13.商品の魅力を伝えるのは自分しかいないし、伝えるのはかっこ悪いことではない。
「良い商品がデザインできた」と商品にどんなに魅力があっても、それがお客様に伝わらないのでは意味がありません。使ってもらえればわかるという人もいますが、ではどうすれば試してみたくなるのでしょうか。ものづくり系クリエイターは商品を作るだけで、価値は見てもらえればよいと不親切な対応をしてしまうことがあります。口下手だから、プレゼンが苦手だからと敬遠することもあります。ほんとうにそれでいいのでしょうか?商品の価値を伝えることの大切さとその方法を知りましょう。
※ここでは小売店へのバイヤーに向けて書いていますが、直接お客様に販売している人は、バイヤーをお客様と読み代えてください。
テーマ19:バイヤーとのコミュニケーション
◆伝えることはかっこ悪いのか?
「デザインした商品を見てもらえれば売れるはずだから、ファッション雑誌に自分の顔が出るのはカッコ悪い」「新聞に掲載された記事を人に見せるのはカッコ悪い」「販促ツールでデザインの特長を説明するのはカッコ悪い」「頑張って売り込むのはカッコ悪い」「人に売り込みのアドバイスを聞くのはカッコ悪い」……。このような「カッコ悪い病」に凝り固まるデザイナーは、そんな小さなこだわりがどれだけ大きなチャンスを潰しているかに気づいていません。
デザイナーがこだわりを持つことには大賛成です。しかし、そのこだわりは、どうすれば商品のクオリティを上げられるか、ブランドのメッセージをどのように伝えればお客様に共感してもらえるか、どうやってブランドのファンを増やしていくかに注がれるべき。できるだけ多くの消費者にブランドの魅力を発信し、共感してくれる人や熱心なファンを作ることにこだわることこそが大切なのです。こだわりは自分のプライドを守るためのものではありません。
まだ世の中に知られてもいないのに、イメージにこだわってせっかくのチャンスやブランド価値を伝える努力を捨ててしまうのはもったいないと思いませんか? あれもこれもカッコ悪いと些細なことにばかりこだわるデザイナーは、バイヤーやマスコミにとってみれば、「売れてないのに、変にプライドばかり高い」「一緒に仕事をしづらい」人でしかありません。応援する気になるどころか、敬遠されるばかりです。
センスがいいうえに人当たりがよく、腰が低い人、商品にも人柄にも魅力がある人、自分の商品を一生懸命に売ろうと努力をする人、いいアドバイスを求めるために人に頭を下げられる人……。バイヤーやマスコミは、こんなデザイナーを応援したくなります。小さなことにこだわるよりも、まずは自分のブランドのよさをしっかりアピールしましょう。
◆デザイナーは自分の商品をプレゼンするのが仕事
ブランド開発の稟議、工場探し、バイヤーや小売店への売り込み、銀行への融資依頼など、いろいろな場面で必要になるのがプレゼンテーション。大手企業や一流企業ほど、プレゼンの準備には力を注ぎます。それに対し、手を抜いてしまいがちなのが、若手デザイナー。それでは、両者の差が埋まりません。
展示会でも、「見てもらえばわかる」と商品説明もせず、どれだけ自分がこだわっているかも話さないデザイナーがいます。果たして商品を見せるだけで、心を動かせるのでしょうか? 売れているブランドはしっかり説明していますよ。
ビジネスを始めてもうまくいかない原因のひとつは、自分の商品を伝えきる努力を放棄して人任せにしたり、販売に対して受身でいることです。不慣れだろうが、自分に向いていなかろうが、デザイナー本人以上に本気で売り込みたい人はいないはず。本人が本気にならないものは、ほかの誰も本気では売ってくれません。
デザイナーは自分のブランドをプレゼンするのが仕事と心得てください。
デザイナーの言葉がバイヤーに伝わり、それが販売員に伝わり、そしてお客様に伝わるのですから、デザイナーが十分に説明しなくては、何段階も先にいるお客様にまで価値が伝わりません。
◆コミュニケーション頻度
「対象への接触回数が増すと、好意度も増加する」。これは、ザイオンスの熟知性の法則や単純接触効果などと言われるものです。
これをデザイナーとバイヤーに置き換えると、
・年2回の展示会シーズンにしか顔を合わせないデザイナーよりも、
・月に1回お店に来てくれるデザイナーのほうが好意を持たれるということになります。
ビジネスにおいては、回数が増えればいいだけではなく、接触の質も大切。遅刻する、相手の名前を間違える、約束を破るなどは、たとえ接触回数が多くても逆効果です。
あるデザイナーは、新商品を出す展示会シーズン以外は、請求書発送や商品発送時に手紙を添え、感謝の気持ちを伝えます。ほかにも、お店の近くに行くとお菓子の差し入れをするデザイナーもいれば、バイヤーの仲良くなって飲みに行く人も。売れているブランドは、バイヤーとの接触回数を増やすために工夫をしていますし、良好な関係が作れるような配慮があるのです。
雑誌などで多く紹介されることよりも、バイヤーとの接触量を増やし、付き合いを深くするほうがビジネスに直結します。何人のバイヤーと接触したか、そのうち何人に関心を持ってもらったか、好意を持ってもらっているのは何人か、購買意欲が高いのは何人か。今の自分の状況を把握してみましょう。
◆相手の求めるものを提案する
売り込みに行ったショップで、なぜこの店に売り込みに来たかと聞かれることも多いのではないでしょうか。
売り込む立場だと、バイヤーに商品を発注してもらうことが最終目的のようになってしまいます。しかし、バイヤーや販売員の立場で考えて、売場に並んだその先をイメージすることも必要なのでは? 例えば、どうすればお店が売りやすいのか、どうすればお客様に購入してもらいやすいのかといったことです。
売り込みに行くときは、そのショップのどこにどの商品を置いてもらうのか、どのようにお店の商品と相乗効果を生み出そうとしているかを考えておいてください。
お店の品揃えをよく観察し、お客様の動きを見て、自分の商品はお店のなかでどんな役割を求められているかに想像を巡らせてみましょう。
来店客を集める商品なのか、季節感を出す商品なのか、お店の格を上げる商品なのか、売場のイメージを変える新鮮な商品なのか、ついで買いを誘いやすい商品なのか……。
モノを無理やる売りこむのではなく、お店が欲しいものを提供するという発想が必要です。
ブランドの説明も相手に合わせることが大切。無関心な人に関心を起こさせるための説明、関心がある人に内容を詳しく伝える説明、内容を理解している人に購買方法を伝える説明など、段階をしっかりと捉えなければなりません。
すでに関心を持っている人に対しては、適切な情報を与えることで購買意欲を高めたり、購買時の不安を減らしたり、競合との比較をクリアできます。
ニーズがある人には、情報を与えれば与えるほど購買確率は高まるでしょう。 もっともつらくて効果も低いのは、必要がないと思っている人を説得して売り込
むこと。売り込めば売り込むほど、相手が退いてしまい、しつこいと嫌われます。それよりは、欲しいと思っている人をどうやって見つけるかを考えたほうがいいでしょう。
相手の立場で情報を提供するのは、ビジネスの現場では必須のノウハウですし、相手を尊重するのは仕事におけるコミュニケーションの基本です。相手がどのような判断をするのかわからないのは、相手についての情報が少ないから。まず相手についての情報収集から始めましょう。
◆たとえ口ベタでも……
日本では以心伝心などといって、言わなくてもわかるのが美徳のように思われています。しかし、デザイナーは別。デザイナーが自分のブランドを主張しなければ、伝わるものも伝わりません。
何かを表現したい衝動に駆られる、○○を伝えたい、どうしても○○したい
……。このような表現したいというエネルギーが高まることで、話もできるようになるのではないでしょうか。言わずにいられないというくらいに情熱があるかが大切なのです。どうしても説明したい、どうしても買って欲しいという気持ちがあれば、どんなに口ベタでも相手に気持ちが伝わります。
また、口ベタだいう自覚があるなら、プレゼン時にはブランドの開発意図やこだわりのポイントなどをきちんとまとめたブランド紹介ツールを用意してください。加えて、商品の資料や実物の商品サンプルも必須。もちろんサンプルは、試し縫いのヨレヨレのものではなく、商品として流通できるクオリティが必要です。
準備をしていれば緊張して頭が真っ白になっても、手元の材料をきっかけに話すことができます。もっとも、これらは口ベタ・話ベタでなくても必要なものですが。
そして、初めて会う人へのプレゼンで緊張してうまく話せないときは、緊張していることを隠すのではなく、相手に伝えてしまうことで、相手にしっかり聞く体勢になってもらいましょう。緊張してうまく言葉が出ない状態であることを相手に理解してもらわないと、「この人の話し方は頼りないから仕事を依頼するのも不安」と感じさせる可能性が。緊張モードで話していると伝えることで、自分は緊張しながら話してもいいんだと落ち着き、相手はうまく話せないのは緊張しているからだと理解してくれます。
ただし、これは仕事を始めたばかりだから使える手ですし、内容がしっかりしたものを準備しているからこそ通用する方法です。
◆コラム 思いつきっぱなし
戦略を考えるときも商品を作るにときも、アイデアは必要です。しかし、 それが「思いつきっぱなし」ではいけません。
偶然ちょっとしたきっかけで思いついたアイデアを、自分では「これは 成功するに違いない」と思い込んで検証もしていない。そして、自分が一 番最初に「この素晴らしいアイデア」を思いついたのだと思い込んでいま せんか?
こういった場合、多くは市場性も客観的に調べていません。もちろん、 競合相手も。最近はネットで調べればすぐにわかるのに、その手間を惜しんでいるのか、そんな高度なテクニックを持っていないのか……。これでは、 まるで机上の空論。アイデアをカタチにしたら、すでに市場が競争激化状態になっていた。自分以外に欲しがっている人があまりいなかった。このような失敗パターンにはまってしまいます。
競争が激化しているならよほどの差別化が図れなければ購入してもらえ ませんし、自分以外にもその商品を欲しいと思う消費者がいないならそれ こそ売れません。ほとんど世の中に知られていない導入期の商品も、その 商品のメリットや使い方などを十分消費者に認識してもらわなければ売れ ないでしょう。この啓蒙のための宣伝コストがかかる商品は、小資本で起 業する場合にはあまり適していないといえます。
また、宣伝コストを十分にかけて、「さぁ売れるようになってきたぞ」と 思うタイミングで大手が低価格で参入するということもあるのです。
アイデアはおもしろくても、それは自分がやるべき仕事なのかもよく考えてください。特に会社や経営者の性格とまったく違う事業だったり、今 まで築いてきた実績を捨ててしまうようなものだったり、明らかにその会 社のレベルが事業を行うには不十分な場合は注意です。
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