メンタルヘルスビジネスの現在地点
新型コロナウイルスの感染拡大で自粛生活が継続したことで、生活様式も大きく変わってきています。
感染による社会的影響が明けてきた現在、多くの問題が顕在化してきています。
孤独感やストレスは精神疾患と密接な関係があり、社会問題である精神疾患の対応として重要です。
また、心疾患、認知症のリスク上昇なども関連があるとも言われており、メンタルヘルスケアは精神疾患以外でも重要です。
企業目線で考えると、雇用や生産性の観点からもメンタルヘルスケアは近年ますます重要になってきています。
今回はメンタルヘルス領域の全般的なことをお話ししてきます。
メンタルヘルス領域って??
メンタルヘルス領域は主要な疾患別に見ると、統合失調症、アルコール使用障害、双極性障害、うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害、物質乱用障害、摂食障害、その他の障害に分類されます。
疾患でなくても、マインドフルネスやコーチングを行うなど予防医療的な観点も市場として含まれており、企業向けのビジネスとしてはこちらをターゲットしたものが大きな市場があると考えられています。
具体的には分け方は非常に難しいのですが、以下のような分け方が可能です。
デジタルツールを活用する
テクノロジーを利用して、メンタルヘルスにおける新たなツール・治療法の提供に取り組むビジネスです。詳細な具体例としては、経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)による治療、経頭蓋磁気刺激装置(transcranial magnetic stimulation:TMS)による治療、VR/ARによる治療、チャットボットアプリケーション等を利用した認知行動療法に近い支援、プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)などがこちらに当てはまります。
サプリメントなど
今まであまり使用されてこなかった成分を利用したサプリメント、健康補助食品など食品系のビジネスです。具体的にはカンナビノイド、交感神経刺激性の成分などのものがあります。これらは日本国内では現状利用が難しい部分もあり、海外で盛り上がりつつある市場です
人とセラピスト、人と人を繋げる
いわゆるマッチングビジネスです。セラピストと治療を受けたい人(患者もしくは患者予備群の方)、治療仲間などをつなげていきます。対面 or オンラインで、患者となる人々をセラピストによるメンタルヘルスセッションにつなげます。具体的にはセラピー、コーチング、マインドフルネス、チャット相談サービス、などです。患者もしくは患者予備群の方どうしを繋いでいく、グループセラピー(悩みを話しあう等)などに取り組む企業もあります。
メンタルヘルスの市場性と成長要因
世界のメンタルヘルス市場は、拡大を続けています。World Health Organization (WHO)によると、世界中で約4億6000万人が何らかのメンタルヘルスの障害を抱えており、特にCOVID-19パンデミックの影響を受けて、この数値は増加傾向にあるとされています。
グローバルなメンタルヘルスソフトウェアおよびデバイス市場は、2021年時点で約20億ドルと推計されており、2028年までには約50億ドル規模に拡大すると予測されています)。
この市場拡大の背後にはいくつかの要因が存在します。
まず、メンタルヘルスに対する認識の高まりが挙げられます。社会全体でメンタルヘルスに対する理解と重要性が増しており、これが新しいプロダクトやサービスの需要を生んでいます。
利用者数の増加も市場規模拡大の大きな要因です。精神的疾患に罹患する患者数が増加していることに加えて、疾患予備群、マインドフルネスやコーチングの需要増加が追い風となっています。さらに、リモートワークの増加が、オンラインでアクセス可能なメンタルヘルスサービスに対する需要を高めています。
また、テクノロジーの進化も一役買っています。特にデジタルヘルステクノロジーの進歩が、オンラインでのカウンセリングサービスやメンタルヘルスアプリの普及を促進しています。
加えて、国家的な制度の後押しも理由として考えられます。例えば、アメリカの食品医薬品局(FDA)は、新しいメンタルヘルスアプリやデバイスの認可を積極的に行っています。日本の厚生労働省もまた、メンタルヘルスに関わる施策を多数推進しており、企業におけるメンタルヘルスケアの推進や、国民のメンタルヘルスのサポートを強化、企業へのストレスチェックの義務化などを行っています。
マネタイズモデルの分類
B to C
直接的なアプリケーションやデバイスの販売は、コンシューマーに対する直接的なマネタイズの形となります。一部のサービスやプロダクトは保険にカバーされており、費用は行政や保険会社から賄われます。
B to C to C
個人の心理士や開業医にアクセスを提供するプラットフォームは、個別のプロフェッショナルとエンドユーザーをつなぐ役割を果たします。プラットフォームは、カウンセリングやセラピーサービスのマッチングや予約システムを提供し、個別のプロフェッショナルには料金を請求します。
B to B to C
このモデルでは、プラットフォームが企業や保険会社を通じてエンドユーザーにサービスを提供します。ここでは、企業がプラットフォームを通じて提供されるサービスに対して費用を負担し、顧客や従業員に無料でアクセスを提供します。
B to B
ビッグデータやアナリティクスを活用して、企業が組織に対してストレスチェックやメンタルヘルスの指標を提供するサービスも存在します。これにより、組織は従業員のメンタルヘルスをサポートし、同時に生産性や満足度を向上させるインサイトを得ることができます。
B to B(G) to E
行政や企業がスポンサーとなり、特定のエンドユーザー、たとえば社員や住民に対してメンタルヘルスケアサービスを提供するモデルもあります。これは、公的な福利厚生プログラムや企業の従業員支援プログラム(EAP)を通じて実現されることが多くあります。
参考資料
World Health Organization. (2021). Mental health.
Grand View Research. (2021). Mental Health Software & Devices Market Size, Share & Trends Analysis Report.
Crunchbase. (2022). Mental Health Startups.
U.S. Food & Drug Administration. (2022). Digital Health.
厚生労働省. (2022). 心の健康づくり推進事業.