未来、予想図。
あーちゃんが、どうしても行きたいお店があると言って、今日は一日、二人で出かける日。
「たまには、かわいい妹のこともかまってあげないとだめだよ?おねーちゃん。」
二つ下のあーちゃんことあさみは、そうやって昔から上手に人に甘えていく。親戚のおばさんにも、近所のおじさんにも、ニコニコと愛想よく、スっと懐に入って可愛がられていた。屈託ないその笑顔。
「はいはい、かわいい妹ですからね〜。」
昔はよくケンカしていたけれど、大人になった今は、仲の良い友達みたいで、近ごろはあーちゃんの方が年上みたいな物言いをすることもある。
あーちゃんの行きたかったお店は、実家から電車で30分の、無人駅を降りたところ。長閑な田んぼや、豊かな林が広がる、林業が盛んな地域で、ちらほら見かけるのは木材屋さんや、木工製品のお店ばかりだ。
「わぁー、なんか癒されるねー。」
「遠足みたい。」
小さな立て看板を辿って、10分ほど歩いただろうか、かわいい丸太小屋の絵本に出てきそうなお店があった。
「かわいいー!」
「っね、かわいいでしょ!?」
「うん!あーちゃん、好きそう。」
「っね、好きー。」
入口のカウベルが鳴り、店内に入ると木の香りに包まれて、それだけでもう温かい気分になった。
「いらっしゃいませ。二名さまですか?」
「はい。」
「お好きな席へどうぞ。」
天井は吹き抜けで、クルーっとファンがゆっくりまわり、梁の木材には、麻で吊るした植木鉢からツヤツヤしたグリーンが垂れ下がっている。
私たちは奥の、窓際の席へ。
テーブルも椅子も、木製で角を丁寧に丸めた温もりのあるもの。窓から見える緑に、本当に絵本の中に入ってきてしまったように思えた。
「ここの、ワンプレートランチが有名なんだよ。」
メニュー表を見ながら、あーちゃんもワクワクしている。
「いらっしゃいませ〜、ご注文お決まりになりましたら、またお声かけくださいね。」
と、コトン コトンとお水の入ったグラスを置いたのは、ショートカットに緩くパーマがかかって、細身で、デニム地のエプロンをした、中性的な雰囲気の...おそらく声からして、女性だった。
「(ねね、あの人、かおるさんに似てない?)」
私も同じことを思った。かおるくんみたい…。
私は自家製ハンバーグ、あーちゃんはグリルチキンの、『お野菜たっぷりプレートランチ』を頼んだ。もちろん、食後のデザートもつけて。
私は思わず、かおるくんみたいな店員さんを目で追ってしまい、奥のキッチンにいるベージュのバンダナとエプロンの、優しそうな女性に注文を伝えるそのやりとりまで観察してしまっていた。
「ここ、女性二人でやってるんだって。」
「へぇ〜、そうなの...。」
カランカランッ...と、カウベルが鳴って、
「おぉーい!」と入ってきたのは、今まさに畑から帰ってきたばかりのおじさんで、竹かごにはナスやらズッキーニやらトマトやらがどっさり入っていた。
「わぁー、すごいっ!キレイなトマト!ヨシタケさん、いつもすみません〜。」
「形がアレでよぉ、出せんだわ、市に。」
「助かります、ヨシタケさんの作るお野菜は本当に美味しいですもん!」
ヨシタケさん、はニコニコして、カウンターに座り、それはいつものことのように、ほどなくコーヒーが出されていた。
「おまたせいたしました〜。」
『お野菜たっぷりプレートランチ』は本当にお野菜たっぷりで、キャロットラペやズッキーニのグリル、トマトはあえて常温で甘かった。
ハンバーグからジュワッと肉汁が出ると、思わず
「見て、あーちゃん、美味しそう!」
と、グルメ番組のインサート撮影みたいにフォークでそっと押したりして。
二人でひと口ずつシェアをして、あーちゃんのチキンも、ぷりぷりで美味しかった。
ちょうど食べ終わるタイミングで、
「デザート、お持ちしてもよろしいですか?」
と、かおるくんみたいな店員さんが来てくれた。
デザートは、ブルーベリーチーズケーキ、小さなシフォンケーキに生クリームとバラの形に切ったイチゴが添えてあった。
「かわいい!」
カウンターではしばらくおじさんが、かおるくんみたいな店員さんと、ベージュのバンダナの女性と冗談を言っておしゃべりしていたけれど、お客さんが1組、また1組と増えはじめ、
「よぉし、そろそろ。ほなな。」と帰っていった。
温かな雰囲気の、和やかなお店だった。
ホールとキッチンの二人のやりとり、あの空気感。何となく、そこには二人にしかわからない言葉だとかエッセンスみたいなものが交わされているような気がした。
「おねーちゃんとかおるさんも、あんな風にいられたらいいねっ。」
私の視線を、あーちゃんも気がついていた。
「...そうだね。」
🌳🌳🌳
ピコンッ!
ピコンッ!
ピコンッ!
ピコンッ!
りょうこさんから写真ばかりが送られてくる。
かわいい丸太小屋みたいなお店、緑の広がる長閑な風景、吹き抜けの店内、美味しそうなプレートランチ、あーちゃんの変顔、かわいいデザートプレート、そして、店員さんの横顔。
今日はあーちゃんとデートだと言っていた。
素敵なお店なんだろうな。
『いいお店ですねー!』
ピコンッ!
『かおるくんに早く会いたいっ。』
時々、僕は、
りょうこさんの話の脈略がわからない…。
『僕もです///。』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?