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出張

夫はこの世を去ってしまったけれど、夫にやましいことはなにひとつなかった。
どうして私たちを残してこんな決断をしたのか、それは夫にしかもはやわからない。

そのかわり、私がはっきりと言えるのは、私は夫のことを愛しているということ。
これからも、ずっと。
彼はそれなりにモテたと思うが、残念ながらもう永遠に私の夫であり、浮気もできない身となった。
生きていた時も、私を大切にしてくれたし、なにより子供のことはものすごく愛して大切にしていた。

自死は残された人は、地獄だ。
夫が脱ぎっぱなしで出かけた、いつも通りのパジャマは未だ洗濯できずにたたんであるし、タバコの吸い殻すら捨てられずにいる。
あの日出掛けて行った、そのままの、彼だけが居ない家のまま。
出張にでかけたかのように、そのままに、残された私たちは暮らしている。

買わなくちゃいけないと思って買った仏壇や位牌を見ても、そこには彼らしさは全く感じられないし、墓石なんて無駄だったかもなーと思うほど、彼がそこにいるとは思えない。
死んでしまったことを受け入れられないまま。
コートや靴、服はもちろんのこと、趣味の道具もそのまま。
携帯すら解約できない。

いつ帰ってくるのかなー。
そんな気持ちで寡婦は毎日を過ごしている。

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