新しい旅のカタチ
秋風に金糸雀色のススキが揺れる。厳かな神社の本殿と周りを取り囲む樹々がそれを見下ろす。
まだ陽が昇る前の寧静な時間だ。自宅から目と鼻の先に静かな世界は広がる。
「28名の感染が確認されました。本日も不要不急の外出はー-」
朝のニュースを聞き流し、束の間の旅に出る。人混みに行かなくとも旅に出られる。遠方を目指すだけが旅じゃない。
朝の空気を吸い込み、首を垂れるススキよりも深く拝殿に向かって頭を下げる。
寧静致遠。寧静に非ざれば以て遠きを致むるなし。諸葛孔明の言葉を胸に今日も一日が始まる。一歩ずつ努力を重ねるだけ。
作家の夢はそう遠くない。
鳥居に一礼し、帰路は分かれ道を楽しむ。左に折れれば、田舎暮らしの風景。右に折れれば、神秘的な古道に抜ける。
僕は数十メートルの旅を満喫し、仕事に向かう。
いつの間にか、空がこんなにも眩しい。
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