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《詩》剥離する暗がり

命のはだをみつめる写真家と
ポートレートの約束をした
誕生日会で着たという
とびっきりのワンピースのそのひと
夜の街なみにくみこまれたマクドナルドの光のなか
純白につつまれたそのひとをみつけることはとてもたやすかった
会話 あいづち 近況報告 撮影
まがまがしく点在する
建築物の背景
炸裂する
つづいていく石たちの色彩
歩道のうえ
工事現場のまえ
無機質な都会のなか
街灯や 車体のネオンにてらされたタイルに
すわりながら
木のしたにかくれながら
かれた紫陽花のあいだからのぞきみながら
フラッシュの光におどろいてみせる
そんな顔さえきっととらえているだろう
セーターのあかい袖をにぎって
ながい洋服のすそをひろげてみる
星も氷っておちてくる時間
すっかり息もこくなった
撮るひとと撮られるひと
いつまでもとまらない話
シャッター音
絶望しそうになる路地の奥のくらさ

瞬間すべてがつやめいていて 映えていた
ふたりの記憶に
画面のなかにいきづいていた
電子の酸素をすっては はいた
酸素さえもとじこめたような
てのひらの記録で

生きてみたかった
鮮明な血がたれても
それすらも大丈夫だよといってくれるような 
うつくしい世界で
あわいあわいあかいろの香水瓶を
レンズのまえにかざす世界で
虹色のひかりの線にとらわれるじゆう
ずっと生きていこう
うまれてはじめて 意識していた
ほんとうの息の仕方を
くるしくなることなど
気づいたらわすれていた
からからとわらう声と
夜のつめたい粒子に
せきこむ声がひびきあう
駐車場の蛍光灯のもと
領収書を書く笑みがまぶしく
あいまいで 不安定で
確固としていた
闇夜のなかの閃光そのもの
これまで何度もしてきた約束をまたして
ひらめくワンピースにカメラがみえかくれしていた
剥離する ふたたびたしかめあうための くらがりに

古屋朋

2019年 第15回「文芸思潮」現代詩賞 三次予選通過
詩集「ひとつゆび」収録作品