糖尿病の薬物療法(経口薬療法および注射薬療法)
糖尿病治療における薬物療法は、患者の状態や合併症リスクに応じて慎重に選択・調整されます。ここでは、糖尿病薬物療法の基本方針や治療アルゴリズムを解説します。
薬物療法の開始基準
糖尿病の薬物療法は、以下の場合に開始されます。
・食事療法や運動療法を行っても血糖コントロールが目標未達の場合
特に血糖値やHbA1cの目標値に到達しない場合には、薬物療法の検討が必要です。
糖尿病治療薬の種類
糖尿病治療薬は作用機序に基づき、以下の3つのカテゴリーに分類されます。
1.インスリン分泌促進薬
血糖非依存性
・スルホニル尿素薬(SU薬)
・速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
血糖依存性
・イメグリミン
・DPP-4阻害薬
・GLP-1受容体作動薬
2.インスリン分泌非促進薬
・ビグアナイド薬(メトホルミン)
・チアゾリジン薬
・α-グルコシダーゼ阻害薬
・SGLT2阻害薬
3.インスリン製剤
・超速効型、速効型、中間型、持効型など、患者の生活スタイルや血糖変動に応じて使用します。
薬剤の選択と使用の基本方針
1.開始時の観察
・血糖値やHbA1cの変化を確認し、患者の状態に応じて投与量を調整します。
特にSU薬は低血糖リスクが高いため注意が必要です。
・妊娠中や授乳中の患者には、インスリン以外の血糖降下薬は原則使用しません。
2.患者状態の安定性確認
・単に検査値を追うだけでなく、患者との対話を重視し、生活背景や服薬の問題点を把握します。
・合併症の進行が懸念される場合は、速やかに専門医と連携します。
3.注射薬療法の導入基準
・注射薬(インスリンやGLP-1受容体作動薬)の導入には、専門医の指導が推奨されます。
治療アルゴリズム
Step 1:治療薬の選択
患者のBMIを基に薬剤を選択します。
・BMI25以上の場合:インスリン抵抗性が主な原因と考えられるため、ビグアナイド薬やSGLT2阻害薬を優先します。
・BMI25未満の場合:インスリン分泌不全を想定し、SU薬やDPP-4阻害薬を選択します。
Step 2:既往歴の考慮
・高齢者:低血糖リスクの高いSU薬などの使用は注意が必要です。
・腎機能障害患者:ビグアナイド薬やチアゾリジン薬は禁忌となる場合があります。
・心不全患者:同様にビグアナイド薬やチアゾリジン薬は避けるべきです。
Step 3:臓器保護効果の考慮
・慢性腎臓病や心血管疾患を合併する患者には、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が有効です。
Step 4:服薬継続率とコストの検討
・患者の経済状況や服薬継続率を考慮し、最適な薬剤を選びます。
治療法の再評価
薬物療法開始後、約3か月後にHbA1c値を確認します。
・目標未達の場合:
・食事療法・運動療法の見直し
・薬剤の増量や変更、追加の検討
糖尿病の薬物療法は、患者の個別性を重視したアプローチが求められます。薬剤選択の際には、患者の生活背景や既往歴、経済的要因を含めて総合的に判断し、適切な治療を提供することが重要です。