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就活で「内定マウント」をする人の心理──評価経済の時代における“ブランド”の功罪


1.はじめに

 就活の内定先をSNSで報告し、「自分はこんなスゴい企業に受かったんだ」とアピールする学生が増えています。

周囲が「すごいね」「羨ましい」と持ち上げる一方、「ただの自慢ではないか」と嫌悪感を示す人や、「自分は内定ゼロなのに」と落ち込む人も少なくありません。こうした“内定先自慢”はどこから生まれてくるのでしょうか。

 本稿では、就活における「内定先アピール」の背景と心理を整理しながら、評価経済が生む新たな人間関係のかたちを考察します。

ポイントは、内定先を誇示する行為に「自己肯定感の不足」と「戦略的な自己ブランディング」の二面性があること。

そしてSNSが、それを一気に拡散・増幅する仕組みを担っているという点です。最終的には、それぞれの行為がキャリア形成においてどんな意味を持ち得るのかを探ってみます。


2.就活という“企業ブランド”志向の温床

日本の新卒一括採用は、大手企業や有名ブランドに学生が殺到し、“内定を得る=優秀”という図式を生み出しがちです。

周囲が「あの商社に受かったの?」「あの外資系は超難関らしいね」と騒ぐので、内定者も自然と肩書きを誇示したくなる。そこにSNSの爆発的な拡散力が加われば、“内定先マウント”が花開くのは当然かもしれません。

このとき学生が得るメリットは、分かりやすい「承認」と「羨望」です。たとえば大手広告代理店の内定を掲げれば、大学内でも「エリート候補」「勝ち組」と評価される。

こうした周囲からの賛美の声は、一時的にでも大きな自己肯定感をもたらすでしょう。しかし問題は、それが「表面的な名声」でしかない可能性が高いという点にあります。内定という通過点を誇示するあまり、その後のキャリアや実務能力の向上を真剣に考えなくなる危険性があるのです。

さらに、日本の就活では「学歴や偏差値」「企業規模やネームバリュー」という記号化された評価指標が抜きがたく存在しています。こうした単純化された物差しは便利ではあるものの、個々人の適性や潜在能力、モチベーションなどの本質的な部分を見逃しやすい。

内定の“当たり外れ”を表面的な企業名で判断する風潮が強いと、ますます「どこから内定を得たか」がアイデンティティの核心になってしまいがちです。

結果として、本来は「入社後に何を目指したいか」「どんな仕事を作り出したいか」というキャリアビジョンの議論が浅くなり、企業ブランドを巡る競争ばかりが加熱する。こうした土壌こそが、“内定先自慢”を加速させる背景と言えるでしょう。

そこにSNSの“いいね”と拡散力が組み合わさることで、従来なら同級生や親しい友人にしか伝わらなかった就活結果が、一気に数百〜数千人の目に留まるようになるのです。

3.SNSが与える承認欲求の“即効薬”

SNSには、投稿直後から「いいね」やコメントが集まるという特性があります。なかでも就活のように結果がはっきりと可視化される場面では、「○○社に内定しました!」という報告が、まるで“手軽な自己肯定ブースター”のように機能するわけです。

称賛コメントが殺到すれば、投稿者の脳内にはドーパミンが溢れ、一気に高揚感を味わう。これを知った周囲は、焦りや羨望をかき立てられ、「自分だって……」と無意識に比較競争へ巻き込まれます。

こうしたSNS上での“内定ハイ”に陥ると、当人はますます企業名や合格実績を周囲に見せびらかしたい欲求を抑えられなくなります。実際、「○○社から内定を得たら、フォロワーが倍増した」「大手金融に決まった投稿がバズり、数百件のリプライがついた」などの“成功体験”が語られることは少なくありません。

そうした体験がさらなる承認欲求を刺激し、「もっと注目されたい」「さらに目立つブランドが欲しい」と、自己顕示のスパイラルに入り込みやすいのです。

一方で、SNSで得られる賞賛は、熱が冷めるのも早いという特徴があります。投稿直後は多くの「おめでとう」が飛び交っても、数日もすれば新しい話題に置き換わり、誰もその内定先を話題にしなくなる。

すると、もっと新鮮なトロフィーを探すように、別の自慢材料を探し出すか、あるいは現実との落差に打ちのめされるかのどちらかになりやすい。こうした儚さこそ、SNS依存型の承認欲求が抱える根本的な脆弱性なのです。


4.自己肯定感の不足が引き起こす“マウント取り”

内定先自慢の背景には、自己肯定感の不足が潜んでいるケースがよく見られます。

小さい頃から「良い成績じゃないと褒められない」「一番でなければ意味がない」という環境で育った人は、外部評価でしか自分を測れなくなる。そうした人々にとって、就活での有名企業の内定は、まさに周囲から認められるための“切り札”です。


逆に言えば、「有名企業に入れなかったら自分には価値がない」という極端な思考に陥っている可能性もある。こうした二元論は、本人の自己肯定感を一層不安定にしがちです。

わずかにでも失敗の影が見えると一気に自己否定へと傾き、周囲に対して攻撃的になる。その裏返しとして、内定先や肩書きを声高に主張して威圧するという行動につながるのです。


さらに、承認欲求型の人ほど、実際に働き始めてからの現実とのギャップに苦しむケースが少なくありません。内定先ブランドによって持ち上げられてきたのに、入社後は同世代の中でも普通の評価に留まることが珍しくなく、その落差に苛立ちや焦りを募らせる。

いわゆる“燃え尽き症候群”のような状態に陥り、「自分は思ったほど大したことがなかったのか」と自責の念にかられる。内定を得た瞬間だけがピークになってしまう危うさは、就活生が意識しておくべき落とし穴のひとつでしょう。


5.戦略的な自己ブランディング──評価経済を見据える人たち

ただし、内定先のアピールがすべて“弱者”の行動かといえば、そうでもありません。近年、個人がSNSで影響力を獲得し、ビジネスや人脈形成に活かす“評価経済”が注目を集めています。

フォロワー数が増えれば、就活支援の講演に呼ばれたり、著書を出すチャンスが巡ってくる。魅力的な肩書きがあればあるほど、最初の「信頼と認知」を獲得しやすいのです。

こうした人たちは、内定ブランドを“積極的に使い倒す”ことに抵抗がありません。たとえば外資系コンサルや総合商社への内定をSNSで公表し、就活関連のノウハウをまとめたブログや動画を配信する。

彼らはそこに「自慢」というニュアンスをあまり感じさせず、「役に立つ情報を提供しているんです」という言い方でフォロワーを集める。実際、学歴や企業ブランドが強いと読者も「説得力があるかもしれない」と思い、情報に食いついてしまうわけです。

評価経済の世界では、こうした自己ブランディングが大いに機能する一方、“化けの皮”が剥がれた瞬間に手痛いしっぺ返しを食らうリスクも存在します。

たとえば、大手コンサル内定者を名乗る人が、実はその企業の選考を辞退していたとか、あるいは入社後すぐに退職してしまったといった事実が明るみに出ると、一気に信用を失ってしまう。

短期間で作り上げたSNS上の影響力は脆くも崩れ去り、もとの評価を取り戻すのは簡単ではありません。したがって、本当にブランド力を活かしきるのであれば、入社後の実務経験や実績もしっかり積み重ねることが欠かせないのです。


6.失敗体験の不足と「自己効力感」の関係

ここで鍵になるのが、“失敗経験”をどう捉えるかという視点です。失敗をほとんどしてこなかった人ほど、いざ困難に直面したときに脆いとされます。

受験でも就活でも常にトップクラスの結果を出してきた人は、自分の本当の強さを試されていないため、「万が一、足元をすくわれたらどうしよう」という不安を抱えやすいのです。だからこそ内定先という“外部評価”を誇示することで、自分を守ろうとするわけです。

たとえば、エリート校出身者が入社後に「周りが想像以上に優秀で、自分が最下位になってしまった」というショックを受けるケースがあります。これまで築いてきた“優秀伝説”が通用せず、思い描いていた自己像とのギャップに苦しむわけです。

こうした人は評価を維持するために、内定先や肩書きを再度強調したり、周囲のSNS投稿を見ては焦ってしまったりと、不安定な行動を繰り返す可能性があります。

逆に、数多くの挫折を経験した人は「そこから立ち直った」という事実を拠り所にできます。たとえブランド企業の内定がなくても、「自分にはやり抜く力がある」という自己効力感が備わっているため、あえて他人にマウントを取る必要を感じない。

こうした人は、企業名ではなく具体的な成果やスキルを積み上げるほうが重要だとわかっているので、“内定先自慢”そのものに興味が薄いのです。結果的に、入社後も柔軟に環境に適応し、高いパフォーマンスを出すケースが多いというのは興味深いところでしょう。


7.「自慢」と「有益な情報提供」の違い

同じ「○○社に内定しました」という投稿でも、受け取る側の印象は大きく異なります。鼻につく自慢だと感じさせるパターンでは、企業ブランドばかりを強調し、周囲を見下す言動がセットになっていることが多い。読む人からすれば「すごいのはわかったけど、だから何?」となってしまいます。

逆に「有益な情報提供」として受け取られやすい投稿は、ストーリーや学びが共有されているのが特徴です。
たとえば「ESで10社落ちたけれど、自己分析をやり直したら突破できました。ポイントは○○です」というように、プロセスやノウハウを丁寧に解説している。読む側は「なるほど、参考になる」と感じ、情報発信者に好感を持ちやすい。こうした人は、たとえ企業ブランドを前面に押し出しても、裏にある“誰かの役に立ちたい”という姿勢が透けて見えるため、長期的な信頼を獲得しやすいのです。

また、学びをシェアするスタンスであれば、今後のキャリアでも同様の姿勢を保ち続けることが自然と期待されるでしょう。結果的に、「この人が作るコンテンツは役に立ちそうだ」「今度はどういう情報を発信してくれるのだろう」とフォロワーが増えやすくなる。

ここでのポイントは、“企業ブランドを看板にしても、自分の軸やストーリーをきちんと示せるかどうか”です。そこが弱いと、単なるマウント取りに終わってしまい、評価の持続性は望めません。


8.評価経済とフォロワー数──“資産”としてのブランド

評価経済の時代には、SNSのフォロワー数が個人の大きな“資産”になります。ここで内定先という“看板”を活用すれば、最初の注目を集めることはたやすい。実際、SNSで「外資系内定者が語る○○」「商社志望者必見のノウハウ」などの発信をしてフォロワーを増やし、講演や執筆につなげる人もいます。

この流れは合理的ですが、過剰な演出やステマまがいの手法に走れば炎上リスクも高まります。信用は築くのに時間がかかる一方、失うのは一瞬。ブランディングと虚飾は紙一重で、ビジネスの世界では「継続的な信頼」こそが最終的にモノを言うのは言うまでもありません。
つまり、内定先ブランドを入り口にするのは一向に構いませんが、その後に何を積み上げるかが問われるわけです。


たとえば、フォロワーが急増した内定者が何の実務経験もないまま、専門家気取りで発信を続けるケースがあります。最初は「○○社内定者」という肩書きでファンを集められても、入社後の仕事や実績が見えてこなければ、「やっぱり口先だけだったのか」と落胆されるかもしれません。

これは何も就活に限った話ではなく、企業のSNS運用やインフルエンサー全般に言えることですが、一時の数字に酔いしれず、本質的な価値をどう生み出すかを常に模索し続ける必要があります。


9.キャリアを考える──内定はスタート地点にすぎない

そもそも就活は、社会人としての第一歩を踏み出すための“通過儀礼”にすぎません。内定を得たからといって、今後のキャリアが約束されるわけではない。大事なのは入社後にどんな仕事をし、どんな実績を残すかです。

名門企業に入っても、そこで埋没してしまえば結局は自己成長の機会を逃し、やりがいや達成感を得られないまま数年が過ぎることもあるでしょう。

一方、本当に自分に合った企業を選んだ人は、たとえ世間的には無名の会社でも、高いモチベーションを維持しながら急成長することが珍しくありません。“ブランド”とは別の軸で自分の専門性や強みを伸ばし、結果的に転職市場や社内評価で高い価値を認められることもある。入社した企業名に頼らなくても戦える力を身につけることは、将来的に大きな武器になるのです。

このとき大事なのは、長期的な視点を忘れないことです。就活期の内定先のラベルだけに縛られて、「自分はすごい」「あの会社に受かったから安泰だ」と思い込むと、のちの苦労に対応できなくなります。キャリアとは常に変化し続けるものであり、終身雇用が揺らいでいる現代では特に、“入社後”にどう成長し続けるかが勝負の分かれ目になるでしょう。


10.結論──“マウント”から“成長”へ

就活での内定先自慢は、一見すると“勝ち組アピール”のようですが、実は内面に不安を抱えている人や、評価経済を狙っている人の行動と見ることができます。

SNSの拡散力によって、一気に注目を浴びる可能性がある反面、ちょっとした失敗や炎上でブランドを失うリスクも高い。これらは「企業ブランドに依存している」という意味で同根の問題です。

重要なのは、長期的なビジョンと自己効力感の有無です。失敗を繰り返しながら学習し、どこへ行ってもやっていけると自分を信じられれば、企業ブランドに頼る必要はなくなる。逆に、自己肯定感が低いままだと、内定先という“鎧”を外せず、いつまでも外部評価に振り回されてしまうでしょう。

もちろん、“ブランド”を活かした自己ブランディングが悪いわけではありません。最初の注目を集める効率の良さは無視できないし、その後にしっかり成果を残せば、キャリアを大きく飛躍させるきっかけにもなる。

ただし、最終的には内定先のラベルよりも“あなた自身が何をできるか”が問われます。そこを見誤ると、“マウント取り”に陥って周囲との摩擦を生むか、あるいは自分の首を絞める結果になりかねないのです。


もしあなたが「内定先を誇示したい」という衝動に駆られたら、こう問いかけてみてください。「それは本当に自分を高める手段なのか? それとも一時的な承認欲求を満たすだけなのか?」。

短期的にバズってフォロワーを増やしても、入社後に何の成果も出せなければ、評価はすぐにしぼんでしまうでしょう。本質的な評価を勝ち取るには、内定先という看板に安心するのではなく、失敗を恐れず経験を重ね、確かな実力を積み上げることが不可欠です。

就活はあくまで通過点であり、そこから先の長いキャリアこそが人生の大半を占めます。よほど特殊な職種でもない限り、最初に入った企業名だけで一生が決まるわけではありません。

評価経済の時代にあっても、人々が最終的に求めるのは「どこに所属しているか」以上に「どんな価値を生み出す人間なのか」です。SNSというツールを賢く使いながら、内定という“入り口”を活かし、自分ならではの価値を創造する――その先にこそ、“マウント”ではなく“成長”が待っているのではないでしょうか。


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