ちょっと待て確認してから叱ろうよ（標語？）

マユミは怒っていた

「せんせー！せんせー！来てー！」
いつまでも帰らないカオルの大声で

自宅で小さな学習塾を開いてる
近所の小学生が通ってくれて
細々と続いている

秋の夕方
外はもう真っ暗
あと一人、カオルが帰れば
今日の塾はおしまい

でもカオルはなんやかんやとおしゃべりをして
なかなか帰ろうとしない
学校の事
好きなスポーツの事
話したいことがたくさんあるらしい

でも、さすがにそろそろ帰ってもらわないと
お家の方と近くで待ち合わせしているらしいし
マユミが何度目かの「もう帰りなさい」を言った後に
カオルはようやく玄関を出た

やれやれ
マユミが玄関のカギを閉めようとしたとき
「せんせー！せんせー！来てー！」
外からカオルの大声が響いた

「ちょっと、いい加減に…」
マユミが声を荒げようとしたとき
変な声がしたような気がした
「ちょっと待て確認してから叱ろうよ」

なに？
しぶしぶマユミが外へでると
カオルが屈託のない声で
「せんせー　見てー　オリオン座！」
カオルの隣で空を見ると
東の空の低いところに
大きなオリオン座が光っていた
「きれいだね」
マユミはちょっと泣きそうになった

カオルはただオリオン座を
先生に見せたかっただけ
怒鳴って帰りを促してしまわなくてよかった
でも、あの変な標語はなんだったんだろう？

変な声の主、フリーの守護天使ろくおは
怒り出しそうな人の背後から6秒間話しかけるのが仕事です