宿る目の私か。
痩けた頬の、長く伸びた髪を一つと束ね、シャツからのびる腕に、刺青の複雑な文様が入っていた。
おそらくは「躁」。
やたら上機嫌に話しかけるその男からの、芳しく葉っぱの匂いを嗅ぐ。
「ピザがうまい ピザがうまい 」
と執拗に、にへらと嗤う男に、誰もが(客も店員も)目を合わそうとはしなかった。
マルゲリータを貪り食い、痩けてうつろな男は、口の端を赤く、レジへとやってきた。引きずる雪駄の足にも刺青が見えた。
ポケットの皺くちゃな紙幣と幾らかの銭を、十字架の指輪をした片手でジャラリと据え。
「ありがとうございました」
と自動的に顔をあげて、はじめて男と目が合った。
にへらと嗤う顔が、ふいに真顔に落ち、人の目を、その奥を覗き込む。刹那。
「美しい目だ」
と呟き、なをも。
「孤独を知る目だ、
さびしいな」
そう言いおき、釣銭を十字架の指輪の手で掴み、自動に開くドアを出てゆく。引きずる雪駄の音と、葉っぱの匂いをのこす。微か。
覗き込む男の目を恐れてか、
見透かさた孤独を、
畏れてか。
さびしい目を、瞑る。頑な。
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