アポリア
12月2日 快晴
8:02
方眼ノートに1・5ページ書いて
その後、車で出かける。
ねっちは、今朝もばっちりヘアメイクをして短いスカートで走って学校に行く。
しゅんは、食べようと思えば何でもある朝食を、歯磨きもうしたからいいや と食べずに学校に行く。平和だ。
今日は会社の方忙しそうだなと思いつつ、私は有給をとった。
父の認知機能検査に同行することにしたので、病院で両親と会うことになっている。
12月。
ここはまだ秋の景色。
運転しながら目に入る色づいた山々、その上の薄い薄い水色の空と雲、
遠くに見える淡い町、真っ直ぐ伸びた自動車道。
昨日読んだ小説のことを考える。戦争や内戦のことを考える。
運転中はよく考える。
自分が何かできるわけでもないと分かっているが、考える。
この前、私がプレゼンする前に、一緒にいた上司が自分の話をしてくれた。
大学院時代の論文発表の話。
「伝え方」の話から、論文の内容を私が聞いたものだから、
化学と物理のアプローチの仕方から、研究していたセラミックの話になり、
またその説明がとても分かりやすくて面白い。流石だ。
当然観ているものだと思って、
「セラミックってナウシカに出てきませんでしたっけ?」と言うと
『風の谷のナウシカ』は何回もテレビでやっているけれど観てないのだそう。
「だって、(ナウシカの話って)悲しいというか、辛いというか、あんまり よい話 ではないって分かるじゃないですか」
だから観ないのだそうだ。
そういう見方もあったか。
だとしたら、私は、悲しい とか 辛い とか あんまりよい話ではなさそう っていうものをたくさん摂取してきたではないか。自ら。興味があって。
何故?
そこを掘ってみている。
日に日にここの自然が景色が美しく見える。
日に日に愛おしくなる。
「こんなに見るもの見るものが美しいだなんて。もうすぐ死ぬんじゃないかと思った」と言うと、息子は笑う。
息子は大人になったので、小さな時のように、お母さんが死ぬ ということに怯えず、きちんと冗談にできるようになった。
車の中で、ヨルシカの『アポリア』が流れる。
うわっ
詩だ。
詩集の中にあるやつだ。紙の上の文字で読みたい 感じ。
少し
谷川俊太郎を思った。
「僕の体は雨の集まり
貴方の指は春の木漏れ日
紙に弾けたインクの影が
僕らの横顔を描写している」
「長い夢を見た
僕らは気球にいた
遠い国の誰かが月と見間違ったらいい」
「広い地平を見た
僕らの気球は行く
この夢があの日に読んだ本の続きだったらいい」
「あの海を見たら
魂が酷く跳ねた
水平線の先を僕らは知ろうとする
白い魚の群れをあなたは探している」
遠い国の誰かが月と見間違ったらいい で 涙がたまってきて
この夢があの日に読んだ本の続きだったらいい で 泣いてしまった。