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盛りとランチと酒と「Abats.(アバ)」本郷三丁目

本郷三丁目駅から、ぼんやり、りそな銀行まで出て、壱岐坂通りという、ぼんやりと商店街の様相をした道路を、東洋大学に向けて歩く。順天堂や東京医科歯科の病院関係者などもランチにやってきているのか、それでも昼時にはまずまずの人通りである。

商店街の外れに、おしゃれな雰囲気のオーニングを出したレストランが見えてくる。 Abats.(アバ)は、ハム、ソーセージ、パテ、テリーヌなどシャルトルキュリーと呼ばれる食肉加工品を得意とするフレンチとビストロの間くらいのレストランだ。

一時期は、持ち帰り商品に業態を切り替えていたようだが、再びレストランが再開されると、ランチは賑わいを見せていた。こちらの特徴として「盛が多い」というものがある。

たとえば、豚のローストがランチメニューだったとする。

もちもちのプチパンとしゃきしゃきのレタスのサラダの次にメインの皿が運ばれてくる。大きな白い皿にはキャベツやポテトなどの野菜の蒸し煮とショートパスタを合わせた(何か名称があるのだろうか)おなじみの付け合わせ。

そして豚。

この豚がスゴイ。あれ?これ3人前ですか?と聞きかねないほど厚みがある。初めて店を訪れたときには度肝を抜かれてしまう。豚はちょうどいい焼き加減にローストされており、生のレベルをぎりぎり、かろうじて通過した「桃色」の肉の断面に数粒の粗塩と胡椒がふりかけられている。

美味しい、というよりもまず、「おお、一口でこんなに大きな肉の塊食べたことないな…」と、今までの自分の慎ましやかな食生活と決別する気持ちにさせられる一皿だ。

お店の売りであるシャルトルキュリーがランチメニューになっていたらば相当幸運だ。テリーヌやムースの類や、野菜をふんだんに使った前菜風の盛り合わせも瞠目の旨さ。人参のラぺはもちろん、さつまいもやジャガイモのマッシュ、エノキタケの冷製などがこんもりと皿に盛られて提供される。これらにはほどよいビネガーの風味が効いていて食欲を増進させてくれる。普通のフレンチで注文したならティースプーンにひとさじほどしかもらえない、例の「あれ」や「これ」が、口いっぱいに頬張ることのできる量で提供されるのだ。丸の内線で数駅、大手町に移動するとこうはいかない。

そして、この極上のシャルトルキュリーにはランチでもワインを合わせたいという欲求が止まらなくなってくる。仕事のない日にぜひ伺いたいものだ。

他にこちらで美味かったものといえば、ブーダン・ノワールのキッシュ。キッシュのなかにココアのようなまだら模様が浮かんでいるのだが、このまだら部分が豚の血だという。なんだか、本格的過ぎてびっくりだが、キッシュは大振りなショートケーキ二個分くらいの大きさがある。盛が良いうえにふわふわ食べやすい。

都内で、ここまでランチに主戦場の本気メニューを登場させてくるフレンチやビストロの店は珍しいのではないか。また、手間暇かけた料理を惜しむことなく、これだけの盛りで挑戦し続けてくれる、お店の心意気にはまったく頭が下がる思いだ。血糖値は上りっぱなしだが。

「シャルトルキュリー」と、ググらずにタイプできた。これもきっとこの店のおかげだ。


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