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【雑記】夏の終わり

間もなく学生の夏休みも終わり、通勤電車もまた超満員になるのかと思うとちょっと憂うつだが、ぎすぎすした満員電車の中でもしばしば微笑ましい会話に出会ったりする。特に男子高校生の熱のこもったほとんど意味のない会話はおもしろい。

以前、夏休み明けの車内で部活仲間とおぼしき三人組のとなりに居合わせたことがある。

会話の内容から一人は引退した野球部の先輩、残りの二人は現役の後輩と思われた。先輩の方は長身で体格に優れ顔立ちも整っており、いかにもモテそうに見えた。

その先輩が、二人の後輩に向かって「9月は秋かな、夏かな」とかねてから温めていたらしい疑問を投げかけた。

後輩はにべもない。

「なにを言ってるんですか。9月は秋に決まってるじゃないですか」

「そうかなあ。だってまだ暑いし……」

「9月が夏だったら、夏は6月から9月の4ヶ月もあって長過ぎですよ」

「6月が夏っていうのも微妙な気がするけど……」

「反対に秋は10月と11月しかなくなっちゃうじゃないですか。12月は秋ですか?おかしいでしょ?クリスマスがあるんですよ!」

「うーん、でも……」

自身の腑に落ちない思いをうまく表現できないまま、それでも食い下がる先輩に、後輩の一人が窓の外を指差してピシャリとやった。

「見てください!『紅葉』ですよ。『こ・う・よ・う』。秋です!」

二人にさんざん責められたあげく、証拠をつきつけられてぐうの音も出ないといった体の先輩は、意気消沈してとうとう押し黙ってしまったが、ぼくが見る限りそれは紅葉ではなく単なる枯れ木だった。

指摘して先輩を援護しても良かったのだが、すぐに自分の降車駅に着いてしまい、果たせなかった。

(2015/8/31 記、2023/12/15 改稿)

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