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ヌーブラは冷えている。
「こちらの商品、キャンペーン対象賞品となっておりまして、今ならヌーブラをお付けしております。えぇ、えぇ、寄せて上げる…。お付けしてよろしいですか?ありがとうございます。」
試着室で、黒のビキニと水陸両用ハーフパンツを装着して現れた次女は、日焼け前の夏女だった。
「似合うじゃん、いいね!」
『修学旅行In沖縄』のためのショッピング。
彼女が水着を着たのはかれこれ、パステルカラーのフリフリポップなビキニに、メッシュな帽子を眉毛スレスレまで被る、どこそこの市民プールが最後だったかもしれない。いまや、私よりも豊満なボディな彼女は、レディースの水着コーナーで堂々と選ぶ。センチじゃなくて、号数で。
三泊四日の修学旅行は、すべて私服で。
普段、制服及びジャージに統一された高校生にとって、『私服』というハードルは、それはそれは高い。
ダサくなりたくない。
ケバくもなりたくない。
キャラに見合ったイケてるコーデがしたい。
なんなら、動きやすい快適さもほしい。
(あわよくば、ギャップ萌えたらなおよし。)
そんな感じの『一軍』なコーデを買い揃えるべく、高速道路をすっ飛ばし、大きな大きなイオンへとむかう。なぜかムーディーに、セカイノオワリの「YOKOHAMA blues」が流れていた。
DAY 1
ヘソの出る丈のピタッと鮮やかなブルーの半袖に、白の、ボリューミーな薄手カーゴパンツ。
DAY2
編み編みネットの黒のトップスに、黒のキャミ、メタリックなグレーの軽いパラシュートパンツ。
DAY3
古着風グレーの丈短Tシャツに、ごつめな黒の二つ穴ベルトをアクセントに、グレーの色褪せデニムショートパンツ。
DAY4
niko and...の白のビッグロゴTシャツに、黒の細身スキニーは、彼女自身一番好きなコーデらしい。
rodeo crownsの、ななめがけバックで終始。
ピンクローズのグロスと、クリアマスカラ(くるんと上向きキープ)、ラメ入りアイメイク涙袋パレットもこっそり。
いいな。楽しそう。
絶対楽しいに決まってる。
沖縄だよ?ハイサイ!めんそーれ!だよ。
楽しいに決まってる。
ウキウキ準備をする時点で、こんなに楽しいんだから。
すれ違うカップルの「ちょりん♡」という言葉に、思わず振り返り、前後の会話が謎すぎて顔を見合わせて笑いこけたり。
抱っこ紐やマザーバッグをフル装備な母親の押すベビーカーで、スヤスヤ眠る赤ちゃんが天使に見えたり。
専門店街のレジごとで、頑なに強い意志をもってアプリを断ってみたり、現金で1円単位を払う気まずさを笑ってごまかしてみたり。
「所作がムリ!」と丁寧すぎる指先の男性店員さんに毒つく娘たちに、男の趣味を感じてみたり。
私たちは、いつも、ことごとく私たちで。
笑うポイントも、「好きそう」なものも、気になる仕草も、お腹が空くタイミングも、私たちすぎて楽しかった。
たっぷり買い物をして、帰ってきたあと、水着の袋にはプニプニしたペールオレンジの「ヌーブラ」を見つけた。
「ブニブニするー!」
「これキズパワーパットの水含んだやつみたい」
「冷やしておいたら気持ちいいかもよ」
「暗に『小さいですよ』って意味だったんかな」
「フツーに失礼じゃね?」
4日分の服たちのタグを取り、洗濯をする。
ヌーブラはもちろん、
冷蔵庫に冷えている。