【人事に効く論文】部下が創造性に欠けている? 上司のあなたが原因かもしれませんよ!
1. 3分で分かる論文の概要
インクルーシブ・リーダーシップと心理的安全性、そしてメンバーの創造的業務への関与度合いの関係について研究した論文です。知識集約型組織の研究開発部門で働く150名(女性が92名、既婚者が64%、平均年齢32.3歳、平均勤続3.7年。学歴は高卒が27%、大卒45%、院卒25%)からの調査回答に基づいて以下の仮説が検証され、すべて支持されました。
仮説①:インクルーシブ・リーダーシップは心理的安全性と正の相関がある
仮説②:心理的安全性は、創造的業務へのメンバーの関与と正の相関がある
仮説③:心理的安全性は、インクルーシブ・リーダーシップと創造的業務へのメンバーの関与との関係を媒介する
仮説➀は以前紹介したNembhard, I. M., & Edmondson, A. C. (2006)でも検証された内容です。この論文の新規性は仮説②と③にあり、パス図にすると以下の通りです。
2. 私的な解説/感想
メンバーの創造的行動にリーダーがどのような影響を与えるのか、数々の先行研究による示唆が論文内でいくつか紹介されていました。主だったものをピックアップしますとこんな↓感じです。
リーダーは創造的な行動(Jaussi & Dionne, 2003)およびイノベーション(Carmeli, Gelbard, & Gefen, 2010)の模範となることができる
リーダーは創造的な試みに必要な時間・資金・情報などの資源を提供することができる(Reiter-Palmon & Illies, 2004)
リーダーは部下を活性化し、創造的なプロセスにもっと参加するように仕向けることができる(Atwater & Carmeli, 2009)
リーダーは、創造的パフォーマンスに対する期待を示すことで、メンバーの動機付けに影響を与え(Carmeli & Schaubroeck, 2007; Redmond, Mumford & Teach, 1993; Scott & Bruce, 1994; Tierney & Farmer, 2004)、内発的動機づけを高め、創造的課題に取り組むエネルギーを養う(Atwater & Carmeli, 2009; Shin & Zhou, 2003)
創造的パフォーマンスと関連するリーダーの支援には、リーダーとメンバーの質の高い交流関係、メンバーの行動や意思決定のサポート、情報提供、助言、リーダーとしての信頼などがある(Amabile, Schatzel, Moneta, & Kramer, 2004; Atwater & Carmeli, 2009; Basu & Green, 1997; George & Zhou, 2007; Oldham & Cummings, 1996; Scott & Bruce, 1994; Tierney et al, 1999)
非管理的な監督やイノベーションの支援など、優れた上司との関わりがメンバーの創造性につながる(Hunter, Bedell, & Mumford, 2007)
リーダーは、チームや組織の風土を形成することで、メンバーの創造性に影響を与えることができる(Amabile, Schatzel, Moneta, & Kramer, 2004; Arad et al., 1997; Mumford & Hunter, 2005)
3. 読後の余談
この論文では調査が2度に分けて行われました。1度目はインクルーシブ・リーダーシップについて、2度目は心理的安全性と創造的業務への関与についてです。それぞれの質問も付録として掲載されていましたので興味のある方は参照してみてください。ちなみに、2度の回答を同一人物に紐づけつつ、回答者の匿名性を担保するために、母方の祖父母の名前を記入させたとのこと。そんな方法があるとは知らなかったので、興味深かったです。
2024年9月21日 初稿作成