私たちの最初の出会いは、深夜2時のコンビニの店員と客と強盗だった。 「静かにしろ! 騒いだら殺す。金を出せ!」 サングラスの若い金髪の男が、コンビニの入り口でナイフの刃をこちらに向けながら叫んだ。 私は研修中の名札を付けた、大学4年の陣内ヒカリ。 バーコードリーダーを持つ手がぶるぶると震えて、缶ビールを思わず落とした。 「これ、商品交換してくれる? プルトップ開けたら、黄金の噴水だから」 若すぎると思われる男性客に、念のため免許証の提示を求めたところだった。名前
「嫌な予感はしていたんです」 起き抜けに朝のニュース番組を流すと、変声された学生の声とテロップが流れた。未成年への配慮なのだろう。首から下しか映っていない。 制服のリボンから、二人の中高生だと分かった。 私は歯ブラシをくわえながら、ソファに腰を下ろした。パートタイムの始業時間まで、あと二時間。子供たちの朝食と夫の弁当を早く作らないと。 「SNS墓地とか流行ってるの?」 インタビュアーが聴きなれない単語を口にする。 「鍵垢のグループでは結構ありま
◉ご報告🎼 この度、『神の八重奏』第3巻をたいあっぷレーベルから発売することができました✨ ◉第3巻 220円 https://tieupnovels.com/tieups/1892 支えてくださった皆様、読んでくださる皆様、17回もの改稿に付き合ってくれた編集様、音楽を通じて世界を表現してくださる方々。 本当に感謝申し上げます。 レグロたち一団の旅は、次巻で終わりになります🎹 8人の旅を最後まで見守ってくだされば幸いです✨ ◉第1巻 無料 htt
東海林利治 2022年1月8日 09:53 ※勝手にエッセイ 第一章 はれのひ事件 2018年1月8日。 ちょうど4年前の今日。 澄み渡る青空が嘘のように、私の心の中は苛立ちや悲しみの雷雨で、荒れに荒れていた。 テレビから流れてくる悲惨な事件。 振袖の販売や貸出をしていた「はれのひ株式会社」が成人式当日に店舗を突然閉鎖。 この日を楽しみにしていた大勢の新成人の夢が、一瞬にして崩れ去った。 でも、私が許せなかったのは『そ
中村健太郎はパソコンの電源を入れて、缶ビールをマウスの隣に置いた。 時刻は午後9時。 社会人3年目になって、大親友の西村航《わたる》と菊池光一と馬鹿な話もできなくなった。お互い一人暮らしだから、いつでも集まれる。集まれるからこそ、かえって集まらなくなるものだ。 そんな状況が続く中、久しぶりにZOOMで飲もうと連絡をもらった時には、思わず飛び跳ねた。 冷蔵庫にはギンギンに冷えた酒を用意した。 健太郎は準備万端の状態で、2人に招待メールを送った。すでにシャワ
俺たちは普通の高校生だ。 ありふれた中学校生活を終えて、どこにも引っかからずに島の高校を選んだ。離島留学生ってやつだ。 友達からは「島流しだね」なんて馬鹿にされた。 そんな高校一年の特別な想い出。星影島で過ごした、夏の終わりの物語。 蝉時雨が鳴り響く教室に、新しい先生がやってきた。 「それでは、ご紹介します。IT支援員の新田先生です。先生はこれまで都心部でタブレットを使用したリモートの授業など、幅広いIT教育の分野で――」 俺こと神島心太は、小難しい話が嫌いだ。
「すっげぇ……」 新設の銀行を目の前に、大学三年のハルトは息を呑んだ。 後ろから同じ大学のナツキとアキラが、悲鳴を上げている。 森がぽっかりと口を開けたような外観。 中に足を踏み入れると、センサー式の色とりどりのランタンが道しるべのように奥に向かって灯った。 優しい鳥の囀りに、滝が落ちる音がする。 「あたし、ハンモックでも持ってきて住みたい」 「ナツキらしいな。こんな空間で暮らしたら、ナマケモノに生まれ変わるぞ。あっ、すでに半分ナマケモノの人外だったな」 「あっ、
コロナ禍で旅行に行けない小5の息子がどうしてもいつかいってみたい『軍艦島』を一生懸命、デザインしました。 いつか同じ場所で同じアングルで写真が撮ってあげられる日を夢見て。 そんなに継続力のない息子ですが、マイクラの集中力は本物ですので、皆様にご覧いただけると嬉しいです✨ 息子、お疲れ様!!
秋風に金糸雀色のススキが揺れる。厳かな神社の本殿と周りを取り囲む樹々がそれを見下ろす。 まだ陽が昇る前の寧静な時間だ。自宅から目と鼻の先に静かな世界は広がる。 「28名の感染が確認されました。本日も不要不急の外出はー-」 朝のニュースを聞き流し、束の間の旅に出る。人混みに行かなくとも旅に出られる。遠方を目指すだけが旅じゃない。 朝の空気を吸い込み、首を垂れるススキよりも深く拝殿に向かって頭を下げる。 寧静致遠。寧静に非ざれば以て遠きを致むるなし。諸葛孔明の言葉を胸に
#キナリ杯 #作家 #猫 時計の針は深夜0時を回り、すでに家族全員が寝静まっている。 飼い猫は膝の上で丸まり、呑気にあくびをするだけだ。 毎日、毎日、空いた時間でPCと向き合い、物語をああでもない、こうでもない、と唸りながら捻り出す。 『あれ?作家って、どうやってなるんだっけ?』 書き続けて、いつの間にかもう直ぐ三年。 猫に訊いても、ゴロゴロと喉を鳴らすだけ。まさか、このゴロゴロを翻訳できたら、作家への近道を教えてくれているのか? コーヒーを片手に、書斎の天井を