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令和5年度労働経済白書を読んでみた②
前回は、雇用情勢の動向、賃金の動向、賃金の課題や、賃上げが伸び悩む理由についてまとめてみました。
今回は、賃上げによる好影響や、賃上げの状況などについてまとめてみます。今回で完結です。
賃上げによる好影響
ミクロの視点では、
高い求人賃金などの条件が加わると、求人の被紹介確率が上昇する
賃上げを行うと、従業員のモチベーションや仕事への満足度の向上などの効果が期待される
肌感としても、好条件求人は人気ですからね。まぁ、そらそうだろうという印象。
マクロの視点では、
フルタイム労働者の定期・特別給与が1%増加すると、各々0.2%、0.1%消費を増加させる効果がある
全労働者の賃金が1%増加すると、生産額が約2.2兆円、雇用者報酬が約0.5兆円増加すると見込まれる
結婚確率が高くなる効果がみられる
おそらく経済学的な視点を踏まえて言及されていると思うんですが、実際には消費増税、物価上昇など、私達が感じる生活レベルの様々な要因によって、そんなに消費は増えないんじゃないかなぁという気もしています。結局ここ10数年同じことを繰り返しているので。確かに数値上は生産・消費が増えているんでしょうけど、ミクロ感覚では好景気っていう感じはあまりしないですね。
企業と賃上げの状況について
売上総額等が3年前と比較して「増加」した企業ほど賃上げしている傾向
価格転嫁できている企業ほど賃上げできている傾向
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好業績の企業ほど賃上げが積極的に行われていますね。ベースアップか賞与増額かと問われれば、賞与増額の方が割合としては多いです。賞与増額の方が取り組みやすいですし、これはそうなのだろうなと思います。
あくまで「実施割合」なので、「額」がどうなっているかは分かりませんけどね・・・。
スタートアップ企業等の新規開業と賃金の関係
スタートアップ企業等は、創業15年以上の企業よりも血投げ率は成長見通しが高い
収益増を見通すスタートアップ企業等は、ベースアップにも積極的な傾向
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スタートアップ企業は賃上げにも積極的です。が、これはどう考えても投資ですね。そもそもスタートアップ企業は、イノベーションに近いようなことを成し遂げないといけなく、そのためには人手が必要で、人が集まらなければ何もできないですしね。当然、知名度もありませんから。
とはいえ、日本でもスタートアップ企業が台頭した例もありますし、こういった企業がもっと世に出てきて日本経済の発展につながるといいなと思います。
政策による賃金への影響(最低賃金引上げ)
最低賃金が近年大きく上昇する中、最低賃金近傍のパートタイム労働者割合が高まる
最低賃金引上げは、最低賃金+75円以内のパートタイム労働者の割合を大きく上昇させる可能性がある
最低賃金引上げは、パートタイム労働者下位10%の賃金を0.8%、中位層においても0.7%程度引き上げる可能性がある
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最低賃金の引上げは、政策的に行える賃上げ手段でしょう。(おそらく、この手段しかないかな?)
今まで言及されているように、賃上げを目指すことで労働経済を活性化することが見込まれているので、政府としてはやりたいわけですね。
ただ、民間企業からすると、釣り合っていない感が強く、多大な負担増加にしかなっていない印象です。
働き方改革の一環で最低賃金引上げが行われていますが、「業績の上がらない企業は、業績を上げるか、事業を畳むか、どっちか選べ」という、裏の声が少しずつ顕在化してきている気がします。
今日のまとめ的なもの
おそらく経済学術的には、賃上げを行うことで、マクロ・ミクロ視点ともに経済にとって好影響が期待される。
それを踏まえた上で、最低賃金の引上げを始めとする様々な政策的な取り組みが行われている。
実際に効果の出ている取り組みもあれば、民間企業・労働者・消費者などの視点で見たときに、そこまで効果が出ているわけではなかったり、単に負担が増えているだけと感じられていることもまだまだありそう。
一方、業績がちゃんと出せている企業は賃上げにも積極的であり、スタートアップ企業では、事業の成長を見越して、人に対しても多くの投資が行われており、こういった企業が世に台頭してくることで、経済が活性化されることを期待したいところです。
さてさて、2回にわたって自分なりに労働経済白書をまとめてみましたが、改めてしっかり読み込むと面白い視点があったりします。白書は社労士試験でも問われる範囲で、当時は「あぁ、やだな~」という気持ちが強かったのですが、今となっては面白い読み物ですね。