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花言葉は愛の喜び

白のロンティーに、グレーのジョガーパンツで洗濯物を二杯干し、紫色のゴミ袋を片手にごみ捨て場へ走り、あぐらをかいて持ち帰った仕事をしていた。もっさんもっさんな頭。

家に、一人。

撮りたまった大河ドラマをかけながら、地味に細かな手作業をすすめる。

キーンコーンカーンコーン

12時のチャイムが聞こえ、IH用雪平鍋に湯を沸かし、ネギを刻み卵を落としたサッポロ一番塩ラーメンを、雷紋らいもんの中華丼に移す。白ゴマをふり、レンゲをそえて。

ふーふー。
ズズーッ!
うんまっ。

文庫本を読むとか、ラーメンをすするとか、あぐらをかくとか、ロンティーの首がダルんとしたおうちスタイルで。

「ごちそうさまでした」
と、手を合わす、一人。


12:45

歯磨きをして、白のテロテロやわらかな生地のブラウスを、ツルンと丸いボタンを二つ開けて、ゆるっと着る。ハイウエストに皮の縄ベルトをキュッと、ライトブルーのワイドデニムにふんわりINしたブラウスを、後ろは少し大きく弛ませて。耳にはゴールドの細いリングのピアス。
白の雫形ビーズをコロコロと揺らす。


ヘアアイロンを低温で、スーッと自然な内巻きにしてマッシュにふくらませ、前髪はちょっとだけ、ウザく降ろして。メイクのテカりをパフでおさえ、メリハリのあるルージュをさりげなく差す。

「うん、いい感じ」

ベージュのバッグを肘に、コツコツのパンプスを履き、ピピッと車のキーを開ける。


「キレイなお母さん」みたいでしょ。

学校へ行く私の任務は、「潜入捜査」。
ドラマで観る刑事みたいに、変装をして、細かに取り繕って潜入するのだ。

「いつも〇〇がお世話になっております」
と、しっとりと挨拶をして。

『中三向け高校説明会』
近隣高校六校による、各校の特色やアドミッションポリシーなんかを説明していただく。
昼下がりの講義の眠さに打ち勝ちながら、両膝を揃え、お利口に話を聴く。

なにせ「キレイなお母さん」中なのだ。

と、三校目の先生がマイクを持った途端、これヤバイ…と思った。

スーツのボタンがパツパツな小肥りこぶとりの男の先生が
「どぉも、こんにちはぁ」
と言ったその声色。それは、マツコ・デラックスさんとか、はるな愛ちゃんとかのそれだった。おネエだ…。

「何校もお話を聴いてらっしゃって、ちょっと疲れちゃってますよねぇ〜、ねぇ~。」
と続き、
「パンフレットをお配りしましたので、詳しいことはそれを読んで下さればいいかなと」
と、全然先の読めないことを言い出し、
「今日、覚えて帰っていただきたいことは、これです」
と、脇にツツジの花が咲いた校舎の写真がプロジェクターへ映し出され、
「この花、わかります?そう、ツツジです」
と和やかに続き、

「今日は、このツツジの花言葉だけでも覚えて帰ってくださいね」

お。  おん。。。

「ツツジの花言葉は、『慎み、節度』、
                              そして『愛の喜び』です♡」

#なんのはなしですか

ブフォッ!
とウケてしまい、何言うてんのこの人、と声を押し殺して笑けてしまって、涙出るほどヒクヒクしていた。
それなのにびっくりするほど、周りはいたって落ち着いており、静かで。
「うそん…」と焦ってチラッと隣の三女を見ると、肩をヒクヒクさせながら私と同じようにサイレントでウケていた。
よかった!
さすがわが子!

斜め前に座っていらっしゃった、綺麗系ママはピクリともせず落ち着いて座っていらっしゃったというのに。

私の「キレイなお母さん」の潜入捜査は、そんな反則みたいな、しゃべりのやたら流暢なおネエ系広報担当者の「愛の喜び♡」に寄ってボロが丸出しになってしまったのである。


「うちの学校の『噂』気になりません?」
と続けるおネエ系広報さん、

「うちの学校、公立高校なのに『来年なくなる』とかいう噂…知ってます?…内緒ですけどね…今日せっかくなのでお教えしますね…」

マイク越しに、小声になるおネエ系。

「こんなこと触れちゃいます?みたいな顔してらっしゃいますけど…言っちゃいますね」

と中学進路担当の先生にも目線を投げながら、たっぷりと間をとったかと思ったら


                                  

                                  「… なくなりませぇん♡」



いやいやいや 笑笑
たっぷりなんの間よ。笑笑
ほんで周りも笑ってないのに、込み上げてくる笑いと必死で一人ヒックヒックなって。
隣で三女も、ヒックヒックよ。
そらそーよ。

「せぇん♡」て何よ 笑笑
腹いてぇ〜笑笑

やっぱ、私、

「キレイなお母さん」なんて
やってられへん 笑笑








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