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言葉の壁を越えて~多言語社会における医療のあり方~

 高血圧は、生命予後に影響を与える疾患の一つであり、心血管疾患に対する修正可能な危険因子の一つでもあります(Whelton PK, et al. 2018;PMID: 29133356/Rabi DM, et al. 2020;PMID: 32389335)

 高血圧患者の有病割合(年齢調整)は、過去30年間で概ね安定している一方、その絶対数は約2倍に増加しています。高血圧患者の増加は、高齢化による影響が大きいと考えられ、世界における成人人口の約3分の1、米国の成人人口の約半数に影響を与えています(NCD-RisC. 2021;PMID: 34450083/GBD 2016 Risk Factors Collaborators. 2017;PMID: 28919119/Chobufo MD, et al.2020 PMID: 33447770)

 高血圧は、最も一般的なプライマリケアの受診理由の一つであり、世界における直接的な医療費の約10%を占めています(Finley CR, et al. 2018 PMID: 30429181/Gaziano TA, et al. 2009;PMID: 19474763)
 
 近年では、高齢化に加え、移民等の受け入れによる言語コミュニティの多様化が進んでいる地域もあります。
 米国では、家庭で使用される言語として、スペイン語が最も一般的であり、非英語圏の言語で62%を占めているという報告もありますSandy D, et al.2022
 単一民族国家と考えられがちな日本においても、外国人人材の受け入れが加速する中で、言語コミュニティの多様化が進みつつありることでしょう。そのような状況において、医師と患者の言語的ミスマッチはケアの質に小さくない影響を及ぼすはずです。
 
 今回の記事では、高血圧治療における医師と患者の言語的ミスマッチが、心血管予後にどのような影響を与えるのかについて、最新の研究結果をレビューしたいと思います。また、ソシュール言語学の観点から、言語的ミスマッチと健康状態の関連性を考察します。


多様化する言語コミュニティとSDHとの関連性

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