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先輩、会社を辞めた理由を語る

今日展示会の取材があった。朝9時から10時間くらいぶっ通しで立っててヘロヘロ。今週の日曜はまた別の取材。来週は月曜日から土曜まで仕事。おーん。

今日、定年退職した先輩と1年ぶりに会った。先輩は営業部で、僕は編集部だから、先輩が会社にいた時はそこまで喋らなかった。しかし僕は先輩の考え方が好きで、喋らなくても何となく信頼していた。表情とか、話すトーンとか、他人との距離感とか。会話を深刻にしすぎないように良いタイミングではにかんだり。

今日、取材中に立ち話をした。一眼レフを首から下げ、片手にメモ帳を持ちながら。

先輩はたまに僕の会社の雑誌を読んでる、と言った。それから「あの号の特集、●●くんのだろう。良い文章を書いてるね」と言ってくれた。

僕の性格上、褒められると素直に喜べないというか、「こんなんで褒めてるようじゃ、俺より上の人は全員作家だよ」と、子供じみた反抗心が湧くのだけど、この先輩が言うと嬉しかった。ストンと落ちた。心からそう言ってくれているのがわかった。その特集はもう半年前のやつだった。良いと思わなかったら、半年前の号の特集なんて誰も覚えていない。

その特集は僕としてもわりと書けたと思っていた。文章が上手く書けたということではない。その特集は8ページのカラーで、僕としてはそれだけの長い記事を、しかも写真を扉ページでドンと使って書くのは初めてだった。その記事は取材が終わって先方との二次会に付き合って、夜11時から書きはじめ、深夜の2時近くまで書いた。早く書きたいという気持ちがあった。書きたい気持ちを発散するように文章を書けたら、内容がどうであろうとそれはいい文章、というのが僕の考え。

その後、先輩は自分が会社を辞めた理由を語ってくれた。自分から語り出したのではなく、会話の流れが自然とその方向に向かっていった。

それは「(今の僕の会社の雑誌は)広告ありきの特集になっている。まずスポンサーを確保し、スポンサーが喜ぶような宣伝の記事を書く。それが嫌だったので辞めた」と言った。そして「これは内緒やで」とはにかんだ。

雑誌の記者をやってわかったんだけど、スポンサーの助けなしで業界誌をやっていくのは無理だ。印刷代、取材にかかる交通費をカバーできない。もちろん、先輩もそれは分かっていた。先輩は編集と営業部門を両方やっていたから、僕よりも出版社の経営について知っている。

それでも先輩は辞めた。定年と言っても小さな出版社に明確な定年などないから、続けようと思えばできたはずだ。よっぽど今の雑誌に期待ができなかったんだろう。

僕は先輩の辞めた理由がすごく自然で、また本心であることがわかった。面白い雑誌を作りたいという気持ち。先輩が会社にいた時はそんな話したことなかったので、ああ、やっぱりそういう考えだったんだと、今日答えわせできた気持ちになった。


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