火曜日しばらく雑記帳・25:秩序と自分の再発見・フリーアドレス
一般に、事象の秩序づけられかたは事象が私たちの思考を満足させる度合にきちんと比例している。つまり秩序とは主体客体間のある種の和合である。それはもののなかに自分を再発見している精神なのである。
ベルクソン「創造的進化」p.266
■「この9月にオフィスのレイアウト変更を実施、完全フリーアドレスになり、新しい取り組みなのでバタつくだろうな」と私の知人がつぶやいていた。フリーアドレスというのは、オフィスで決められた自分の席がなく、空いている席ならどこをつかってもよい、ということだ。
私の勤め先では、ずいぶんと前からフリーアドレスだ。そして席の数は、そのオフィスに勤務している人の数よりも少ない。私自身は正確には把握していないが、70%とかそんなところではないだろうか。出張でいない人もいれば自宅勤務や年次休暇の取得者、ラボに詰めている人もいる。そして、今年になってから机の予約アプリが導入されている。だから問題はほとんどない。
実は、問題がない最適な割合にするように、チャンと専門の部門が毎日定期的に座席占有率をチェックしてフィードバックし、定期的にアップデートして適度な秩序が保たれるようになっている。
場合によっては節目節目でダイナミックに職場のスペースを増減するし、オフィス全体のレイアウトや設備、たとえば椅子や机、仕切りの在り方、外付けモニタ、雑談コーナーのしつらえ、コーヒーメーカやティーバッグ、ウオーターサーバー、電子レンジ、リフレッシュメントなど、生産性を高める職場がどうあるべきか、ローカルの事情や工夫を加味しつつグローバルで議論しながら職場を最適にすることをミッションとする独立した部門がある、そして、上手く機能していると思う。そして正解はただ一つ、世界中のどの国の拠点にいっても基本のコンセプトは同じ構成になっている。
フィンランド・オウルのラボにサウナが備えてあるからといって日本の六本木オフィスにサウナがある、というわけではさすがにないが、私はけっこう満足している。
1991年にパナソニック(当時松下電器産業)に入社してから数年間は、私のデスクの上にはたくさんの本やら回覧物や書類やらが山積みで今にも隣の同僚の机に雪崩をおこしそう、引き出しにもファイルや本やがらくたなどでいっぱいで開け閉めしにくいほどだった。組織変更で建屋が変わったり階が変わったりすると大変だった。主任となり主事となり参事となってデスクの左右に引き出しが増えれば、そのぶんだけ肥しとなる書類や書籍もさらに増えた。
皆、似たり寄ったりではあったけれど、本社の中央研究所のチームリーダーなどは、自分の好きなもの、たとえば飛行機の模型や出張の思い出のオブジェやガジェットなどで机をいっぱいに飾り、メンバーも思い思いに自由で伸び伸びとした雰囲気がいっぱいだった。
しかし、2000年、2010年、と、どんどん IT が発達していき職場の様子も変わっていった。社内ネットワークが部署ローカルで始まり全社へと次第に整備され、mail と電子ファイルでのやりとりがメインになり、共通サーバーでのファイル管理、と進むにつれ、私の持ち物も減っていった。職場で一番雑然としていた机だったが、いつの間にか娘と妻の写真だけが置いてある綺麗に整理された机となり、そして 2015年にNOKIAに転籍してからは、さらに減らして整理して、ついに社用のラップトップ一台とスマートフォンさえあればよくなった。
職場や仕事と個人の関係が単純になり、自分の中にあった会社や仕事が自分の外に分離して現れてくる。逆に仕事へのエンゲージメントやモチベーションがメトリクスとして現れ KPI とされていく。皮肉なものだ。
「中に住んでいる人」から「外から参画する人」への変化。「自分の内に持っている仕事」から「自分の外に切り出した仕事」への変化。
まぁ、そんな面倒で展開性もない考察はやめしておこう。自分の秩序は自分で作る。ともあれ、あんまりドライなのも味気ないが、やはり割り切って身軽なのが一番だ。
■先週、ココナツミルクで作ったチキンカリーはなかなかよい出来だった。ドライで殺伐とした世の中を渡っていくには、甘くて辛く、リッチで官能的な味が欲しくなる。
今週は京都の自宅に帰っているのだが、自宅近所のスーパーは鮮魚コーナーも充実していて、新横浜よりも具合がいい。昨日、妻と買い物にいったところ、綺麗なカマスが売っていたので、掃除と塩をしてもらい、焼いて食べた。
焼き物といえば、しし唐もシンプルに焼いたのが美味しい。鰹節と醤油で。
■先週に引っかかった音楽を少し。
1.Suad Massi (スアド・マッシ)の新しいビデオクリップが上がっていた。アルジェリア出身・ベルベル人でフランスを拠点に活躍しているという女性シンガー・ソングライターだ。
少しハスキーで哀愁のこもった力強い声が素晴らしい。
2.先週で一番印象的だったのは、ブラジルのシコ・セザールの "Bolsominions." 迫力だ。
他国の政治や政権のことをアレコレ言う立場にはないが、この歌がボルソナーロ大統領への痛烈な風刺であることは言葉がわからなくても、すぐに感じ取れる。歌詞はネットで検索すればすぐに出てくるし、ブラジルのポルトガル語に堪能でなくても翻訳ソフトで大意はつかむことができる。「ゴキブリの血と怒り、救われない」
レゲエ調で始まる前半部も鬼気迫る気合十分だが、2'40"から後半4分近くにわたって、西アフリカのコラのような弦楽器の音色でのソロが主導して盛り上がっていくのが聴きどころだ。チャールズ・ミンガスに通じる迫力だ。
シコ・セザールに関しては、デュオ・ジスブランコの記事でちょっとだけ触れた。一聴してこの人とわかる個性派ミュージシャンだ。
3.ジェシー・ウイルソンとアンジェリーク・キジョーのシングルがリリースされていて、なかなかよかった。"Rise Up!", 肩ひじに力が入りすぎていような気もするし、比較的単調ではあるが、音作りやリズムセクションがアフリカの土着の雰囲気がうまくマッチしていて、悪くない。アンジェリーク・キジョーの力の入った歌声がマッチしている。
ジェシー・ウイルソンのことは知らなかったので、少し調べて2019年のアルバムを聴いてみたらなかなかいい感じだ。
アフリカのベナン出身のアンジェリーク・キジョーについては、近々、別途記事に書こうと思う。
(2022/9/24 追記) さっそく記事にした。
4.リンダ・ロンシュタットの "Canciones de Mi Padre" 「私の父の歌」
私が愛する1987年のアルバムの復刻版だろうか。経緯はよく知ってないのだが、YouTubeのオフィシャルに先週になって上がっていた。
リンダ・ロンシュタットもまだ思いのたけを書けていない。おいおい、記事にすることになるだろう。
5.ヴァーノン・リードが率いるリヴィング・カラーの今年のリオでのライブがリリースされた。なんと、スティーヴ・ヴァイが加わっている。曲は懐かしい "Cult Of Personality." スティーヴ・ヴァイの縦横無尽の無双ソロもいつもながらエキサイティングで素晴らしい。もっともYouTube の動画では、ボーカルの動きが中心に編集・ミックスされていて二人のギターソロを存分に楽しめないように思う。
6.二人の希代のギタリストによるご機嫌なギタートリオから先週リリースされたシングルをふたつ。
アメリカからJulian Lage (ジュリアン・レイジ) の"Temple Steps"
スウェーデンからGustav Lundgren (グスタフ・ランドグレン)の "2021"
■ 台風14号が来て日本列島を横断していった。東京でも地下鉄が止まったり結構大変だったらしい。京都の市内では、台風が来る前の数日は雨が時折ざっと降ったり強い風が吹いたり不穏な雰囲気はあったものの、日本海を通過した夜遅くに結構降ったくらいで特に問題になるようなことはなく、よかった。
そういえば、人類最強ギタリストのヤマンドゥ・コスタが来日している。非常に残念なことに私は聴きに行くことができないが、SNSで本人が楽しそうに Facebook の story に投稿しているのを見て楽しんでいる。
この記事もちょっとアクセスが増えているようで嬉しい限りだ。
過去から未来へ長いスパンでの秩序を重視するか、今現在の瞬間の秩序を重視するか、双方のバランスを求めるのか。正解はないが、自分の態度は自分で決めればいいことだ。