イワシの香草パン粉焼き
今回は僕がイタリアでの修行時代、敬愛するシェフから最初に教わった料理をご紹介します。
言葉もロクに話せない状態でトスカーナ州にある4つ星ホテルの厨房で奇跡的に雇用してもらった僕はまずパスティッチェリーア(主にデザートやパンやパスタ生地などの粉ものを扱う部門)の補助役に配属されました。
初めのうちはひたすら小麦粉や水、塩や砂糖や牛乳やイーストの量を計ってはスパイラルミキサーにかけるだけの日々。他の仕事も大量のごみ捨てやグリル板などの清掃、納品物を棚に片付ける、指示されたものを取りに行くなどの雑用ばかりでした。
そのうち玉子を割ったり、メレンゲを作ったり徐々に仕事の幅は広がりましたが包丁を触ってもせいぜい野菜をみじん切りにしたり、大量のジャガイモの皮をむいたり…なかなか思っているような調理には携わらせてもらえません。
格式あるホテルが宿泊客に出すための料理です。
言葉も通じない未知の新人外国人がいきなり調理を任されるわけなどなく当然の処遇といえます。
心の中では『こんな雑用をするためにはるばるイタリアまで飛んで来たわけじゃないのに…!』という葛藤も少なからずありましたが、それでも毎日ひたすら笑顔を絶やさず元気よく、指示されたことをテキパキとこなし『僕はいい加減に仕事をする人間ではないよ!』ということをシェフや関係者全員に仕事ぶりでアピールし続けていました。
それから約3ヶ月が過ぎたある初夏の午後。
シェフに呼び出されたので駆けつけると急にこの料理の作り方を丁寧に指導し始めてくれ、その日の夜、初めて僕の手掛けた料理がディナーコースの前菜としてホテルのレストランで提供されました。
特に難易度の高い料理ではありませんが、とにかく飛び跳ねたいくらいに嬉しかったことを今でも良く覚えています。
僕にとってそんな特別なレシピです。ぜひお試しください。
※日本の家庭で再現しやすいように若干アレンジは加えています。
① 基本の材料
【香草パン粉】 ※作りやすい分量
・ パン粉(ドライ) … 100g
・ 塩 … 1つまみ
・ あらびきブラックペッパー … 2振り
・ タイム(ドライ) … 2つまみ
・ オレガノ(ドライ) … 2つまみ
・ 生パセリ … 1g(※細かく刻む)
・ ガーリックパウダー … 2g
・ 粉チーズ … 5g
・ エキストラバージンオリーブオイル … 30g
【イワシの香草パン粉焼き】 ※2~3人前
・ イワシ … 6~9匹
・ 塩 … 少々
・ オレンジ … 1/2 個
・ 香草パン粉 … 適量
・ エキストラバージンオリーブオイル … 適量
・ フェンネルの葉 … 適量(※飾り)
② 香草パン粉の仕込み
1. パン粉は厚手のポリ袋に入れ、手でもんで細かくする。
2. 残りの材料を全てパン粉のポリ袋に加え、均等にもみ合わせる。
③ イワシの香草パン粉焼きの調理
1. イワシは手開きにする。
※イワシの手開きの仕方は以下の動画をご参照ください。
2. イワシの両面に満遍なく薄めに塩を振って10分~15分ほど置き、やさしく流水で洗い流してからキッチンペーパーなどで水気をしっかり拭き取る(※塩は高めの位置からパラパラと散らすように全体に振りかけます)。
3. おろし金でオレンジの表皮を削り、イワシの上に適量を散らす(※全ての皮を削る必要はありません)。
4. オレンジは半分にカットして、できるだけ薄くスライスする(※残り半分は使いませんので別途お召し上がりください)。
5. イワシの表面に香草パン粉を均一にのせる。
6. 頭側からやさしく丸め、尾ひれの内側にオレンジスライスを一枚挟んで、尻尾の裏側(皮目側)から楊枝か竹串などを突き刺してとめる(※完成写真のように丸めた上に尾ひれを立てた形状で固定します)。
7. 耐熱皿の内側に少量のサラダ油(分量外)を丸めたラップなどでこすりつけて塗り、そこへ丸めたイワシを並べていく(※余ったオレンジスライスはイワシとイワシの隙間などに適当に挟んでおきます)。
8. 並べたイワシの上から再度、適量の香草パン粉を振りかける。
9. 200度に予熱しておいたオーブン、またはオーブントースターに入れ、10分~15分ほど加熱(※お使いの機器によって仕上がりまでの時間は多少変動します)。
10. イワシを皿に盛り付け(もしくは焼いた耐熱皿のまま提供してもOK)、固定していた楊枝(または竹串)をそっと取り除く。
11. 仕上げに少量のエキストラバージンオリーブオイルをかけ、フェンネルの葉(あれば)を飾って完成。
④ ポイント&ヒント
・この料理はイタリアでベッカフィーコと呼ばれているシチリア州の郷土料理の一つです。ベッカフィーコとはスズメやモズに似た小鳥の名前(日本名:ニワムシクイ)で昔の貴族が焼いて食べていたのですが、とても高価で庶民には手が届かなかったため、誰でも入手しやすかったイワシを使い、見た目を似せて食べるようになったのが起源だそうです。
焼けたイワシの尾ひれが羽のようで確かに焼いた小鳥に見えなくもありません。鶏肉料理を食べたいけれど買えないから魚で代用してみるなんて、いかにもイタリア人らしいユニークな発想ですね。
・ ドライパン粉は元から細粒タイプの商品であれば、もみ崩す必要はありません。目の荒いパン粉の場合のみ細かく粉砕してください。なお、ハンディブレンダーを持っている方は一瞬で粉砕できます。
・ タイムやオレガノは市販のドライハーブで問題ありませんがパセリだけは生のものを刻んだほうが格段に美味しくなります。もし、ドライパセリしかない場合は特に加える必要はありません。あまり香りがしないため逆に使うのがもったいないです。ドライパセリは香りではなく、あくまで彩りの役割を担うものとして使用しましょう。
・ ガーリックパウダーは入手できなければおろしニンニクで代用しても構いません。その場合は量を2倍にしてください。
・ 余った香草パン粉はポリ袋のまま冷凍庫で保存しておけば1年程度は使用可能です。オーブンやトースターで加熱して仕上げる料理全般(魚介類や鶏肉や羊肉の香草パン粉焼きの他、グラタンやピザ、ピザトーストなど)に幅広く使えます。使用時は凍ったまま振りかけて焼きます。
・入手したイワシのサイズが大きい時は三枚におろし、半身のフィレにして作ってください。尾ひれが無くなることで見た目のインパクトは落ちてしまいますが諦めましょう。
・イワシに塩を振ってしばらく放置し、水で洗い流すという工程は下味を付けつつ、特有の臭みを抜くためです。量が多いと辛くなってしまいますので塩のかけすぎには注意してください。
・イワシの長さが短かくてロール状に巻けない時は端と端をつまんで中身を包むようにして楊枝などでとめてください。
・オレンジの表皮には農薬などが残っている場合がありますので流水でしっかりと洗い、水気を拭き取ってから使用してください。
・焼くときは耐熱皿でなくともオーブンに付属していた鉄板などがあれば、そこにクッキングシートを敷いて作っても構いません。
・フェンネル(ウイキョウ)の葉は単なる飾りですので無くても味には影響ありません。フェンネルはイワシ料理と非常に相性の良い野菜です。もし手に入るのであれば、いくらか刻んで香草パン粉にも混ぜましょう。
しかしながら日本のスーパーでは滅多に見かけない野菜ですのでフェンネルの葉が入手できず、他のフレッシュハーブで飾りたい場合は香草パン粉のレシピ内に含まれているタイムやオレガノ、パセリ(もしくはイタリアンパセリ)の他、ディルやセルフィーユ(チャービル)などで代用してください。
・焼き上がった後、楊枝をはずすと形が崩れてしまいそうな時は楊枝を取り除かずにそのまま食卓へ提供します。ただ、小さなお子様などが食べる場合に誤ってケガをしないよう気をつけてあげてください。
⑤ 要点まとめ
・ 細粒パン粉にハーブや調味料を混ぜて香草パン粉をつくる。
・ イワシを手開きし、両面に軽く塩をかけて臭み抜きをする。
・ オレンジの皮を少しイワシに削り、残りは極薄にスライス。
・ イワシにパン粉とオレンジをのせ、丸めて楊枝でとめる。
・ 耐熱皿に油を敷き、イワシを並べてオレンジを隙間に挟む。
・ パン粉をかけ、200度に予熱したオーブンで10分~15分焼く。
・ 楊枝を抜き、オリーブ油をかけてフェンネルを飾れば完成。
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