見出し画像

雪国

2月の2週目は、自分をリセットする期間。

神社神職の私は、年末から初詣・えびす祭・節分と、ずっとお祭りモードで、ちゃんと眠れない。それでも疲れを感じないのは、この期間中は特別な脳内物質が出ているからだと思う。

年末から節分までのひと月半の間は、毎日行っているイベントの興行主のような心持ちなのだ。イベント期間中はスタッフやお客さんの安全と喜びに気を配り、気が張っている。家に帰って子供たちのごはんをしていても、アロマを炊いても風呂に入っても、心の底からゆったりすることはない。

だから節分を過ぎてアルバイトの子たちがいなくなり、境内も通常モードになると、文化祭が終わった後のような寂しさが押し寄せて、精神が燃え尽きる。差し入れのお菓子の食べ過ぎと、筋トレする暇がなかったのとで、体も鈍っている。

これではいかん!と、間髪入れずに小さな飛行機に乗って雪国へ行く。

以前、女優の常盤貴子さんが、ラジオ番組「安曇紳一郎の日曜天国」で、「一つの大きな役に取り組んだ後は、飛行機に乗って、離陸の時にその役を脱ぎ捨てる、それが一種の‘お祓い‘になっている」とおっしゃっていた。

あーなるほど! 飛行機の離陸って、ちょっと体から後ろ方向に何かが噴射される感じがあるよね。と思いつつ、私は一と月半の間、取り組んだ「興行主」という役どころを、離陸とともに脱ぎ捨てる。(女優か!)


IBEX

折しも最強寒波がやってきて、東北地方は40年に一度の大雪。

沼のまわりをスノーシュー(西洋のカンジキのような履き物)でハイキングするはずが、一日60センチの雪が4日間降り続いている中での行軍になった。

ガイドさんが、足で雪をラッセルして、道なきところに道を作ってくれた後ろをついて行く。


まるで八甲田山のよう!!

「新雪の上にケイタイを落とすと、絶対見つかりませんからねー。雪が溶ける春まで」と、ガイドさんが注意する。

この話を、後日、友人に話したら、彼女がアメリカで暮らしていた小さな頃、雪が大量に降ると、全身すっぽりハマってしまって、バンザイして大人に引き上げてもらっていたのだと言う。そして必ず、ブーツが片方脱げてしまうのだと。

春になって、雪が溶けると、小さな片方だけのブーツが、あちこちに見つかったそうだ。よその子たちもまた、バンザイで救出されていたから。

その話を聞いて、我が子が田んぼで遊んでいる時、長靴を片方、泥の中で失くし、後日トラクターに挟まって農家さんにえらく叱られたことを思い出した。

ともあれ、雪国では、まず雪かきをして、車を雪から救出しないことには、買い物もままならない。どこかで誰かがスタックしていたら、見知らぬ人でも助け合う。そして、一杯のお茶の湯気が、全身に染み渡るほどにありがたく感じる。屋根があり、火がある空間が、命を繋いでくれていると実感する。


窓の外のグラデーション
CAさんも富士山を撮っていました

その感じが、大阪へ帰ってきてからもしばらく続く。

こんなに何もかもがすんなりと出来る土地にいることが、ありがたく思えて、心も体も動き出す。手帳を開いて、今年のやりたいことリスト100を書き始める。

この時期に雪国へ旅に出るようになってから、他の月よりちょっとだけ短い2月が、とても良い切り替えの月になっている。







いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集