夏のこどもみたいに。
ピタッとメッシュの帽子を被って、スチャッとゴーグルを装着する。ゴーグルは「装着」が似合う。「チャク」がしっくり。
空の青も、雲の白も、肌にさす日差しも、ヒェ~ってなる暑さも、すっかり真夏のそれで。
だから、いそいそとフィットネス水着と大判バスタオルをプールバッグにつめこむ。
「泳ぎにいかないと。」
三姉妹のうち、なぜか1人だけ
「スイミングに行きたい!」
と言い張って小学生の間だけ通っていた(バタフライを習得したらやめた)三女も連れて。
オマケに「俺も行こっかなー」
と、気まぐれについてきた夫も。
プール付き温泉へ行く。
そこには、ジャグジー付き歩行コースと、奥に遊泳用15mプールがあって、健康のために習慣として通っておられる水に馴染んだ身体の常連さんたちに加え、カラフルポップな水着の親子も何組かいて、すでに夏休みっぽい。
私と三女は、ガシガシ泳ぐ。
平泳ぎ、クロール、バタ足、ブクブクとズンズンと泳ぐ。水の中では、自分の鼻から息を吐く音、ブクブクブクブク…しか聴こえないで。
端っこのタイルの壁が見えてきて、タッチして、
「ブハァッー」と立ち上がると、お互いの顔を笑い合う。「ばぁ〜っの顔」だから。志村けんの、口から牛乳を「ばぁ〜っ」って出すあの顔。
ハァハァ息切れしながら笑う。
全然泳いで来ない夫は、早々に足がつっていて。歩行コースのジャグジーに打たれてたかと思ったら、半袖ラッシュガードに空気が溜まりに溜まって膨らんで、ベイマックスみたいになっていた。
誰?あの人…。 #どうでもいいか。
小さな男の子が、足がつくかつかないかで、メッシュの黄色い帽子がポカポカと浮き沈み、お母さんにコアラみたいに掴まる姿にほっこりして。
「見てて!」
と、真剣な女の子は、耳の後ろでピンピンに腕を伸ばして、バタバタと水しぶきをあげて進む。懸命な水しぶき。「ンパッ!」と立ち上がるけれど、ほんの3mくらいしか進んでいないことに不服そうな顔をしているのが可愛くて。
「泳ぐよ!いーい??」
と張り切る男の子に
「いいけど、息継ぎしないと死ぬよ?」
と言い放ったお母さんとは、友達になれそうな気がした。
たくさん泳いだ。
泳いで泳いだ。
塩素の匂い。
手足がふやけ、身体が冷えて、
そして、心からお腹がすいた。
私はこの気だるさが好き。
白いごはんと唐揚げが、食べたそばから染み込んで、エネルギーになっていく。ふにゃんとぺちゃんこの風船人形が、プクゥーと膨らんでくるみたいに回復していく。
満たされてふっくらしたお腹を晒し、温泉に浸かる。露天風呂の水鏡に、青い空と木々の緑が反射して、ゆらゆらと綺麗。
目を閉じて、身体のすみずみまで温める。
茹だらないうちに、湯から出て、風を浴びて。
ふと見ると、日陰にカプセルトイのフィギュアみたいなアマガエルがじっとこちらを見ていた。
小さな頃のお風呂場に、窓ガラスに張り付いたアマガエルを思い出す。ちょうどこんな夏のはじめ、ムンと湿度の高い風と青田の緑と、ひっそりといるアマガエル。
プールの後の気だるさと、空の青と雲の白。
木々の緑と、日陰のアマガエル。
帰ってお昼寝をしよう。
ほっぺたに床の跡をくっつけて、
夏のこどもみたいに。