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令和5年度労働経済白書を読んでみた①
毎年厚生労働省が公表している労働経済白書が今年も公表されました。
社労士になる前は目を通したことも無かったのですが、今は職業柄毎年目を通すようにしています。
今年は「持続的な賃上げに向けて」をテーマに分析されています。第一部が「2022年の雇用情勢や賃金、経済等の動き」についてまとめられ、第二部で「我が国での賃金が伸び悩む理由、賃上げの及ぼす影響や、同一労働同一賃金の効果」などについて分析されていました。
今日は、雇用情勢の動向、賃金の動向、賃金の課題や、賃上げが伸び悩む理由について、少しまとめてみようと思います。
雇用情勢の動向
経済活動が徐々に活発化する中、雇用情勢は持ち直している
求人倍率(求人数/求職数)の増加、完全失業率の減少
すべての産業で人手不足感はあるが、コロナ前水準まで戻りつつある
産業別にみたときの雇用人員判断D.I.(「過剰」ー「不足」)は、すべての産業でマイナス(不足超過)なので、どの業界も本当に人手不足感がありますね。
D.I.とは
Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略で、企業の業況感や設備、雇用人員の過不足などの各種判断を指数化したもの。
ざっくりいうと、プラスだと「満足」、マイナスだと「不満足」ということですね。
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労働時間・賃金の動向
労働時間はコロナ禍の大幅減から2年連続で増加
名目賃金(現金給与総額)は、前年比ですべての月において増加。賃上げ率は2.20%
円安進行、物価上昇により、実質賃金は減少
名目賃金は上昇しても、生活レベルでは実質賃金がどうなってるかが大事です。21年度はコロナ禍からの回復により上昇しているに過ぎない印象で、22年度(そして23年度も)円安進行、物価高騰の影響がかなり大き(くなり)そうです。
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名目賃金とは、従業員の労働に対して支払われた貨幣のことであり、支払われた金額を指しています。
実質賃金とは、物価の変動を考慮した賃金のことです。
持続的な賃上げに向けて賃金の現状と課題
賃金は1970~1990前半まではほぼ一貫して増加しているが、1990後半以降、減少または横ばいで推移
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主要先進国の賃金の動向
一人当たり実質労働生産性は他国並みに上昇しているが、一人当たり実質賃金は伸び悩む
我が国においては、労働時間減少や労働分配率の低下が一人当たり賃金を押し下げている
主要先進国に比べると、一人当たり実質賃金の増加率が著しく低いことが顕著ですね。
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賃金が伸び悩んだ背景・理由
我が国の労働時間は、他国と比べても大きく減少。パート比率の上昇が大きく寄与。
労働分配率(人件費/付加価値額)は一貫して低下傾向。
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賃金が伸び悩んだ理由は、以下の5つとされている。
企業の利益処分の変化
(リスク回避的な内部留保→賃上げに踏み切れない)労使間の交渉力の変化
(労組組織率の低下等による交渉力の変化→賃金を下押し)雇用者の構成変化
日本型雇用慣行の変容
(生え抜き正社員割合の低下、昇進遅れ→賃金を下押し)労働者のニーズの多様化
(女性・高齢者割合の増加、希望賃金が低い傾向、相対的に求人賃金の低い事務職、運搬・清掃等の職を希望する)
他先進国と比較しても、年間労働時間も労働分配率も、直近では著しい値を出しているわけではないんですよね。ただ、労働分配率の減少は確かに顕著なので、過去のデータと比較してみたときに、賃上げ感は無いというのは感覚的に理解できそう。自分(30代後半)でこう思うので、上の世代はより賃上げ感は無さそう。逆に下の世代はあんまり実感ないのかも???
今日のまとめ的なもの
コロナ禍のピークを過ぎ、雇用情勢は少しずつ安定を取り戻しつつありますが、慢性的な人手不足感は否めない状況が続いています。
労働時間はコロナ禍の大幅減から比較すると増加したものの、長いスパンで見ると減少傾向にあり、直近では主要先進国とそこまで変わらない労働時間に。
名目賃金は主要先進国と同様、増加傾向にあるが、円安進行・物価上昇のあおりを受け、生活に関わりの深い実質賃金は減少、というかマイナス状態に。。。
労働生産性の上昇に対して、名目賃金・実質賃金ともに伸びが見られない。
要約版資料を参考に記事を書いたのですが、全体版には面白い言及がありました。
「我が国の賃金は、生産性に対して感応度が低く、雇用情勢に対して感応度が高い」
これは確かにその通り。他国は生産性の上昇に対して賃金を上昇させているのに対して、日本はその兆しがあまり見られません。
「成果に対して報酬で報いる」。至極当たり前のことではありますが、これが広く一般的になってほしいと思う所はあります。