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組曲『展覧会の絵』に見えた藤原家隆の和歌

 『ドイツの詩と音楽』(荒井秀直、1992、音楽之友社)という本をなんとなく読み始め、内容の諸々にいたく感動して音楽のことをもっと知りたいなと思っていた折、YouTubeを開くとちょうど良さげな動画がオススメされていました。

 「ゆる音楽学ラジオ」という番組で、パーソナリティのお二人が、ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーによる組曲『展覧会の絵』について語る動画でした。全体で30分程のこの組曲を、語り手の浦下さんがタイトルを伏せて一曲ずつ流し、聞き手の黒川さんが感じ取った内容を想像力を爆発させて述べる、という形式をおおかたとっていたので、私も同じスタンスで聴いてみました。黒川さんの爆発ぶりに比べたら、私の想像力はマッチ棒に火が灯るくらいのものでしたが、それでも楽しかったです。

 特に印象に残ったのが、「卵の殻をつけた雛の踊り」という一曲。
 タイトルを見ずに鑑賞して私がイメージしたのは、蓮の畑に色とりどりの雫が降り注ぎ、葉の面に弾かれて踊り跳ねる映像でした。カラフルな雫たちが大きな葉の上をピョンピョン跳ね、コロコロ転がり、存分に踊りはしゃいだ短い演舞の最後、舞台の真ん中の窪みにころんと落ち着きました。
 こんなかわいらしい様子を愛でながら同時に想起されたのが、鎌倉時代の歌人、藤原家隆の一首でした。

いろいろの池のはちすに露咲きて心に匂ふ夏の夕ぐれ
(『壬ニ集』1046、藤原家隆)

(意訳)
たくさんの池の蓮に、花が咲いたように露が置いて、心を華やかに潤す夏の夕暮れよ

 「いろいろの」は「はちす(蓮)」にかかって「様々な、種々の」の意味だと思いますが、「咲きて」や「匂ふ」と共に、歌全体をカラフルで華やかな雰囲気に仕立て上げているように感じます。ころんとした色とりどりの露が、花のように蓮の葉の上にたくさん置いている、かわいい心象風景。言葉と音楽とが、一枚の画となって出会う感覚でした。
 にしても、「露が咲く」ってかわいい表現だなあ。使っていきたい。「心に匂う」も豊かな表現だなあ。使っていきたい。同様の表現は他にも数首、散見されたけれど、家隆のこの歌が一番しみじみ良きでした。

 これまで何本か、和歌と絵画とを組み合わせて鑑賞した記事を書いてきましたが、音楽との交感もありましたよ、というお話でした。

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