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ぬくもり
ついに
捕まった。
よりによって、歩いてすぐのスーパー。
パン、野菜、肉、冷凍の魚の切り身、牛乳、子供が好きそうなスナック菓子を何個か。合計25点。
お店の脇にあるホットコーヒーマシンで100円だけを払って。
温かいコーヒーのぬくもりを感じながら
何事もなかったようにお店を出たところで、店長さんに声をかけられた。
このひとが店長さんだったんだ。
などと、思いながら
あーー
やっと
やっと
やっと
助かったーーー
誰かに早く止めてもらいたかった。
もう自分ではコントロールできない状態だった。
とっくに私はキャパオーバー。いろいろなものがあふれて、コップの中が空っぽ。
心が空っぽで、なのに虚しくて、悲しくて、なのにいろいろな荷物を抱えて、鉄の錘を足につけていた。
今はそれが全部取れて
いや、結局、足の錘はつけたまま。
ただの犯罪者になった。
なのに
ほっとしている。
ここから先は、店長さんと警察の人にいろいろな話を聞かれた。必要な書類を書いたり事情聴取する役、しっかりと犯人を叱る役、その犯人の話を聞いて優しい言葉をかける役、と役割分担されているのだろうな。などと冷静に思いながら、押収物に私が指をさした写真を撮られていた。
パトカーに乗せらせて、警察署で指紋、DNAと写真をとった。
指紋をとるとき、手がカサカサすぎて、科捜研の男の人が手にクリームを塗ってくれた。
そのあったかい手のぬくもりすらも今は心地よかった。
ぬくもりが欲しかった。
夫は私の今の姿を見たくないと言われていた。
寝室は別で、ほとんど部屋にこもって大好きな観葉植物をメルカリでポチポチしていた。
ご飯の時もスマホ片手に、私と離れて食べていた。
息子はママっ子だったので、彼の体温や肌の感触、寝息を近くで感じながら2人で眠る時間は癒しだった。
今日も、夫は私の横にはいなかった。
仕事が忙しいので来られない、と。
結局全て終わって、一旦家に帰って、夕方に息子の保育園にお迎えに行った。
夫が帰るのを待ちながら、息子とこのあとお風呂に入ろう。
おそらく離婚は確定なので、こうやって、息子がテレビの前で踊っているリビングの風景も、もう見ることができなくなりそうだ。
あとは夫がどうするか、委ねるだけ。
本当は帰りを待っているわけでもないくらい、今は落ち着いている。
そんな場合じゃないけど
それくらいおだやかな時間が流れている。
そんな時でも一服は忘れず
息子が今度はブロック遊びを始めたので、適当に飲み物などを手の届かない所に置いて、ベランダに出た。
外の様子と息子の様子を見つつ、タバコに火をつけた。
なんの味もしなかった。
とにかく帰ってきたら謝るだけ。
本当はいつ帰るのか、そわそわしながら待っている。
本当に、迷惑ばかりかけてごめんなさい
て、ちゃんと目を見て謝るんだ。
と、言うタイミングで夫の車の音。
急にじわっと汗が出てきた。
深呼吸をふーっとしながら、部屋に戻ることにしよう。
今の私なら言える。
といい聞かせて、玄関に向かいます。