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[朗読 3分] 「看護師と患者、そして子犬」(『おかげ犬⑤』)

【ツマヨム】妻が自作の物語を朗読してくれました。【創作大賞素材】
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「看護師と患者、そして子犬」

中庭のベンチで、綾が忙しなく電話をかけている。
思いつく全員に連絡をとり、尋ねた。
「あなた、シンバル叩けない?」

綾は緩和ケア病棟で働く看護師。
明日は年に一度の院内コンサートがある。
病院関係者が、患者やご家族に向けて披露する、有志のオーケストラ演奏。
仕事の合間に、綾もピアノの練習を重ねた。
打楽器の医師が急患対応で不参加となったが、中止にはしたくない。

今朝、竹田のお婆ちゃんから声を掛けられた。
「楽しみにしとるよ」
かつて、綾は竹田さんの手紙に助けられたことがある。
彼女のやさしい言葉に。詩に。
そのお返しをしたい。

チロン。
背後の芝生で子犬が伸びをしていた。
「ワンちゃん、どこから来たの?」
振り返って頭を撫でる。
首に掛かる巾着袋がじゃらりと音を立てた。
「お金? どうして?」

その時、綾は患者さんに頼まれていた両替の件を思い出した。
「ありがと。おかげで忘れずにすんだよ」

行こうとして、袋の文字「おかげ」が目に入った。
綾は不思議な気持ちになって、ええい神頼み。
「どうか無事コンサートが開けますように、パンパン」
犬に手を合わせ、持っていた小銭を投げ入れた。

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