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やんごとなき旅雑学:イタリアでスマートにコーヒーを飲むために

イタリア人にとって欠かすことの出来ないものがBar(バール)。ガッツリした朝食をとる人が少ないイタリア人は、家で朝食を食べず、通勤途中の行きつけのバールでカプチーノ+コロネット(クロワッサン)でサクッと済ませるスタイルが多いです。ただ、最近の若い世代はそうでもないらしく、家でシリアルや健康に良い朝ご飯をきちんと食べてから出かける、という意識高い系も増えてきているとのことですが。

イタリア人にとってのバールとは、通勤や仕事の合間にカウンターでクイっとカフェを立ち飲みというものから、10時や3時の息抜きの1杯、席に腰を下ろして友人達とお喋りを楽しみながらのんびり1杯、朝から晩まで利用する場、同僚や地域の人々などとのコミュニケーションの場となっています。

カウンターで『caffè:カフェ』と頼めばエスプレッソが出てきます。日本で言うところの『コーヒー』(ブレンドやアメリカン)が欲しい場合は『カフェ・ルンゴ』または『カフェ・アメリカーノ』と頼めば、エスプレッソにお湯を足したものを出してくれますよ。このバール、カウンターでの立ち飲みと、席について飲む場合の値段は違うので注意。当然ながら、カウンターの方が安いです。

イタリア人の飲み方は、カフェ(エスプレッソ)に砂糖を小さじ山盛り入れて、スプーンでよーく掻き混ぜてからクイっと一気に飲み干す感じ。日本ではカプチーノやカフェラテが人気ですが(カフェ・ラ‟ッ”テと発音するとイタリア語になる)、イタリア人にしたら、これらは‟午前中のみ”の飲み物であることを知っていると、ちょっとスマートな旅人になれると思いますよ。

かつてイタリア経験が浅かった頃の私は、イタリアで3時のティータイムに『カプチーノ』と頼んで、怪訝な顔される経験をしました。当時住んでいたロンドンでは、いつでも好きな時にカフェで飲んでいたからです。周囲のイギリス人もそうしていましたし。そのため、何故?イタリアで本番のカプチーノを頼んで何がいけないの?と、周囲の反応に驚いた訳で。

よくよく聞いてみれば、イタリアでは牛乳は朝のもの、空腹を満たすもの、子供の為のもの、という考えがあるんだそう。だから彼らにしてみれば、レストラン等で食後にカプチーノを頼むだなんて、もっての外なんですよね。立派なマナー違反と言っても過言ではないというか。要は、たっぷりの食事を摂った後に、『まだ空腹だからミルク入りの飲み物を頼んじゃうぜい』みたいな感じ?ディナーにお呼ばれしてご馳走になった時に、やるべきじゃないことのひとつ、ということは納得できますよね。

『コーヒーの苦みが苦手だけど、カフェラテなら飲めるから、だからいつもそれを頼む』という日本人が多いのも事実。イタリア人にしてみたら、『だったら無理してコーヒードリンクを飲まなければ良いじゃないか』という発想なのです。コーヒーが苦手ならば、紅茶か、他の飲み物を頼めば良いじゃないの、という考え方。ただ、あまりにもカフェラテやカプチーノを頼む日本人観光客が多いことから、日本人=カフェラテ/カプチーノと認識されている今日この頃ではあります。食後にウェイターの方から『カプチーノ?』と聞いてくる店もあるのが事実。ここで、『No, un caffè, per favore(ウン カッフェ ペルファボーレ)』と言うと、おおっと言う顔でウィンクされたり、イイねと親指立てられるかもしれません。

カフェの種類を少し紹介しておきます。

  • Caffè(カフェ): エスプレッソのこと

  • Caffè Latte(カフェラッテ): カフェを同量の牛乳で割ったもの

  • Cappuccino(カプチーノ): カフェを泡立てたミルクで割ったもの

  • Caffè Americano(カフェ・アメリカーノ):エスプレッソにお湯を足して薄めたもの

  • Caffè Lungo(カフェ・ルンゴ):エスプレッソを作る工程で多めのお湯を通して抽出したもの

  • Caffè Macchiato(カフェ・マッキァート): カフェに牛乳をほんの少し垂らしたもの

  • Latte Macchiato(ラッテ・マッキァート): 牛乳にカフェを少し垂らしたもの

  • Coretto(コレット):エスプレッソにグラッパやブランデーを垂らしたもの

アメリカーノとルンゴは見た目は一緒なのですが、作り方が違うんですよ。コーヒー豆もお湯の量も同じですが、抽出時間が長い分、ルンゴの方がカフェイン量が多いです。飲み比べて見たら面白いかも。

日本のイタリアンレストランで見かける『ダブル・エスプレッソ』は、Caffè Doppio(カフェ・ドッピオ)と言えばOK。私は食後の満腹過ぎる場合に良く頼みます。余談ですが、ロンドンで行きつけだったカフェには、ドッピオ・カプチーノ(通常の2倍サイズのカプチーノ)という品がありました。当然ながら、イタリアではお目に掛ったことは無いですね、今のところ。

また、豆乳にして欲しい場合は、Cappucino Soia(カプチーノ・ソイア)などとSoiaを付ければ良し。アーモンドミルクならMandorla(マンドルラ)。

それから、見た目はカフェ・ルンゴと変わらないCaffè d’orzo(オルツォで通じる)は日本でいうミロで、麦から作った飲み物。カフェインNGな人のために、バールには必ずあります。濃厚な麦茶みたいな味は、日本人には馴染みがあるかも。栄養価が高いから、妊婦さんや子供にも飲む人が多い飲み物ですね。

ちなみに、私のイタリアでの父、カルディナーレ家のパパ・アンジェロの教えのひとつに、『牛乳はママの味なのさ。だからカプチーノ好きなイタリア男はマザコンと思え』というものがあります。なるほど納得。

もうひとつ余談。20年程前、『アマンダの恋のお料理ノート(原題:Cooking for Mr. Latte)』 は、書店で 『デートした相手は、なんと食後にカフェラテを頼む男だった!』 という帯の文句を見て即買いした1冊。食後のカフェラテ問題を扱っているのですが、残念ながら今は中古品しか出回っていない様子。

著者は、出版当時ニューヨークタイムズの人気フード・ライターだったアマンダ・ヘッサー。新しく出来たボーイフレンドは見かけも中身も素敵な男性なのに、食後にラテをオーダーしてしまうという、全く食に興味が無い人。アマンダの友人達からMr. Latteと言うあだ名を付けられた彼の、妙な嗜好をどうにか止めさせるべく、食後ドリンクのメニューにエスプレッソと食後酒しか載せていないレストランに連れて行ったり(日本でもディナータイムのドリンクメニューはこうしたら良いのに)、有名なグルマンの友人達に、彼の食後ラテをさりげな~く批判してもらったり。お互いの食の嗜好をすり合わせながら進行する恋愛関係が、沢山のレシピと共に綴られているノン・フィクションで、エッセイだけでなく、レシピ本としても楽しい本です。

SATCばりのニューヨーカーの暮らしぶりも楽しめるので(アマンダとMr. Latteはめでたく結婚へ至っています)、ご興味ある方は、残暑の引きこもりのお供にいかがでしょうか?

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