春服の試着の妻を待つてゐる
婦人服売り場。
その試着室の前で僕は妻を待っている。
入ったきりもう五分出てこない。
おばさまが僕を一瞥して通り過ぎていく。
居心地が悪い。
早く、と願いながらふと、前にもあったなと回想する。
恋人の頃、よくバーゲンセールに行った。
ジャージが私服の演劇青年を小奇麗にしくれたのは彼女のおかげ。
僕に似合う服を選んでくれたあとは彼女のターン。
ワゴンを片っ端から試着していく。そして時に聞いてくるのだ。
「さっきのとどっちがいい?」
僕は自分を封印し、彼女がどっちを好んでいるかを見極めることに神経を注いだ。
「だよね」と同意してくれるまでに三年はかかったな。
しばしのタイムトラベル。
妻も試着室の向こうで懐かしんでるかもしれない。
今、試着しているのは卒園式のスーツ。
形は決まったがサイズで悩んでいる。9号か11号か。
僕はいくつかの言葉を用意した。
10分近くたって妻が出てきた。
「11号にしたよ」
……全て自分で解決していた。
(しゅんぷくのしちゃくのつまをまっている)