「100日で描く遠距離介護と仕事の両立」Day 13: 再び帰郷
Day 13: 再び帰郷
敏江が何度もサポートを拒否する中、洋子は再び日帰りで帰郷することを決意した。やっとのことで、敏江の家の玄関にたどり着いた洋子。ドアを開けた瞬間、以前と違う家の様子に驚きを隠せなかった。
玄関を入ると、まず目に飛び込んできたのは、以前はきちんと揃えられていた靴が乱雑に置かれたままの光景だった。玄関マットには埃が目立ち、敏江がどれだけきれい好きだったかを知っている洋子には、その変化が一層胸に響いた。
リビングに足を踏み入れると、そこもまた以前の敏江とは異なる様子を呈していた。床にはあちこちに散らかった雑誌や新聞、折りたたまれていない洗濯物が山積みになっていた。いつも清潔に保たれていたはずの流しには、洗い残された茶碗やコップが積み重なり、流し台の隅にはカビが見え始めていた。さらに、トイレに入ると、かつてはピカピカに磨き上げられていた便器の周りに汚れがこびりついており、敏江がどれだけ家事に手を回せなくなっているかが明らかだった。
敏江は、洋子が玄関に入ってくると驚いた表情を見せた。「洋子、どうして急に来たの?」と不満そうに言うが、その声にはどこかホッとした様子も伺えた。
「敏江さん、ちょっと様子を見に来たのよ。最近元気がなさそうだから心配で…。」洋子は優しく話しかけながら、敏江の体調をさりげなく観察した。敏江の歩き方が以前とは明らかに違っていた。足を少し開いて、ゆっくりと小刻みに歩く様子は、バランスを取るのに苦労しているようだった。かつては颯爽と歩いていた敏江の姿が、どこか遠くに感じられた。
「大丈夫よ、心配いらないわ」と敏江は言いつつも、その言葉には以前ほどの力強さがなかった。日常の混乱が増え、家の中も思うように整理できていないことを敏江自身も薄々感じているようだった。
洋子は、高速バスに乗る前に購入した弁当を取り出し、「一緒に食べよう」と提案した。敏江は一瞬戸惑いの表情を見せたが、やがて小さく頷いた。二人で食卓に向かい、静かに弁当を食べ始めた。その間、洋子の頭には敏江の変化と、これからどのようにサポートしていくべきかが絶えず巡っていた。
敏江さんの家の様子や彼女の行動から、いくつかの認知機能が低下している可能性が考えられます。まず、家の中が散らかっていたり、掃除が行き届いていなかったりする点から、敏江さんの実行機能が低下していることが疑われます。実行機能とは、計画を立てて物事を順序立てて進める力のことです。敏江さんが日常の家事をこなすのが難しくなっているのは、この実行機能が弱まっているためかもしれません。
また、玄関マットの埃やトイレの汚れなど、以前なら敏江さんがすぐに気づいていたはずのことに対して、今はあまり注意を払えていない様子が見受けられます。これは、注意機能の低下が影響していると考えられます。注意機能とは、周りの環境に対して気を配り、適切に対応する力のことです。敏江さんが掃除や片付けを後回しにしているのは、こうした機能の低下が一因となっているのかもしれません。
さらに、敏江さんの歩き方がゆっくりで、足を少し開いて小刻みに歩くようになっていることから、身体機能や平衡感覚が低下している可能性も考えられます。敏江さんには、脳梗塞の合併がありましたから、バランスを取るのが難しくなり、転倒のリスクが高まっていることが心配されます。
これらの変化に対して、まずは敏江さんのできていないことを史跡しないことが大事です。否定しても、支援を受け入れることは少ないです。説得より納得できるような状況を目指します。無理にサポートを押し付けるのではなく、彼女が自分のペースで生活できるように配慮しながら、本人が声を上げやすい、支援を受け入れやすくすることがポイントです。例えば、本人からのSOSをきっかけに、家事の一部を外部のサービスに任せることを提案してみると良いでしょう。具体的には、訪問介護サービスや家事代行サービスを利用することが考えられます。
また、定期的に洋子さんが訪問することが難しい場合は、地域の見守りサービスや近隣の友人に協力をお願いするのも一つの方法です。
転倒のリスクを減らすためには、家の中を整理整頓し、歩行をサポートするための器具を導入することを考えてみても良いかもしれません。また、敏江さんがバランスを取りやすくなるような簡単な運動を日常に取り入れることも効果的です。行政や地域賦活支援センターには作業療法士がいる場合があります。アドバイスをもらうことで敏江さんが安全に暮らせる環境を整えることができる場合もあります。
遠方から家族としてできることとしては、敏江さんが利用できる地域包括支援センターを調べ、適切な支援が受けられるように手続きを進めることが考えられます。
こうした対応を通じて、敏江さんが日常生活をできる限り自立して続けられるよう支援しながら、必要なサポートを受け入れてもらえるように進めていくことが大切です。敏江さんにとって、洋子さんがよい距離感でかかわることがお互いの受け入れにつながると思われます。
焦りは禁物。本人が望んだタイミングでサービスが入れるように、段取りをつけていきましょう。
次回: Day 14 - 民生委員との出会い洋子が民生委員と出会い、地域の支援体制を知ることになります。よろしければスキ・フォローしていただければ幸いです。次回をお楽しみに!
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