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腹パンに愛を込めて。


※腹パンとは腹部にパンチのこと。


後頭部が出ているのは私と同じで、首の細い、華奢な体つきだった甥っ子が、別人みたいだった。

高校の体育祭で、応援団長を務めた彼は、割れた腹筋で反り返りながら、枯れた声を空にむかって張り上げていた。

あんなにヘナチョコだったのに。

大きな音が怖くて、耳を塞いで縮こまっていた彼は、もうドンドンと打ち鳴らす太鼓を従えている。

人前に立つような役目を、一切拒んで引っ込み思案たった彼が、百何十人かの先頭に立って、一人大声で歌っている。

きちんと長く座っていることも出来なかった腹筋極弱、首細の姿勢悪すぎ男だった彼が、腹筋バキバキ細マッチョ男で華麗に側転をキメている。

宿題を広げたまま一向に手をつけない彼にてをやいて、家庭教師係を仰せつかった私が、彼にやる気を起こさせるため、ひらがなの「み」を、
「めっちゃ上手いやん!この『み』の字!!」
と褒めたとたん、ヤル気になりはじめた素直な褒められボーイな彼。
いまだに、私を見つけるとすぐに

「柊ちゃん!見て!」
「柊ちゃん!聞いて!」

と勉強やら筋肉やら髪型やらを見せてくる。

そんな、いつまでもかわいい甥っ子なあいつ。

あいつが...

応援団長

バチくそかっこよっ!!!


終わったあと、姉夫婦と一緒に見ていた私たちのところへ来たかと思ったら、

うぃーーーー!!

とせまってくるから、いつもみたいにバキバキ腹筋に腹パンしてやった。

いつでも褒めてほしいあいつだから、おばちゃん今まで褒めるべきところをいろいろ探して褒めてきたけれど。

今日ばっかりは、
丸ごとまんまを心から褒めたいと思った。

何かに一生懸命な人の眼差しは、

無条件にかっこいい。

まったく、本当に
涙もろくなってしまって困るや。


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