第一部 「君臨する者」
ー目次に戻る
第一話 言葉を操る者
それは眩い光で大地を照らしていた
惑星を覆った閃光と共に、大地は滾り、赤々とした惑星の命を噴出したその場所に
青い色の光に包まれ、黄金色の光を放つ巨大な大地が浮遊し
その前には
先端が丸い洗練された棒を持ち、見た事も無い厚みのある何か、をその身に纏う何者かが整然と並び、静かにその場に佇んでいた
∫
――ババババッ!
数匹の体毛が薄く、体格が良い生物達が、物凄い勢いで森の中を駆けてゆく。
―バシュ!! ―バシュ!! ―バシュ!!
ガッツ!
「 ギャッツ!! 」
―ズダァァ! … ザッ ザザザァァ…
…
「ギャァ!」「ギャア!」
森を駆けていた体毛が薄い種族達の一匹が転がりながら草むらの中に倒れ、その身体には細長い棒の様な物が多数突き刺さり、その場から動けなくなっていた。
その体毛の薄い種族は立ち上がろうと身体を動かし、必死に声を上げながら助けを呼び、それに気が付いた他の者達は倒れた仲間を気にしながら数度ふり返ったが、別の集団が多数で近付いて来るのを感じると、
孤立した仲間を置いて森の奥へと逃げて行った。
ザッ、ザッ、 ザッツ
森を駆けて行った体毛の薄い種族達を追いかけ、手負いの生物が消えた場所に辿り着いた黒毛の種族達。
彼らはその場に集まると、長細い木の枝のような棒を両の手で握り、周りを警戒しながらゆっくりと歩き始め、鼻と眉間をぴくぴくと動かしながら、倒れ動けなくなった体毛の薄い種族を探し始めた。
身体から血を流し、草陰に身を横たえ、息苦しくその呼吸を抑える体毛の薄い生物。
その周囲に仲間とは違う、別の種族の匂いと足音が近付いてくる。
その足音は徐々に、倒れた体毛の薄い生物の周囲を取り囲むように集まり出し、囲まれた事を感じた体毛の薄い生物は、その黒毛の種族達を近付けまいと必至で声を荒らげ、周りを威嚇した。
周囲を取り囲んでいた黒毛の種族、数匹がそれに気が付き、手負いの生物の方へ向かって行くと、必死に威嚇する生物を警戒しながら、徐々に距離を詰めてゆく。
身動きが取れない体毛の薄い生物は、徐々に近付く臭いと気配を遠ざけようと、激しい形相で威嚇したが、彼の対応できる範囲を超えると、周囲を取り囲んでいた黒毛の種族の一匹が、その手に握りしめた棒のような物を振りかざし、
―ガッツ!
「ギャァ!」
ガッツ! ガッツ! ガッツ! …
その棒は倒れた生物の血で赤く染まっていった。
―排他的社会秩序
自らの集団を守るために他者を受け入れない
見知らぬ何かを恐れ排除する事は、その集団を守る事であった。
その為に、その集団に近寄る何かがあれば強烈に排除し、その行為は威嚇を含めて執拗に、残虐に行われ、そうしてその生物達の集団は自らのコロニーを守っていた。
そうして、いつしかその集団の個体数が増えると、一部がその集団から別れ、また新しい別のコロニーを構築し、その拡大と分裂を繰り返しながら、その黒毛の種族達は
この惑星に広がっていった。
∫
ある時、ある黒毛の種族達が平原で狩りをしている時の事であった。
ゆっくりとそこに見知らぬ別の種族達が姿を現し、整然と並びながら狩りをしている黒毛の種族達に近付いてゆく。
その何者かの侵入に気が付いた狩りをしている一部が、周囲に大きな声を上げ、威嚇をしながら、仲間を呼んだ。
すぐさま狩りをしていた他の仲間達が声を上げた黒毛の生物の下に集まり、目の前に現れた別の種族を見つけると、排除しようと激しく声を荒らげ、威嚇し、物を投げ、彼らを追い立てた。
しかし、目の前の種族達は、物静かにその様子を伺い、微動だにせず、その身には威嚇をしている黒毛の種族達が見た事も無い、先端が丸い洗練された棒を持ち、厚みのある何か、をその身に纏い、整然と並びながら、静かにその場に佇んでいた。
「 … 」
しばらくすると、その何かを身に纏う不気味な種族の奥にいる、長であろう何かに座っている者が、鳴き声とも違う静かで緩やかな音をその口から発すると、
「ギャァァァ!」
威嚇をしていた黒毛の生物の体が突然焼けだした!
それを見た威嚇をしていた仲間達の動きが止まり、一瞬怯んだが、すぐさま数匹がまた威嚇を始めると、 眩い閃光と共に、威嚇をしていた黒毛の種族の体が再び焼け、鼻を突く黒い煙が周囲に漂った。
その異常な状況をその身で感じた、威嚇をしていた黒毛の種族達は竦み上がり、体を丸め、その場で動かなくなり、そして、その目は、
恐怖で覆い尽くされていた。
黒毛の種族達を焼いた不気味な種族は、彼らに向けていた洗練された棒を自らの側に戻し、また整然と並び、再び黒毛の種族達の方を向きその様子を伺うと、
不気味な種族達の奥にいる長から、また静かで穏やかな音がきこえてきた。
「 … 我は 光を 操る者 」
「 我の 僕となり 扉を開け… 」
言葉
それは 紛れもない
「 ことば 」 で あった
赤く煮え滾る惑星から数十億年
幾億もの 創造と破壊を繰り返し
この惑星にそれは
発生した
紛れもない、言葉を操る者達が そこに現れたのである
竦み上がる黒毛の種族達は、お互い手で合図をし、武器を捨てその場に俯せになり、目の前に立つ、言葉を操る者達を見つめた。
それは彼らにとって攻撃の意思が無い事を現す行動で、部族の中で上下を決める際に使われていた意思を伝える手段であり、俯せになった黒毛の種族達は、目の前の種族達に屈服した事をその身をもって伝えていたのである。
そして身体を投げ出した黒毛の生物の一匹が、ゆっくりと顔を上げると、
「…」「… …」 「…」
俯せになった黒毛の生物もまた、言葉を操る者達と同様に、その口から言葉らしきものを発した。
しかしそれは言葉ではなく、意志を伝える声であり、彼らは単純な声で意思を伝え、身振りや簡単な絵でコミュニケーションを図る、原始言語を使う物達であった。
しかし、その彼らの前には、それを遥かに凌駕する者達が顕現し、言葉を操る者達が放つ圧倒的な力を感じ取ると、彼らは抵抗を諦め、言葉を操る者達の僕となり、後に彼らの部族はその集団に支配され、そうして、言葉を操る者達は同じように多くの部族をその配下に治めてゆく事となった。
時が流れ
…ゴゴゴゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴ
カーン! カーン!
バシュ! バシュ! バシュ!
惑星の命が噴出した大地に、この惑星には無かった騒々しい音が鳴り響き、外見や体格が異なる様々な種族が集まり何かの作業を行い、そこには自然の物ではない、明らかに何者かの手で造りだされた構造物が数多く存在し、先端が丸い洗練された棒を持つ種族が、その作業をしている種族の周囲を取り囲み、作業の指示をしていた。
ズッ… ズッ…
「 … あぁぁ… 」
石のような大きな何かを引いていた作業者が、その荷を引く縄を置き、腰を屈め一休みをした。
「ハァ、ハァ」
彼は、息が整う少しの間、身を伏せて体を休め、再びその荷を引こうと顔を上げた時、その先にある物に目を向けると、
その作業者の目線の先には、眩い光を放つ巨大な何かが存在し、
それは、洗練された棒をもつ種族に囲まれ、
空中に
浮いていた
第二話 原始文明の王
目が霞む程の眩い光を放つそれは、多種多様な生物達の目前に存在し、体をそる程の上空に浮遊していた。
それは青い色の光に包まれ、黄金色の光を放ちながら空に漂い、
この世の光景とは思えない、神々しい存在感を生物達に与え、
生物達はただそれを見つめ、それが当たり前かの様に受け入れ、
なぜそれがそこに在るのか
なぜそれは浮いているのか
なぜそれは光り輝くのか
など疑問を持つ事はなく、
それは受け入れるべき必然であり、
自分達を支配する存在であるとその生物達は、本能的に感じていたのである。
その浮遊する大地の周囲には先端が丸い洗練された棒を持つ種族が取り囲み、その種族は時折その浮遊する大地の前で祭事を行い、それを崇める多くの種族達を支配し、その地を統治しながら彼らに様々な作業に従事させていた。
ある部族は農業に従事し、穀物を栽培し
ある部族は道具を造り、必要な部族に与え
ある部族は体を使い、その土地の構造物を構築していた
洗練された種族は、その地で多くの種族を統治しながら文明的な社会を構築し、彼らが作業に従事できるよう生活を安定させ、争いごとや物資不足など問題が起きないよう管理、教育をしていた。
彼らは学問を発達させ、数学による統計を発明し、天文学を用いて年間の気候を予測することで、農業を発展させ、材料を研究し新たな道具を造り出していた。
そうしてその種族は発展させた学問を活かしながら勢力を拡大し、神々しい光を放つ浮遊する大地を中心に、社会を構築していたのである。
しかし、なぜその洗練された種族がそこまでの知性を得る事ができたのかは謎であり、
唯一の手掛かりは、光を放つ浮遊する大地と、洗練された種族を治める長と、その長が持つ祭壇の壺であった。
その長は初老であったが、長髭を生やし、身なりを整え、長らしい風格を持ち得ており、
常に堅牢に建てられた建物の中で簡素な椅子に座り、石板に向かい何かの作業をしていた。
ある時、大地を照らしていた陽が陰り、空が赤色に染められた頃、その建屋の中に洗練された棒を持つ者が中に入り、建屋の奥に座る長の方へ歩いてゆく。
その洗練された棒を持つ者が、長が座る椅子の前に辿り着くと跪き、頭を下げ長に話し掛けた。
「テュケ様、神殿への塔が完成致しました、明日にでも上陸できます」
「わかった」
「例の物は出来ておるか」
「はい、多くの時間と犠牲を費やしましたが、準備は出来ております」
「そうか、それでは陽が二度昇った時の早朝に、儀式を執り行う」
「祭事の準備をせよ」
長に話しかけた者は、無言でうなずくと静かに立ち上がり、そしてその建屋を出て行った。
「…ようやく、その扉に手を掛けられるか…」
「イレティエウに降り立つ塔と、我が身を守るネスウト、それを持ってしてあの大地を手に入れる事が出来る」
長はゆっくり立ち上がり、背後にある祭壇の様な棚にその身を向けると、しばらくそれを見つめ、また作業に戻っていった。
その祭壇の様な棚には、砲弾型の壺らしき物が幾つも立てられていた。
∫
早朝の肌寒い空気に包まれる砂漠の大地に、陽が昇り始める。
差し込む陽射しが砂の上の構造物を照らし、濃い影が砂漠の造形を美しく浮かび上がらせると、この地で暮らす種族、全ての民が、浮遊する大地の前に集まってきた。
神々しく光り輝く浮遊する大地の下には、小高く盛り上げられた祭壇のような土の台が造り上げられ、それらを囲むように、浮遊する大地にもとどく程の高さのある、鋭利にとがった三本の塔が聳え立ち、その周囲に集まった民衆は否が応でもその浮遊する大地の存在感に圧倒され、敬わざる得ない雰囲気を漂わせていた。
しばらくするとそこへ、洗練された種族と共に、黒い武具と武器を身に纏う長が、何体かの先端が丸い洗練された棒を持つ種族を従えながら祭壇の前に現れた。
長達は民の目の前にある祭壇の方へ歩いてゆき、その前に造られた緩やかな坂を上り、祭壇の上に到達すると、黒い武具と武器を身に纏う長は、厳威を漂わせながら、祭壇の中心へと歩みを進め、
その後に続いていた、先端が丸い洗練された棒を持つ種族達は、長の後ろへと向かい、祭壇の後端へと並び始める。
彼らが祭壇の中心で隊列を整え終えると、ゆっくりとその身を民衆の方に向け、祭壇の上からその場に集まった民を、その眼下に収めた。
その祭壇の下には、何やら異様な雰囲気を漂わせる生物らしき物体が横たわり、その体は激しく焼け爛れ、動く事は無く、既に絶命している様であった。
太陽が徐々に昇ってゆく。
浮遊する大地の背後に、昇り始めた太陽が隠れだし、祭壇の前はその陰で覆い尽くされてゆくと、浮遊する大地の放つ黄金の輝きが、祭壇の上に立つ長のみを照らし出し、長の身体の周囲は、眩いばかりにその全身が黄金色に輝いていた。
祭壇の前に集まっている種族達はその、この世の物とは思えぬ光景に目を奪われ、じっと黄金色に輝く長を見つめ続けている。
周囲は静寂に包まれ、冷気が緊張感と、微細な振動を伝えていた。
しばらくすると、浮遊する大地の上に、隠れていた太陽が再び姿を現し始め、祭壇にその激しく強烈な陽の光が差し込みだすと、その陽射しに照らされた長は、その身に収めた黒い武器を鞘から抜き出し、
―ガッツ!
自らの前に突き立てた。
「 民よ! 」
「この、ネスウトは、かつてこの世界を治めた王族の子孫から造り出した」
「最強の装備である」
―ザッツ
長は、黒い武器で横たわる生物を差し、
「我々は、この王族の子孫を倒し、それが守りし鉱物をも手に入れた」
民衆の視線が長に集まる。
「 刮目せよ! 」
「この最強の王族を排除した我々は、この時より」
「この地を治める、最強の種族となる!」
―ガッツ!
黒い武器を祭壇に突き立てる。
長が、後ろを振り向き、浮遊する大地を見つめると、
再び、民衆にその眼光を向けた。
「 そして、 このイレティエウを 我が足元に治め 」
「 我々は この世界の 新たな 」
「 支配者となる! 」
この世界を支配する原始文明(Qarunian)の誕生である。
黒い武具を身に纏い、長髭を生やした洗練された種族の長は、神々しく輝く浮遊する大地を背に、かつてこの世界を支配した種族をその足元に治め、民をその眼下に見下ろし、
この世界を支配する最強の種族である事を宣言した。
その光景を目の当たりにしたその場にいる民衆は、そのこの世の物とは思えない凄烈なる圧倒的な光景に、民の心は支配されてゆく。
黒い武具を身に纏う支配者は祭壇から民達を一時、静かに見つめると、その身をひるがえし、背後にある中心の塔へと歩き出す。
そして、塔の袂へ辿り着くと、再び民の方へ振り返った。
その時、
パァァァァァァ…
突然、支配者の足元が光り出し、眩い光を放ち始めた。
その光は徐々に蒼白い色で輝き出すと渦となり、その蒼き渦は黒い武具を纏う支配者を包みこんでゆき、蒼白く輝く光に包まれた支配者は蒼く輝きながら、ゆっくりと上昇を始めた。
「 おぉぉぉぉ … 」
その場に集まった民衆から声が溢れ、あまりにも現実離れをしたその光景に、その場に集まった生物達の身体から自然と力が抜けてゆき、次々とその身を落とし、ひざまずいてゆく。
黒い武具を身に纏う支配者は更に上昇を続け、塔の先端、浮遊する大地の上部に到達するとその上昇が止まり、
―ガチャ
ゆっくりとその歩を浮遊する大地に向けると、
黒い武具を身に纏う支配者は、浮遊する大地に、降り立った。
「 おぉぉぉぉ!! 」
民衆は思わず声を上げ、その光景に引き付けられてゆく。
黒い武具を身に纏う支配者は、その大地の中心へと向かってゆき、高台に上がると、
民衆に向けその身を振り返り、
―ガッツ!
黒い武器をその大地に突き立て
その武器を天に向け振上げた
「 民よ! 」
「 我こそ 神であり 全てを導く者である! 」
「 我の僕となり 」
「 永遠の都を築き、 その扉を 」
「 開け! 」
その神と名乗る支配者の後ろには、太陽が燦然と輝き、
民衆はその凄烈なる圧倒的な存在感に心奪われ、
自然とある言葉がこぼれ落ちていった。
「 … ニー ヴァ… 」
その小さな声は徐々に広がり、集合し、大きくなり、
「 ニー… 」「 ヴァ… 」「 ニー… 」「 ヴァ… 」
そして、その言葉を強く発するようになった。
「 ニー ヴァ! 」
「ニー ヴァァ ァァァァァァァァァ!!!!!」
それ以降、黒い武具を身に纏う支配者は、
『 ニー ヴァ 』
と呼ばれるようになり、
この世界に新たに誕生した最強種族の王として君臨した。
第三話 蒼き稲妻 赤き猛火
この惑星に新たに誕生した原始文明、カルーンの長、テュケは祭事の後、その名をニーヴァとし、
最強種族の王として、この世界に君臨した。
ニーヴァは浮遊する大地のそばに新たな神殿、水の城を建築し、そこに数人の側近と共にその身を置き、多くの種族に関係する様々な祭事を執り行っていた。
その祭事の中で最も重要なのが、浮遊する大地から放たれる光による、蒼き稲妻の祭事であった。
その光景は、光りが空と大地を貫き、蒼白く光る稲妻が渦となり、浮遊する大地全体を覆う、普通の生物が出来得る業とは思えない祭事が執り行われ、それを可能にしていたのが、浮遊する大地の近くで採掘される、蒼色に輝く浮遊する小さな鉱石であった。
その鉱石は、浮遊する大地に鉱石の欠片を近づけると激しく反応し、蒼白い稲妻を放つ性質があり、少量であれば、浮遊する大地と同様に浮く事もでき、大量に使用すれば岩も砕く破壊力を得る事ができた。
ニーヴァはその蒼白い稲妻を様々な用途に使用したが、彼が最も求めた蒼き稲妻の祭事では、蒼白く光る稲妻を、空の更に上、彼らには認識できていない、宇宙空間へ放つ事を望んでおり、その為ニーヴァは大地に眠る浮遊鉱石を求め、多くの種族を集め統治し、その採掘に従事させていたのである。
その浮遊鉱石が多く存在する場所とは、大地の奥深くにある岩盤とマントルが交じり合う、灼熱の奥底にそれは存在していた。
しかしそこは、かつてこの世界の支配者であった種族、黒い鋼の外骨格を持つ種族が眠る場所でもあった。
その地中奥深くに眠る最強の種族は、火山性ガスをその身に取り込み、その身に近付く者があれば、体内から放たれるガスの燃焼を持って相手を焼き払い、その身を傷付けようとする者があれば、強固な外骨格で身を守り、鋭利に研ぎ澄まされた骨格の一部で相手を薙ぎ払う。数匹の討伐隊であれば、その腕の一振りで絶命させる事の出来る程の破壊力を持ち、地上の生物では到底太刀打ちできる生物では無かった。
ニーヴァは、その最強の種族が眠る地中奥深くに多くの討伐隊を送り、その種族と鉱石を持ち帰る事を命じたが、そのほとんどは戻ってくる事はなかった。
討伐隊を率いていたニーヴァの息子ムメンは、その黒い鋼の外骨格を持つ最強の種族を排除する為に様々な対策を講じ、民衆を訓練し、道具を進化させ、武具を鍛え上げ、黒い鋼の外骨格を持つ種族を排除する最強の戦闘集団を生み出した。
彼らは、鉱物を溶かし融合させ、単純な鋳型から鋳造、鍛造と武具を鍛え上げ、それらに浮遊鉱石を組み合わせる事で、様々な装備を造り出し、盾と刀に浮遊鉱石を使い、闘いの際に二つを合わせると蒼き稲妻でその身を守る装備、雷神の盾を造りだした。
そして、武具以外でも、中程度の浮遊鉱石を使い、闘いの際に重ね合わせる事で激しい雷を放つ武器、雷神の雷と呼ばれる中長距離砲も開発。それら訓練された戦闘集団と軍備を整え終えると、黒い鋼の外骨格を持つ種族を排除する事に成功した。
黒い鋼の外骨格を持つ種族の周囲には、様々な鉱石が溢れ、プラチナやチタン、タングステンと共に、小さく僅かな浮遊鉱石が採掘され、ムメンはそれらをニーヴァへと献上した。
こうして浮遊鉱石を手に入れ、その副産物である地上には無い強靭な物質と、最強の戦闘集団をも我が物としたニーヴァはその覇権を拡大し、最強の文明の王として君臨していたが、浮遊鉱石が存在する地域は限られ、採掘される量も少なく、ニーヴァが求める軍備と祭事に必要な量は、確保できていなかった 。
ある時、ニーヴァの神殿に見知らぬ種族の民が兵に囲まれながら入ってきた時の事である。
その民は東の辺境の地から来た旅人だと名乗り、未開の地を求め西にその歩みを進めていた途中でこの地に立ち寄ったらしく、その見かけない見姿の為に兵達が捕らえ、ニーヴァの下へ連れて来たのである。
しかしニーヴァは、その旅人を見ると少し考え、その旅人が浮遊鉱石の手掛かりを知り得ているのではないかと、それを尋ねてみた。
旅人は、少し戸惑いながらニーヴァの問いに応えると、蒼く輝く鉱石が、旅人の故郷から更に東にある海に囲まれた大陸にある事を伝え、その大陸は豊富な資源に恵まれ、気候は穏やかで空は常に青く開いている広大な大陸で、多くの種族が暮らす地である事を伝えた。
ニーヴァはそれを聞くとムメンを呼び、ムメンがニーヴァの下へ現れその前で跪くと、旅人にもう一度、浮遊鉱石について問い、旅人はムメンにも東の大陸について話をした。
ムメンはその話を聞き終えると頷き、ニーヴァに顔を向け、
それを見たニーヴァは何かを理解したかのように、ムメンにその大陸へ向け遠征隊として向かう事を命じた。
しかし、旅人がそれを聞くと、
「お止めになった方が良い、あの大陸は赤き猛火を操る屈強な種族がその地を治めており、その種族が放つ赤き猛火は、そこにある全てを焼き払う恐ろしい種族です」
「我々はあれを ニンゲン と言います」
ニーヴァは、己のカルーン文明以外に強い戦闘能力を持つ種族がこの世界にいる事に驚き、更にその集団が青き稲妻、雷神の雷に匹敵するであろう武器を持ち合わせている事にも驚愕と共に、興味を引かれ、ニーヴァの傍で話を聞いていたムメンも、その最強の集団に興味を示し、千の先発隊を編成し、その大陸に向かう事をニーヴァに進言した。
ニーヴァはそれを聞くと、神殿の簡素な椅子から立ち上がり、改めてムメンに命じた。
「東の大陸を制圧し、その蒼き鉱石と、赤き猛火を 我が下へ 」
そして、その三日後、遠征の準備を終えたムメンは千の兵を率いて、浮遊鉱石とニンゲンを求めて東の大陸へと向かって行った。
その後、ニーヴァから解放された旅人は、都の外れにある砂で出来た高台からムメンの進軍を見つめ、ムメンの軍隊が東に消えてゆくのを確認すると、
振り返り西に向け歩き出した。
「 クククク 」
第四話 炎を操る者達
ムメンは千の兵を率いて、東の辺境にあるとされる海に囲まれた大陸を目指した。
行軍の途中、ムメンはニーヴァが支配する種族の地を訪れ、その地で兵の休息とニーヴァへの忠誠を確認し、その種族の協力を得て更にその近隣の種族も平定しながら、その歩みを進めて行った。
しかし、未開の地に足を踏み入れるその行軍は困難を極め、訪れる地域特有の自然環境が彼らの行先を阻み、灼熱の砂が広がる大地を抜けると、荒廃した岩塊が広がる丘陵を登り、身が凍る程の寒さをしのぎながら幾つもの山々を越え、峡谷に進路を阻まれ、大河を迂回し、時として幾度かの見知らぬ種族からの襲撃を受けながらも行軍を続け、いつしか月が三度ほど満ちた頃になると、兵の数は三分の一が消え去っていた。
ムメンは、運河沿いの森にたどり着くと、疲弊した兵達をその地に残し、目の前の鬱蒼とした森へと分け入って行く。森の中は薄暗く、見知らぬ植物に行く手を阻まれながら行軍を進め、幾度かの陽の昇り陰りを繰り返した頃、薄っすらと目の前に明るい陽射しが見え始めてきた。
そして鬱蒼とした森が、青く開けた空と白い砂に変化すると、
―――!
ようやく海に囲まれた大陸の対岸に辿り着くことができた。
ムメンは、残った側近の精鋭十数名と共にさらに北へと歩みを進め、岸辺沿いを探索しながら、そこで暮らす種族を探し、四度目の月が満ちた時だった、ようやく水辺に暮らす種族を発見する事ができた。
その種族の体格は小さく細身で、全身が黒毛の体毛に覆われ、この地で原始的な生活をしているようだった。
ムメン達が彼らに近付くと、それに気が付いた数匹が激しい形相で威嚇をしながらムメン達の前に集まり出し、甲高い鳴き声で仲間を呼んだ。
しかし、しばらくの間、威嚇をしていた黒毛の生物達は、ムメンの大きさと、カルーン兵の屈強な姿に圧倒されると、徐々に威嚇をやめ、その場にいた多くは森の暗がりへと消えていった。
ムメン達は、動揺する事なく静かにその様子を伺っていたが、しばらくすると、黒毛の生物の数匹がムメンの方に近付いてきた。 彼らはムメンの前に来ると、ムメンの顔をじっと見つめ、何かに納得したのか、ぽつぽつと声を発し始めた。
しかし、それは言葉ではなく単純な原始言語であり、ムメンは彼らの言葉は理解できなかったが、攻撃をする意思も無い事から、後ろにいた兵に左手で合図をし、武器を置き座らせた。
周囲が落ち着くと、ムメンはゆっくりと跪き、黒毛の種族達を静かに視界に収める。そして少しの間を置くと、前腕を上げ横にし、彼らに見せ攻撃の意思は無い事を伝えた。
黒毛の種族達はしばらくの間じっとそれを見つめ、ムメンの前にいる体格の良い生物が小さく数回うなずきながら、周囲に低い鳴き声で何かを伝えると、彼らはムメンの意志を理解したようで、周囲に集まった仲間達も座り始める。そして後ろにいた数匹が森の方へと顔を向け何かの合図をした。
すると森に隠れていた数匹が、両腕の中に果実らしき何かを抱えながら現れ、ムメンの方へと歩いてゆく。そしてムメンの前で立ち止まり、ムメンの顔を見ると、腕に抱えた物を差し出した。
ムメンは無表情ではあったが、彼らの顔を見つめながら、優しくその果実を手に取り、小さくうなずくと、その種族は後ろの兵達にも果実を運んで行った。
そうして海岸線に暮らす種族に受け入れられたムメンは、彼らから目的の大陸について情報を得る為に、その地に根拠地を設けセテトと名付け、彼らと共に生活をし始めた。ムメンは時間を掛け彼らの声を理解し、ある程度対話ができるまでになったある日、全身が体毛に覆われた細身の族長に、目的の大陸と、浮遊鉱石と、ニンゲンについて訊ねてみた。
彼らは、自らの集団をヤァーと呼び、元々あの大陸で暮らす種族で、外から来る者は殆どいなく、その地で静かに暮らしていた。
… ゴォォォォォ…
ある時、突然、激しい轟音と共に大地が大きく揺れ、炎と黒い煙が、ヤァー族達が暮らすその一帯を覆った。ヤァー族達はそれに驚き、一斉にその地から離れ、森の奥へと逃れその身を守った。
突然の出来事から陽が陰り、再び昇り始める頃になると、周囲の炎が弱まり、もうもうと立ち込めていた煙も徐々に薄くなってゆき、ある程度、視界が確保できるようになると、薄煙の中を元々暮らしていた場所へと戻っていった。
しかし、かつて暮らした森の光景はその姿を大きく変え、周囲は焼け爛れ、木々は何かになぎ倒されたかのように森は破壊され、黒い炭と灰色の煙に覆い尽くされていた。
ヤァー族達は周囲を警戒しながら、左右になぎ倒された木々に導かれるように、大地に刻まれた一筋の道を頼りに、煙の奥へと進んでゆくと、目の前に薄っすらと崖のような影が見え始めてきた。
かつてこの地に巨大な崖があったのかと、じっとそれを見つめるヤァー族達。
すると、崖の周囲でもうもうと立ち込める煙の奥から、黒い何かが見えてきた。
…
黒い何かはその影の色を濃くしながら、徐々に彼らに近付き、増えてゆく。
ヤァー族達の呼吸は荒くなり、その不気味な影を見つめ続け、仲間の数匹が後退りをすると、激しく声を荒らげ始めた。
「ギャア!」「ギャア!」
ヤァー族達は恐怖から、それぞれが声を出し、物を投げ、威嚇をし、警戒しながら体格の良い数匹の周囲に集まり始め、体格の良い数匹のヤァー族は互いに顔を見合うと、一匹のヤァー族が煙の奥にいる何かに近付いてゆく。
すると、
―ゴォォォ!!
突然、巨大な炎が煙の奥から吹き出てきた。
「ギャア!」「ギャア!」「ギャア!」
彼らは驚き一斉に周囲へと飛散すると、倒木の影に身を潜め様子を伺い、更に激しく声をあ荒げ、物を投げた。
煙の奥に潜む不気味な黒い影は、ヤァー族からの威嚇に動じることなく、彼らの方へ近付いてくる。
フッ! フッ!
怯えるヤァー族達。一匹の体格の良いヤァー族が大きな岩を持つと、不気味な黒い影に投げつけた。
―!
鈍い音が煙の奥から聞こえ、それを皮切りに周囲のヤァー族達も岩を投げ始めた。
黒い影達は、その動きを止め、煙の奥で揺らいでいる。
―Pi!
一瞬の間を置き突然、聞いた事も無い音が森に響き渡る。
―ゴォォォ!!
そして再び、炎が周囲に放たれた。
黒い影から放たれる炎は勢いを増し、彼らを追い立て、その炎から逃げ遅れた数匹が焼かれるとその場にうずくまり、それを助けようと数匹が焼かれた仲間に近付くが、炎に阻まれ近づけない。
ヤァー族の数匹が、炎の先にいる仲間を見つめながら、必死に近付こうとした時、彼らはその炎の先に、黒い影の姿を見た。
それは彼らが知り得ない見知らぬ種族で、見た事もない見姿をし、鈍い光を放ちながら、
ブゥゥゥゥ…ン
鋭く光る目で、彼らを睨みつけていた。
それら炎を操る者達から放たれる炎は勢いを増し、彼らは追い立てられ、ヤァー族達はその地から離れていった。
そして彼らは元々暮らしていたその地を諦め、近くで暮らす海辺の種族と合流し、彼らと共にその大陸から逃れて、この地に来たのである。
その後、彼らは対岸のこの地で暮らす事となり、かつて暮らした地と動かなくなった仲間を想い新しい暮らしを始め、しばらくしてからの事である。
ある時、突然、彼らの前に炎に焼かれた仲間の一匹が、瀕死になりながら帰ってきた。
彼は、炎を操る者達に捕まり、暗く狭い場所で寝起きをしていたらしく、時々物凄く明るい場所に連れられ、身体を縛られ痛い思いをし、彼らが放つ声も聴いていた。
炎を操る者達は、明るい場所ではその姿を変え、ヤァー族に近い姿をし、そして何度も
『 ニンゲン 』
と言う声を、捕らえられた仲間の顔を見ながら話していた。
彼は、身体が動くようになると、すきを見てその場から逃げ出し、薄暗く冷たい洞窟を駆けて行ったが、すぐに彼を捕らえようと、多くの炎を操る者達が集まり、追いかけてきた。
炎を操る者達は、追い掛けながら、激しい音と共に身体を斬り、何かが刺さる矢のような物を放ち、彼は意識が朦朧としながらも必死に逃げ、海を渡り、ようやく仲間の下へ帰る事が出来た。
しかし、彼はその傷からか、次の日の朝を迎えた頃には動かなくなっていた。
ムメンは、彼らの話している内容が、にわかに信じられなかったが、ヤァー族の性格を考えると偽りではなく本当の事なのであろうと納得し、それを信じる事とすると、動かなくなったヤァー族の仲間を弔う言葉を彼らに掛けた。
その弔いの後、ムメンは改めて彼らに浮遊鉱石を見せ、もう一度、浮遊鉱石について訊ねてみた。
「 これは あそこに あるか 」
彼らは、これと同じか判らないが、似たような物があの大陸にはあると答え、ただそれがあるのはアー族が暮らす大陸にある山々の麓の奥地、地中の奥深くで見た事があるらしく、そこはとても暑く、赤く煮え滾る川が流れ、時折、唐突に仲間が倒れ動かなくなる、
とても恐ろしい場所である事を伝えた。
ムメンはその話を聞き確信をした
「ハペプ…」
ムメンはヤァー族にある事を条件に、浮遊鉱石の採掘に協力する事を求め、ヤァー族はそれを受け入れると、あの大陸を取り戻す事を約束する。
この世界に君臨する最強の種族として、
炎を操る者達、ニンゲン を排除する事を条件に
遥かなる星々の物語
第二章 「邂逅の惑星~30億年の出会い」 第一部 「 君臨する者 」 END
ー第二部 「対置する者-1」
ー目次に戻る
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?