Vol.3 ビールの製法について
※蘊蓄を語る上での基礎知識として簡易的なイメージを持ってもらう事を目的に記載していますので、正確性に欠けます。細かい本当の工程を知りたい場合は本やサイトで別途お調べください。
1.ビールの歴史
ワイン同様にビールの歴史は古く、紀元前4000年以上前には、あったと言われています。古代メソポタミアで人類が農耕生活をはじめた頃、放置してあった麦の粥に酵母が入り込み、自然に発酵したのが起源だという説がありますが、真意は定かではありません。
最古の記録としては、紀元前3000年頃にシュメール人が残した「モニュマン・ブルー」という粘土板があり、ここに当時のビールのつくり方が描かれています。その記録によると麦を乾燥して粉にしたものをパンに焼き上げ、このパンを砕いて水を加え、自然に発酵させるという方法だったようです。
製法に関しては後程、解説してきたいと思います。
2.ビールの原材料
すでに、1.で答えが出てきてしまっていますが、メイン(主原料)は『大麦』ですね。『vol.1 はじめに&『お酒造りの基礎知識』について』で記載しましたが、お酒の原材料は炭水化物、その中でもブドウ糖かでんぷんでした。『大麦』はでんぷんですので、ワインとは工程が微妙に違う事が想像できるかと思います。それでは、3.で『大麦(でんぷん)』から作るお酒の代表「ビール」の製造工程について記載していきたいと思います。
3.ビールの製造工程
①前置き
2.でも記載しましたが「ビールの製造工程」=「でんぷんから作るお酒の工程」となりますので、しっかり覚えておいて欲しいと思います。
◎『vol.1 はじめに&『お酒造りの基礎知識』について』の復習
・でんぷんは、そのままではアルコール発酵しない。
(イメージ:酵母は口が小さいのでブドウ糖がたくさん固まった大きいでんぷんは食べられない)
・でんぷんは、酵素で分解されるとブドウ糖になる。
(ご飯をずっと噛んでいると甘くなりましたよね。)
・酵母はブドウ糖を食べるとアルコールと二酸化炭素を出す。
上記を踏まえてお酒ができる工程をすごーくザックリ考えると
大麦(でんぷん)
↓ 酵素を加える
ブドウ糖
↓ 酵母を加える
ビール
と、なりそうですよね。そうだとすると
すごーくザックリでワインの工程との違いは何でしょうか?
そうです。大麦(でんぷん)をブドウ糖に変える工程が加わっているんです。ここで、シュメール人がやっていたビール作りを思い出してください。彼らは、
大麦を粉にする
↓ パンにする
パン
↓ パンを砕いて水につける
↓ 自然酵母がついてアルコール発酵
ビール
といった工程になっています。ここでは、麦(でんぷん)→ブドウ糖の工程を踏んでいません。麦を粉にしてパンにしているんです。という事はこのパンにするというのが肝なんですね。
パン作りを実際にやったことがある方は分かると思いますが、麦粉に水を入れてこねて焼いても、パンのようにフワフワした物にはなりません。恐らくクッキーのようなカチカチなものになります。
クッキーとパンの大きな違いは、「あのフワフワした感じ=空気が入っている」ことだと思います。ではあの空気が入っている部分はどうやってできたのでしょうか?
パン作りをやったことがある人はピンと来たと思います。そうです、パンの生地を作る際は粉と水を混ぜるときにイースト(菌)も一緒に混ぜましたよね。このイースト菌には2つ働きがあって
・麦粉のでんぷんをブドウ糖に変える(酵素的役割)
・ブドウ糖を食べて、アルコールと二酸化炭素を出す(酵母的役割)
を行っています。すなわちパンにすることで、でんぷんからにブドウ糖を作り出していたんですね。ちなみにパンの空気の入っている部分は、アルコールと二酸化炭素が熱せられることで膨張してできた穴だったんですね。
※ちなみにイーストは酵母の一種です。
恐るべきシュメール人の知恵ですね。科学的には分からなかったとは思いますが、麦はパンにすることでお酒になることは発見していたんですね!!
では、現在においてのビールつくりではどうしているでしょうか?ここまで来たら、恐らく皆さん疑問が出てきていると思います。
『パンを作らずにどうやって「でんぷん」を「ブドウ糖」にしているか?』
②大麦(でんぷん)をブドウ糖にするには?
それでは、麦をブドウ糖へと糖化する方法を考えます。自然のままでは、麦は麦のままなので、何かしたらの酵素が必要になります。ちょっと話が変わってしまうのですが、実は、動物も植物も細胞はブドウ糖からしかエネルギーを作り出せないんです。なんでこの話を最初に持ってきたかというと私たちが麦と呼んでいるのは、麦の種の部分なんです。種も成長するためにはエネルギーが必要ですよね。でも種はでんぷんで出来ているんです。という事はそのままではエネルギーを得れないんです。という事はでんぷんをブドウ糖に変える酵素を持っているはずなんです。
種はそのまま放置していて芽がでるでしょうか?
→出ません!! しかしながら水につけておくと発芽します。
という事は、「発芽している」=「エネルギー取れている」=「そこに酵素が存在している」になります。
という事で、水に大麦を漬けておきます。そうすると芽がでてきますがそのまま放置しておくと芽も伸び、根が出て、種の部分が無くなってしまいますので、途中で成長を止めなくてはいけません。その為に乾燥をさせます。発芽させる目的が酵素の獲得なので、発芽したらすぐに乾燥をさせて発芽を止めます。この芽が出た状態で成長を止められた大麦の事を麦芽(ばくが)と呼びます。
※なんかビールの宣伝でよく聞きませんか?麦芽100%モルツとか、実は、このモルト(malt)の意味が麦芽なんです。
という事で、この麦芽を作ることで酵素を得ることができました。では、この麦芽を粉にして水に漬けておくと何が起きるでしょうか?
麦芽に含まれる酵素が麦の「でんぷん」を「ブドウ糖」にかえていきます。結果甘い液体が仕上がります。
大麦
↓水に浸す
麦芽
↓乾燥させる
乾燥した麦芽
↓擦り潰して粉にして水を加える
麦芽水
↓放置 酵素がデンプンをブドウ糖へ変える
甘い麦汁(ブドウ糖が豊富)
はい、ここまできたらブドウ糖のジュースですから、ワインと同じですよね。ということは、酵母を加えるのが見えましたね。でも仕上がりの味を考えてみるとビールって苦くないですか? 甘いジュースから作っているのに苦いって… 赤ワインも渋みがありましたが、あれはブドウの皮や種からの由来でしたよね。大麦にはそれがありません。そうです、ビールには大麦以外の何かが加わっているんです。機会があったら、缶ビールの原材料を見てみてください。大体こんな物が記載してあると思います。
・麦芽
・ホップ
・その他(コーンスターチ、小麦etc.)
・水
このホップが怪しいですね。下の緑色した松ぼっくりみたいなのがホップです。こいつを入れているからあんな味わいが出ているのです。でもこの苦味のせいでビール嫌いっていう人も結構多いと思います。ではなぜ?ホップを入れるようになったのでしょうか?
③なぜ、ホップをいれるの?
恐らく、長い歴史の中で誰かが入れ始めたんですが、理由があったはずです。わざわざ材料増やすって面倒なはずですから。
では、入れない時には何が起こっていたんでしょうか?先程の甘くなった麦汁に酵母をいれてあげればアルコール発酵が起き、そのままビールになるはずですよね。しかしながら、それだけではうまくいかなかったのです。ワインのところでは割愛していた部分なんですが、一つづつ覚えるということで、追加の知識入れていきます。
酵母って、酵母菌と呼ばれる菌の一種なんです。それが活発にアルコール発酵を行なえる環境にあるということは、その他の菌にとっても快適な状況なんです。ですから、
酵母菌が活発=その他の菌も活発に活動=アルコール発酵以外の反応も活発
になります。すなわち当初想定していたアルコール発酵以外の発酵が起こります。発酵とは、人間にとって有益な反応のことを示し、有益でない反応をおこすと一般的には腐ると表現されます。納豆とかヨーグルトは人間にとって有益な腐敗なので、発酵といわれますが、そうでない現象については腐るになります。
では、腐らせないためにどうしたらいいか?
→有益でない菌の活動を抑制する必要があります。すごーく単純にいうと殺菌です。でも肝心の酵母が死んでは意味がないので、酵母以外の菌を抑制する物が必要となります。恐らく、過去にいろいろなものを試した結果ハーブが効果性が高いということに気付いた人がいてそれがスタンダードになったんだと思います。(最近のニュースでもありましたが、ホップは様々なハーブの中で殺菌力が最も強いものの一つだそうです。昔の人は凄いですよね、科学的分析でなく経験則の中からそれをきちんと見つけていたことは恐れ入りますね。)
結論、悪玉菌の抑制のためにアルコール発酵させる際にホップを添加していた
また、ホップを添加したことにより、苦味を加える、殺菌する以外に下記の効果もあることが分かっています。
・香りを与える (アロマホップというものもあります。)
・泡持ちを良くする
④製造工程
今までの事を踏まえて再度工程を整理すると
大麦
↓水に浸す(浸麦、発芽)
↓乾燥
↓根っこの部分を取り除く(除根)
麦芽
↓粉砕+温水加える、しばらく置く
甘い麦汁
↓酵母、ホップ添加(アルコール発酵)
出来立てのビール
↓寝かせる(貯蔵)
↓不純物を取り除く(濾過)
↓※1加熱殺菌 品質の劣化を防ぐための殺菌処理
↓ ( 昔は瓶に入れた後に熱湯のシャワーを浴びせていました。)
↓ 冷却
製品としてのビール
※上記の工程は正確ではありません。概念として覚えて貰えればと思います。
※1現在では、マイクロフィルターの性能向上により濾過の過程で、不純物や生きのこった酵母や菌がとりのぞかれるようになりました。よって加熱殺菌が必要なくなりました。
4.生ビールってなに?
最近色々なもので生〇〇って聞くと思いますが、こちらのもともとの意味は、『加熱処理をしていない』です。
という事は『生ビール』=『加熱処理をしていないビール』になります。よくあるのは、飲食店で提供される『ビールタップから出てくるビール』=『生ビール』だと思っている人が多いのですが、これは間違いです。
ちょっと先程の工程を思い出して欲しいのですが、かつては発酵後、不純物を取り除いた後に加熱殺菌をしていたと思いますが、この加熱殺菌処理をしてしまうと『生ビール』と名乗れなくなってしまいます。
先ほども※に記載していますが、現在ではろ過のフィルターの性能が上がった為、不純物や残っている酵母を取り除く事が出来るようになったため、この加熱殺菌処理が必要なくなりました。また、この加熱殺菌処理をしないことにフレッシュ感(キレ)を残したビールをつくる事が可能になりました。当社はこの加熱殺菌処理をしていないビールが少数派で業務用で提供していたこともあって、これまでのビールとの差別化で『生ビール』と呼んでいました。そういった歴史もあった為、『お店でタップから出てくるビール』=『生ビール』といった認識が出来上がっていきました。
一方で、工場の設備が入れ替わっていくと共にほとんどのビールが加熱殺菌処理を行わなくなりました。結果、現在では加熱殺菌処理をしていないビールが大多数を占めており、コンビニで買う缶ビール、瓶ビールも基本的には『生ビール』ばかりになっています。
現在では逆に昔ながらの味わいを出したいときにわざわざ加熱殺菌処理を行うといった事を行ったりもしています。キリンのクラッシックラガーなんかはそうやって作っています。興味のある方は、通常のラガーと飲み比べてみると違いが分かりやすいかと思います。個人的にはクラッシックの方がヘヴィーでどっしりした感じがあるかと思います。
5.ビールの炭酸
工程の中で触れなかったのですが、元々のビールの炭酸は後から加えているものではなく、発酵過程で生成される二酸化炭素が溶け込んだものです。
ただ、日本ではビールに炭酸の刺激を求めるので後から炭酸を加えたりもしています。あまり炭酸にこだわらない地域では、そのままで瓶詰めしています。
基本的にワインも同様に二酸化炭素が溶け込んだものができますが、タンクや樽での保管中に抜けてしまう為に炭酸を感じることはないです。
6.ビールの色について
ビールの色もライトな黄色から黒いものまで幅広くあると思います。最も色に関連するのが、大麦を浸水した後に乾燥させる工程がありましたが、ここの部分が大きく関連しています。乾燥させる際に熱風を当てるのですが、この際に焦げるくらいに色づかせると仕上がりのビールも黒くなります。(さらにコーヒー豆の様に焙煎させたりもしているものもあります。)ざっくりなイメージとしては
『ビールの色』≒『乾燥させた麦芽の色』
となります。
だから、黒いビール≒焦げた麦芽で作っているので味わいにほろ苦さや香ばしさカラメルの甘さが出ます。茶色いビールは、同様に軽く焦がした麦芽で作られていることが多いので、黒ビールと通常のビールの中間的な味わいになります。
※実際には黒ビールでも黒い麦芽だけで作るわけではありませんが、今回はイメージを持ってもらうためにそういった記載にしています。
7.まとめ
・ビールは4000年以上前から作られていた。
・ビールの主原料は『大麦』
・ビールの製造工程イメージ
大麦
↓水に浸す(浸麦、発芽)
↓乾燥
↓根っこの部分を取り除く(除根)
麦芽
↓粉砕+温水加える、しばらく置く
甘い麦汁
↓酵母、ホップ添加(アルコール発酵)
出来立てのビール
↓寝かせる(貯蔵)
↓不純物を取り除く(濾過)
↓※1加熱殺菌 品質の劣化を防ぐための殺菌処理
↓ ( 昔は瓶に入れた後に熱湯のシャワーを浴びせていました。)
↓ 冷却
製品としてのビール
・『生ビール』=『加熱処理をしていないビール』
・『ビールの色』≒『乾燥させた麦芽の色』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?