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己の腐海を覗いた私たちは、ガーデンプレイスを未だ知らない
みなさんは、『耳掃除』をどのくらいの頻度でやっているだろうか。
昨今の風潮では、耳掃除は中までやるなと言われてる。
私もそれに倣って、外側は掃除するものの、中までの掃除はせいぜい2週間に1回程度だ。
さて、なぜそんな私が今、耳掃除の話をしているかと言うと、最近、耳掃除専門店に行ってきたからだ。
きっかけ
どうして、耳掃除専門店(以下、イヤーエステ)に行ったかというと、今年の夫への誕生日プレゼントがコレだったからだ。
夫に、「外食いく?」と聞けば、小食の夫は「うーん」と難色を示し、「何か欲しいものある?」と聞けば、「カメラのレンズ(30万)」と返ってくる。買えるか。
そんな、女子高生のように優柔不断な彼の誕生日プレゼントは何にしようか、と悩んだ結果、非日常の体験をプレゼントしようと思いついたのだった。
(単にエステだとつまらないな)
何か面白いの無いかと検索していたら、恵比寿で耳掃除と耳ツボを押してくれる店が出てきた。
しかも、耳掃除は内視鏡カメラを入れて中の様子を見ながら施術する、という言葉に俄然興味が出てくる。
そして、恵比寿。
ぶっちゃけ「ガーデンプレイス」があるっていう情報しか無い。
そもそも、ガーデンプレイスって何なんだろう。
東京駅の大丸みたいな感じで、オシャレな服とかお菓子とか売ってるのか。
関東に住んでいながらも、メジャーな駅とは無縁な生活を送っているので、恵比寿なんていう超有名所に行くだけでわくわくする。
「エステした後にガーデンプレイス行きたいなぁ」
行くと決まってから、ニコニコしながら事あるごとに私は呟いた。
無論フラグである。
いざ行かん、恵比寿
ウチは恵比寿から遠い。
子供を保育園送ったらすぐに電車に乗らないと予約の時間に間に合わない。
ワタワタと都会に似合う格好に着替えて電車に乗れば、早々、携帯で乗り換え案内を確認した夫は渋い顔をする。
「着いたら、割とダッシュしないと予約に間に合わないかもしれない」
まじか。わかってたけど、恵比寿、遠…っっ
悶々と、あと○分と表示される画面を眺めながら電車に揺られ、ようやく恵比寿に着けば、
「何口に降りればいいの!?」
「北!」
「東か西しかねぇよ!!」
と、田舎者丸出しで駅のなかを彷徨い、外に出て地図を見ながら、なんとか予約の時間に店に辿り着けたのだった。
都会、おっかない。
☆★☆★
「初めてですかー?」と、ニコニコとお姉さんズに出迎えられ、言われるままに歯医者にあるリクライニングするヤツの高級版みたいな椅子に座る。
雰囲気は普通のエステと変わらないが、違う点と言えば、目の前に小さいテレビがあることぐらい。
(これか…!)
コレに己の耳の中が表示されるのか。
バリウムを飲んだことはあるが、自分の内臓を見るのは初めてだ。
都会に尻込みしていた気持ちが吹き飛び、俄然ワクワクしてくる。
どんな風になっているのか。
「くしゃみはするな」とやたら書かれた契約書にサインして、横になる。
もう覚悟は決まった。私は今日、絶対にくしゃみをしない…!!
「準備、できました…!」
腐海
「じゃあ、まずお耳の中見てみましょうねー」
お姉さんの優しい言葉と共に、スルスルっと耳の中にカメラが入ってくる。
え……………きっったな!!!!
なんということだ。
耳の中には、黒い毛と耳垢がびっしりと詰まっていた。
形容し難い汚さ。これもう、腐海じゃん。
奥からこんなん出てくるわ。
うわーーーー。
こんな腐海を抱えて私は今まで生きてきて、かつ恵比寿なんていうオシャレな街を歩いていたというのか。
恵比寿で腐海、見ぃつけたっ❤️
なんて、東京バナナみたいに言ってみれば、
「わー、お前の耳汚いなぁ」隣で画面を盗み見た夫がカーテン越しに笑ってくる。
おまえ!!笑ってられるのも今のうちだぞ!!!
掃除する
「じゃあ、掃除するのに邪魔な毛、切っていきますね」
その言葉と共に、小さなハサミでジョキジョキと毛を切る音が耳の中に響く。
これがまた違和感半端ない。
普段耳の外で聴いてる音が耳の中でするんだ。
でも耳毛を綺麗にされるのは気持ちが良い。
「じゃあ、取っていきますねー」
お姉さんの声と共に、オイルが塗られた綿棒が耳の中に入ってくる。
………え?綿棒?
「あのう。取りにくいと思うので、綿棒じゃなくて、耳かきとか、ピンセットとかの方が…」
「うちは、掃除では綿棒しか使わないんですよ」
職人だ。
自分の仕事にプライドを持っている職人がいる。
軽率に「こんな装備で大丈夫か」と問うてしまった自分を恥じる。
もう、後は…身を任せるしかできない(そしてくしゃみをしない)
お姉さんは、慣れた手つきでくるくると綿棒を回し、びっしり着いた耳垢をこそぎ落としていく。(※以下、イメージ図)
こんなにびっしりとこびりついていた耳垢が…
ひとつ、またひとつと、削り取られ、
すっきりと綺麗に…!!
「すごい…!!風通りが良すぎて…右耳と左耳、貫通してるみたい!!」
芳一
イヤーエステの素晴らしさはこれだけでは無い。
コースにも寄るが、今回はたっぷり1時間コースにしたので、耳掃除が終わった後にマッサージも受けられる。
耳は、ツボが約350個も集まっている中々バカにならない部位。
ここを押されると己の悪い所も知れるし、マッサージされるのはとても気持ちいいいいいいいたい痛い痛い痛い!!!!
え。なにこれ。私、なんでこんなに耳引っ張られてるの?
人類でこんなに耳引っ張られるなんて、耳なし芳一以来じゃないのか。
お姉さん、私の耳を持っていっても、上様はお喜びにならないと思うんだ。
そして耳を引っ張るのをやめてツボを押されても痛い。
すこぶる痛い。ちなみに隣の夫は私以上に叫んでいた。
たかが耳ツボ。されど耳ツボ。
自分の健康状態を、こんな所で思い知らされるとは…!!!
終わってから
エステを終えて、恵比寿の街に再び戻った時、私たち夫婦は満足感と達成感に満ちていた。
それは、過酷な戦場を潜り抜けた兵士たちの顔にも似ていた。
「来年、また行こうね」
「ああ……耳垢を溜めて、また行こう」
耳を通り抜ける風を感じ、颯爽と恵比寿を歩く。
耳ツボを押されまくったことで、フェイスラインもすっきりとしたし、もう恥じることは何もない。私の耳は奥までピカピカだ。
そう。ガーデンプレイスにだって堂々と行ける。
………はずだった。
「ねえ、恵比寿駅直結してるこれ、アトレじゃない?」
「うん…アトレって書いてあるね」
恵比寿駅に戻ってきた我々は、アトレという看板を目の前にして茫然とした。
アトレ。
いや、アトレもウチの周りには無いんだけどさ。
地方にもあるし、都会にしか無いっていう感じじゃ………うん………。
そんな、微妙な表情を浮かべる私に、
ちょっと待って、と夫が携帯で地図を確認し、なるほどと頷いてから遥か彼方を指をさす。
「ガーデンプレイス、向こうのほうに見えるホテルの先だって」
まじか………お昼食べてすぐに電車に乗らなきゃお迎え間に合わないぞ。
そして、あの距離のガーデンプレイスに行って、迷わず帰ってこれる自信が無い。
つまり………
「もう、アトレでご飯食べて帰ろ」
「そうだな」
こうして我々は、己の腐海は覗けたが、ガーデンプレイスを未だ知らず、恵比寿を去った。
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