コンプライアンス研修だけで「問題発言」は、なくならない理由
(写真は東京池袋オフィス街の公園で見かけた花:2021年11月撮影)
社会の変化に合わせて、公の場における言葉や行動についての法令なども変化していきます。
差別語(差別用語)や不快語(不快用語)についても同様です。
法令違反はもちろん各種ハラスメントなど問題とされる言動があれば、訴訟に発展することもあります。
かつてより厳しくなったと言われますが、厳しくなったので引っかかる「問題発言」や「不適切発言」が増加しているとも言い切れないと思います。
私が社会人になって30年以上が経ちます。
その間、社会通念が変化したために問題のとなる基準が変化したとは思いますが、以前も、今も、基準がどうであるかに関わらず「問題発言」は後をたちません。
戦後(1945)から東日本大震災(2011)にかけての「問題発言」が1冊の本にまとめられる程です。
この本が出版された2011年以降も思い出せば数々の「問題発言」や「不適切発言」とその発言者に対する処遇がニュースをにぎわせたことを思い出します。
厚生労働省からも各種ハラスメント対策を事業者に対して講じるように求めています。
また、各種ハラスメント防止のための法律なども整備されつつあり、法令遵守のためのコンプライアンス研修なども盛んに行われています。
しかし、残念ながら「問題発言」「不適切発言」は後を絶たないように思います。
以下簡単にですが、企業や組織のリーダー研修を行ってきた経験から、その理由を述べます。
1.言動はその人の内側から出て来るから
言葉、態度、行動といったものは、その人の内側を源泉としています。
もちろん、言うつもりのなかった言葉をうっかり発言してしまった。
つい飲み過ぎて行動にでてしまった。
いろいろプライベートであってそんなつもりではなかった。
理由は色々考えられるでしょう。
しかし、全く一度も考えもしなかった言葉、一度もしたことのない行動を公の場所でとってしまうことはないのではないでしょうか。
私自身、今から35年前にその頃には「パワハラ」という概念はありませんでしたが、「パワハラ」に該当する言動を取ってしまいました。
部下に対して「怒鳴る」行為に出たのは、もちろんこの時が初めてだったのです。
容易に想像できるでしょうが、学生時代にも自分が無力に感じて追い詰められたように感じた時に「怒鳴る」行為に及んだことが何度かあったのです。
内側にあるものが、時間と場所を変えて出てきただけの事だったのです。
コンプライアンス研修に効果がないとは言いません。
しかし、研修を一回受けただけで、内面が変わることはほぼ期待できないのではないでしょうか。
2.価値観を変えるのは研修ではないから
言動は内側から流れ出る。内側とは「思考」と言って良いでしょう。
内側が変わることというのは、「思考」が変わることなのです。
そして「思考」の根っこには「価値観」があります。
私たちの「価値観」は私たちの人生における「環境・出来事・人間関係」の中で「培われる」ようなものです。
「家風」を考えて見てください。
18歳になった時に両親から「あなたも大人になりました。これから我が家の『家風』について研修をします」などと言われて、教科書を渡されてケーススタディや演習などのセミナーやワークショップを受けたことのある人は、ほとんどいないでしょう。
「家風」とはその家に代々伝わる「価値観」であって、生育環境や様々な出来事や親きょうだいとの関係などを通してある一定期間かけて伝わるもので、数時間、数日間で学習するものではありません。
ですから、きっかけにはなるかも知れませんが、価値観が変化し、思考が変化するためには、意識的に取り組んだとしても一定の時間がかかります。
3.意識的に組織文化を変えなければならないから
公の場で「問題発言」や「不適切発言」をすれば、メディアに取り上げられ、発言者が取り沙汰されます。
発言者は発言を撤回したり、謝罪をし、立場を退くこともあります。
発言者が所属する組織は、発言者に対する処遇をして収束します。
しかし、個人の発言の背後には組織が発言者の言動を問題としない土壌があったからではないでしょうか。
いきなり公の場で「不適切発言」や「問題発言」を初めて発言したとは考えにくく、それまでに組織内部で周囲に同じような発言をしていたのではないだろうかと考えられるのです。
だとすれば、発言者だけを罰したとしても、問題の解決にはならないでしょう。
一人を変えることが簡単でないことは既に述べました。
それを組織に拡げることも同様に簡単ではありません。
だからと言って、取り組むことを断念するべきでは決してありません。
月並みな言葉になってしまうのですが、私たち一人ひとりが引き続きより良い社会のために協力し合って「問題・不適切」な言動をなくしていきたいと願います。
最後にマザー・テレサの有名な言葉を引用します。
最後までお付き合いくださりありがとうございます。