由良の町、撮影歩き
由良の町を歩く 狭間 孝
漁港の上に
アーチのような
由良大橋が架かっていた
橋の上から眺めると
奥の方に旧漁港が見えた
漁港の水門の内側に
船揚げ場があり
その周辺は漁師の町家が密集し
何のお店だったのだろう
看板も透明ガラスの店の中も色褪せていた
江後船留(えごふなどめ)は穏やかで
朽ちて形状が崩れてしまった船が
重なるように沈んでいた
他にも漁船が傾き
漁に使った様子もなかった
その向こう側には
新築の家が建つアンバランスに
思わずファインダー越しに
シャッターを何度も
何度も切った
すれ違うことができないような
路地が続く斜面を登ると
由良の町と
成ヶ島が見えてきた
山の中腹沿いに
海に向かって無数の墓石があった
ここは歩いたことが……
あったような気がして
五歳頃の記憶は曖昧で
両側に続く墓石の道を歩いていくと
みかん畑があったような
母と手をつなぎ
祖父母の家へ行く途中に大きな家があり
和紙を切って貼りつけた
白い罰点の窓ガラスの家だった
遠い昔のことで
母が生きていたら確かめられたのだが
あの家は 旧陸軍由良要塞の司令部の
軍人が住んでいた所だったと思う
古い墓石の道を下りて
元の漁港に戻ってきた
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