面、今後もっと研究が進めばよいな、私ならこう考えるな、という点がいくつかあります。

一つ目は批判的行動についてです。

  • あなたは職場環境を改善するためなら上司の行為を批判しますか

  • あなたは上司にあなたの考え方と正反対のことを頼まれたら「いいえ」と答えますか

上記のような批判的な行動を計測する尺度は,濃淡があっても良いのではないかと思います。

  • あなたは職場環境を改善について上司と異なる意見を持っている場合、提案をできますか?/上司の意見にこだわらず提案できますか?

  • あなたは上司にあなたの考え方と正反対のことを頼まれたら、理解をするための質問をできますか?/正反対であることを表明できますか?

実際の職場では上司への表立った批判、否定は良い結果に結びつくことは少ないかと経験的に思います。海外のことは分からないですが、少なくとも配慮的行動が必要な日本の場合は、すこし薄めの「批判的」が妥当な可能性がありそうです。

二つ目は成果の考え方です。

今回の調査は個人成果に焦点を当てていますが、組織成果への影響が分かればより実践的でしょう、

もしかすると上述の批判的行動は組織成果には影響するのかもしれません。

高い心理的安全性がある組織で組織学習が進むと高い業績につながるという研究結果もあります。

そのためのリーダーシップとフォロワーシップはどういう関係か?特に日本企業についての研究が進めばなお良いかと思います。

最後にフォロワーシップの開発方法です。

リーダーシップに関わらずフォロワーシップの情緒的コミットメントがあり、積極的行動をとれば成果はあがるとの結果には納得感はあります。

このフォロワーシップをどのように開発すれば良いかについて、今後の研究が進むのでしょう。

今回の結果ではリーダーシップはフォロワーの積極的行動に直接影響しないとありましたが、私のこれまでの経験上はとても大きな影響があると感じています。

フォロワーシップの開発をする主体は研修や人事部ではなく、リーダーになるでしょうから、開発しようと思えばよりリーダーの行動の影響度は高くなる可能性があります。

この可能性に従えば、リーダーはフォロワーシップの開発、とくに積極的行動を促進する方法を習得しないといけないでしょう。

また、配慮的行動は今回の分析から成果に影響しないのですから、こういった日本的配慮は不要であると、リーダーもフォロワーも理解することも大事でしょう。

と色々書きましたが、それだけ気づきと刺激の多い本であったと思います。

企業の中、とくに人材育成担当の方は、この本の読書会をして自社にとってのフォロワーシップをどうするかについて意見交換することをおすすめします。


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