たかやま
山田、加藤、黒瀬欄担当。
2023年の「未来」に掲載された短歌のまとめです
2022年の「未来」に掲載された短歌のまとめです
2021年の「未来」に掲載された短歌のまとめです
未来2023年10月号掲載 花の名称をよく見る、花盛りの号であった。 ヴィオラなる冬の小さき紫を華やぎ被ふ朝の綿雪 廣庭由利子 ヴィオラの花が咲いているのを見つけた。美しい風景を人に伝えたい。誰かと喋るときや、文章にする場合は、「紫色の小さなヴィオラ」というように説明するだろう。ところが歌として詠み、この語順にすることで、自分の発見した、感動的な紫が際立って輝くのだ。そこに雪。なおさら明るい風景が、季節の楽しみが伝わってくる。この一行で、たんまりと癒しを摂取できる。
未来2023年10月号掲載 栄光を覗け 放たれてリムジンバスに駆け上がる梅田行きでしょつまり無限の
未来2023年9月号掲載 階段にへばりつくよう青蛙よくよく見ると唾棄されしガム 森本耕史 ガム!?しばらく見ていない。蛙もしばらく見ていない。驚いたからよくよく見たのか。平成的な光景だが、なんとなく、平成のガムは階段にへばりつくような力は乏しそうな気がする。やはり最近久々に、どこかの階段で見たのだ。同じ頃に、同じ道を通ったけれども全く関わりのない、どこかの誰かについて想像してしまう。 土曜午後地下鉄御堂筋線に首都にはあらぬ風を感じつ 工藤京子 怒涛の上句は具体的。それが下
未来2023年8月号掲載 焼き上がる鰻を待ってるお時間も料金に含めさせてください 岩本芳子 外食を楽しんでいるのがよく伝わる。雰囲気の良い店なのだろう。しかも鰻を焼いているという。読みながら、鼻がヒクヒクした。店のメニュー表から拾ったのだろうか、お時間、料金に含むという、マニュアル言葉をユーモラスに活かしている。この違和感は狙い通りだろうと予想する。 隔日に買う灯油の値上りが冬の寒さを加速してゆく 葉山宣淳 「隔日に」がよい。生活感がある。冬の寒さと、値上げラッシュ、どち
未来2023年7月号掲載 退職の花束渡しもう会わない人になるのにこんなに近い 宮凪舞 ソーシャルディスタンスに慣れた私たち。他人と近い距離で接するのは、ものを手渡しするときくらいだ。その近さに驚いたという、再発見の歌。しかも今後は他人どころではなく、もう会うこともない相手。強烈な違和感だろう。語順が、脳内に走った思考をそのまま並べているように見える。感情表現がより強くなっている。 帰り来て鍵穴さがす我が耳にとよもす空の遠きいかづち 樋口るか 暗い時間帯に帰宅したのだろう。
未来2023年6月号掲載 消費期限切れのたまごと対峙するわたしはとても嫌な人間 宮凪舞 「剥き出しの気持ちが積んであるようでトマト売場を足早に去る」で、本能的な錯覚を鮮やかに詠んでいるだけに、たまごの歌に違和感があった。消費期限は人間が決めている。それを理解したうえで食えるか食えないか悩む「わたし」は、とても人間らしい人物ではないだろうか。上句の状況はわかりやすく、下句で視線が分散してしまう印象だ。 黄葉の萩の散り敷く足元に水仙の芽が群がりて伸ぶ 笠井三和子 茂る萩、厚い
未来2023年5月号掲載 突堤のへりに腰掛け見下ろせばあまりに近し悔恨とやらは 松田美智子 行動が気持ちいい。思い切った行動ができる人物なのに、水面か浮遊物か、そこにいつかの悔恨を見てしまう。言葉同士に自然な繋がりがあり、想起される状況が体の感覚を刺激してくる。「悔恨」は「かいこん」と読んだ。予想以上の感情が出現した、その違和感を「とやらは」に込めていると考えるが、遠くなってしまい、四句目と響き合わない感じもある。 躓いてすべてがうまくいかなくて硬いタイルに広がるシェイク
未来2023年4月号掲載 無何有の郷、彗星集、陸から海へを担当します。一年間よろしくお願いいたします。 ハイビーム夜を引き裂き何急ぐ虫平然と鳴き継いでをり 麻香田みあ 上句で「シティーハンター」のエンディング映像を想起した(曲:Get Wild)。しかし、それはフィクションだ。遠く届くハイビーム、その速さへの驚きや、眩しさを嫌う気持ちが下句に続きそうなものだが、地に足のついた眼差しがとても面白い。ハイビームから虫へと視点が移る。何の虫かも書かない。ハイビームに対する意識が
未来2023年9月号掲載 next→Namba 松山で買える下着をAmazonで決済すれば博多から来た 死んだ祖母、生きてる祖母と分けていた、それができなくなってひと月 この街で歌詠む人を数え終えZepp Nagoyaの渦へと入る 大阪の人と写真を見せ合ったZepp Nagoyaの日陰の内で ラーメンをざるに落とせば食べ物に見えてようやく食欲は湧く メルカリはわりに楽しい残業のように定型文を集める 美容師と話す まとまる系だよね。そやね香りがハナミズキのね。 物販の列に鳥
未来2023年8月号掲載 歩き始めた 真ん中の延長コードごめんなさいいつも最初に疑うところ 目が覚めたばかりのパンを見つけても私はベルの鳴るほうへゆく ゴキブリのような葉っぱを踏み歩くいち住民として咀嚼する 雨激しくかつて私も好きだったCDを転がして回した 早朝に空港目指す幸福の中にいるとき故郷は綺麗 ずっとずっと未来始まるdeparture一番星にarriveは無い 雨茂り見まがいやすいどの道も博多駅まで繋がるはずだ 明け方の私のFace IDは私の肘に警備を解かず こ
未来2023年7月号掲載 業務過密の渦中 街じゅうで人が動いて連れてくる春は訃報をタオルふわふわ
未来2023年6月号掲載 耐用年数 確実に降る雲だこれ行く先に見えて青信号を急がず 間に合わせのはずのカッパで二年間通勤してる、できる運勢 あっ私インク替えます!取ってきます!同僚はいま喪主をしている 定年に達した人を見送ってあすが変わらず来るのも変だ ゆっくりした雨の降る日はつま先も濡れないような歩幅たのしむ 毎日が出張のようドラム式洗濯機まだ買いたてのころ 念のため九時ごろまでは掃除機をかけないでいる部屋ごとに時差 携帯が床にぶつかり暴力の音じゃないかと抱きしめに飛ぶ
未来2023年5月号掲載 集まる 東京に自由など無く了承の跡が辺りに集まるばかり 京急の車窓に続くレゴブロック日に焼けているそれぞれ強く 雨ならば傘を借りるし雪ならば受けて立つがね、ビル街に問う 歓声のほかには何を捧げよう好きよねミスド柔和なカード 我らみなNOISEとなって消え残るこれが本当なんだって泣く 友達をZeppに落とす見とってな我を忘れる私のことを 鉛筆で描くべき雲の行き交いを無音設定にして収める 食欲が悪をはたらくこの部屋はたんぱく質の対策室で 伊予鉄のみか
未来2023年4月号掲載 平衡 続かない日々を伴うわけだから迎えに行くと一言ほしい 傘で地を突くはずがないそのような愛を忘れずいよう暫く 今時のプラネタリウム覗き見るこれは一人で来るべきだろう 好調のコニカミノルタ(株)それそのものが星ではないか 山中に誰も触れない雪がある晴れ着にしたいくらいに白い わたし今アンパンマンだ予讃線沿線の人みな立ち止まる 免疫の持病の人と知らなくて訪ねてしまい大丈夫でも 白菜も驚くような角度から切り込むときがいつか来るなら 従兄妹みな自由の人
未来2023年3月号掲載 応答せよ体 乳液の試供品から滲み出る旅のにおいを肌におさえる 山があり雲がたびたび現れて満ちているよね見上げるときは 雲よりも上に居る夜ひたひたと冷たいお茶にふたをください フィッシュオアビーフに近い問いかけに最後に選ぶほうを答えた 沢山の雲で塞いだこの夜に落とすシャワーの温度をひねる 空腹のうろの脈打つ朝十時とびきり自由なのわかるだろ 全力で走りだしたいその意気を歯で止めている自分が好きだ わが指揮の下でイントロ自滅するSSR完凸艦隊 プチプチ
未来2023年2月号掲載 仮に イントネーションを窺い駅をゆく震える水瓜すぐに隠して 四国からまた逃げてきたどこまでも駅は流れる水瓜があれば 仕事柄、言っちゃいけないことのあるぼくに短歌はうまく働く ピンチからストッキングを取り除けるいつかどこかで会いましたよね 霜月の紫陽花の樹が誰よりも強く問うのだお前は樹かと おおかたは人と見なされのびている幼い頃は薪割りもした ストローク練習おわり帰り道まずリズム感ゼロの踏切 冬だからこの時間にも飛行機が光るよまさか星ではないよ 満