Yell note :Page68 リーディングライブ 『椿姫』感想
朗読劇ラスト。
マルグリットの手記のシーンにて。
マルグリット「2月5日…」
僕「……ん??!」
というわけで11月8日に荒井瑠里さんが出演するリーディングライブ『椿姫』を昼夜2公演観てきましたので、記憶がホットなうちに感想を書いていきますよ~。
※記事がアホほど長くなってしまったので目次をご利用ください。
1.参加イベント概要
・イベント名
イノセントギアカンパニー リーディングライブ 『椿姫』
・開催日時(参加した公演)
2024-11-8(金) 14:00~15:35頃
2024-11-8(金) 18:00~19:35頃
・開催場所
ブルースクエア四谷(東京都)
・出演者(順不同、敬称略)
荒井瑠里、成家義哉、滑川恭子、船木まひと、岩田裕耳
・syuの位置
(14:00回)1列目中央指定席
(18:00回)1列目中央指定席
・備考
公演期間としては11月8日~10日の3日間で各日キャストが代わるという形式でした。
2.本編感想
①あらすじ
前提情報として、世間で知れ渡っている「椿姫」の物語は大きく2つあるらしく、ひとつは今回の朗読劇の基となっている小説、もうひとつは原作者によって戯曲化されたオペラで、それぞれ登場人物の名前が違ったりします。
ちょっとややこしいんですが進撃の巨人(漫画)と進撃の巨人(実写映画)みたいな関係だと思ってもらえればよいと思います(よくない)。
今回の朗読劇は小説版を原作にしてわかりやすく脚色を加えた、とのことです。
時代背景としては19世紀中ごろのパリということで僕は世界史に疎いんですが王政→共和制→帝政…と目まぐるしく時代が変化しているあたり、と言えば何となくイメージがつきそうでしょうか。男爵とか侯爵という単語が頻繁に出てきました。
②作品全体の印象
ストーリーは何かしらの謀略があったり胸熱な冒険があったり、というわけではなく、アルマンとマルグリットのすれ違いを中心とした純粋な人間ドラマでした。
むしろ大掛かりな事件が起こったりしたわけではないからこそリアリティを感じさせてるというか、現代と時代背景が違っても人間関係の難しさは誰しもが共感できる話だったと思うのです。
だって誰もが携帯端末を持っていていつでも連絡を取り合える現代社会の人々ですらすれ違ってしまうのだから、なおさら。
昨日愛を誓った人が今日も同じ気持ちだとは限らない──というのは時代を問わずということなのでしょう。
作品の構成としては最愛のマルグリットを喪ったアルマンが語り部に彼女との思い出を話すというオープンエンド形式になっていて、そういう意味でもストーリー的な意外性というのは無かったのですが「結末がわかっているからこそ」の無常感がずしりと両肩に積み重なってくるような感覚でした。
アルマンがマルグリットのことを疑ってしまう気持ちもよくわかるし、マルグリットがアルマンのことを想うが故に自分を犠牲にしようというのも十分に理解できる。だからこそ、だからこそ二人には限られた時間を幸せ過ごしてほしかったのに!というやるせなさ。
お互いがたくさんの愛の言葉を交わして、体を重ねて、なのにマルグリットが「高級娼婦」という業を背負っているが故に、それらの思い出がアルマンに対する彼女の愛とその絶対性を彼に証明し得ないという皮肉。
身分であったり職業であったり二人の心とは別の要因が関係を拗らせていく様は見ていてとても心が揺さぶられました。
序盤の方ではちょっとコミカルなシーンがあったりしたので、観劇後のメタ的視点だと「あの頃はよかったな……」と1時間半前に思いを馳せたりしたものです。いや、話の重さ的にアルマンも武勇伝の前フリみたいな雰囲気出してる場合じゃないぞ…!
そしてたまによくわからん固有名詞(「マノン・レスコー」とか劇場の名前とか)が出てきましたけど、基本的に前知識やら文学の教養が無くても理解できる話になってたのはありがたかったですね。
2回観たからこそ序盤の競売シーンの意味合いも大きく変わってくるので、そういう気づきもあちこちに散りばめられていました。
3.各役者さんの感想
①マルグリット役・荒井瑠里さん
マルグリットの最期のシーンから暗転しても、劇が終わってお客さんの拍手が鳴り響いても、彼女の「助けて……!」という慟哭がしばらく頭の中でこだましていました。そんな後味。
「メラビアンの法則」という学説があるように人を判断する要素って見た目の印象がかなり大きいと思うんですけど、マルグリットが登場した時の実在感たるや!
初登場シーンでは台詞は無かったのに豪奢なドレスの着こなし、アルマンへの思わせぶりな表情や仕草、舞台袖に引っ込む時のツンとした気位の高い横顔など、マルグリットが有名な高級娼婦であるという印象を客席に与えるには十分過ぎるほどでした。
個人的に「今日は目元のグリッターがバチバチにキマってんな…」とか思ったりしてました。近くで見てたので眼力すごかった。
原作や脚本を読んで荒井さんがマルグリットをどのように解釈したかはわかりませんが、マルグリットという役柄を演じたと言うより、「マルグリットという人物を再現している」とか「荒井さんの体を通してマルグリットが話している」と錯覚させられてしまうくらい、言葉や振る舞いの端々に血が通っていました。
それはマルグリットの愛に対する飢餓感によく表れていて、彼女は娼婦として多くの男性から求められている反面、自分を純粋に愛してくれさえすればいいと望んでいました。しかし一方のアルマンは彼自身を愛しか持っていない(=経済力や身分が足りない)と評価していて、そのすれ違いを上手く言葉にできないマルグリットを見ているのがとにかく辛かった…。
そしてアルマンが自分のために全てを投げ出すと言ってくれた時、マルグリットが一瞬嬉しそうな表情をしたものの自分の浪費癖や借金について自虐的に語るシーンが印象的でした。一途な恋する乙女になり切れない彼女の心境が口調だけではなく目線や口角の動きまでこだわり抜かれていたと思います。
自分の生き方に倦んでいて悪い意味で達観してしまっている。そんな彼女を変えてくれたアルマンへの恋心がどれほど煌めいていたか、とかそんな想像。
一番の見せ場でもある手記のシーンでは孤独と病に追い詰められていくマルグリットの姿があまりに悲痛で、「喀血が止まらない…!」という独白のあたりから僕は両手を全力で握り締めてたので劇が終わる頃には手汗がものすごいことになってました。
それまでの「アルマン様」という呼び方ではなく「アルマン」と彼の名を呼んだマルグリットは一時でも純粋に愛されて幸せだったのか。それともその愛を手放さなくてはならない自分の運命を呪ったのか。正直今でもわかりません。
けれど愛に生きたマルグリットの美しさと鮮烈さは見ていたお客さんの記憶に強く残ったと思いますし、荒井さんが主演として舞台に立ったこの作品を観ることが出来て本当に良かったです。
高級娼婦という言葉のイメージからすると毒や棘は控えめな感じでしたがその分だけ艶っぽさマシマシだったので、それは荒井さんらしさを残して、ということだったのかもしれません。
②アルマン役・成家義哉さん
マルグリットからの「どれくらい愛してくださる?」という質問に対し「際限無く」という答えは素直にカッコよかったです。僕も言ってみたくなりました(いつ言うねん)。
そんなキメるところはキメるアルマンは純朴かつ素朴で猪突猛進型の青年。平安時代の貴族かっていうくらい行動力がバグっている。普通にストーカー案件な気もしなくはないですが、マルグリットを射止めるためにはそれくらいの強引さが必要だったのでしょう。
マルグリットと出会って二日足らずで男女の仲になったのは彼の優しさや真っすぐさがあってこそですが、マルグリットから裏切られたと思ってからの豹変はその感情の大きさ故でした。愛憎という表裏がこれほどまで明確にひっくり返る展開も珍しい。
第三者の視点からすれば「なんでマルグリットを信じてやれないんだ!」と憤りもあったりしますけど、恋に落ちるまでの期間が短すぎて信頼を築くどころじゃなかったですし、何より嫉妬や自信の無さで相手を信じられなくなるとか誰しも一回くらいはあるじゃないですか。なのでアルマンの気持ちがわかってしまう自分もいたんですよね(身に覚えがある…)。
成家さんが演じたアルマンは不器用だったけれどマルグリットに対してとにかく一生懸命で、彼女を幸せにしてやってくれと内心でずっと応援していました。
最後のシーンでは成家さんの顔は涙で濡れていて、アルマンがマルグリットをどれほど愛していたか、自分の行いをどれほど後悔していたか一目で伝わってきました。
③プリュダンス役・滑川恭子さん
プリュダンス・デュヴェルノワってめちゃめちゃ噛みそうな名前してる、というのが最初の印象。
滑川さんは序盤の競売シーンでも別役で強烈なインパクトを残していましたが、「娼婦向けの帽子屋」でありマルグリットの友人であるプリュダンスについてはマルグリットやアルマンとの微妙な距離感──友人未満知人以上──を上手く表現されていました。
プリュダンスはとにかく現実的な女性で、数々の娼婦を見てきた経験からなのか、愛や恋が人を救わないとでも言いたげな人物でした。
アルマンに対しマルグリットがどういう境遇で生きているかを真正面から説いていましたし、「鎖で現実に縛られている」という台詞はよく憶えています。そういう突き放した言い方は冷たくもあったけれど、もしかしたら彼女なりの優しさだったのかもしれません。
ガストンとのアダルティなやり取りも含め酸いも甘いも知る大人の女性という振る舞いでしたね。マルグリットの家財を売っていた時はどういう心境だったのか容易に読み取らせないのもさすがと思いました。
④アルマンの父役など・船木まひとさん
結局船木さんって何役担当されてたんでしたっけ…??
オークショニア、アルマンの友人その1その2(ガストン)、エヌ伯爵、アルマン父…の5役で合ってますか?
とにかく記憶が怪しくなってくるくらい様々な役を演じた船木さんでしたが、印象的だったのはガストンとアルマン父との振り幅でしょうか。
船木さん自身はかなり大柄な方で、優に180cmはありそうなシルエットはガストンの時は陽気でチャーミングに、アルマン父の時は威厳たっぷりな雰囲気に活かされていました。
後日行われた船木さんと滑川さんのツイキャスも視聴させてもらい話題にも出てましたが、他のキャストさんとかなり身長差があるのでマイクの角度調整が大変そうでしたね。例えば荒井さんとは30cmくらい違ってたと思いますし。
アルマン父は娘の結婚のことを切り出したことで直接的にマルグリットとアルマンの仲を引き裂いた……と言えなくもないですけど、親という立場を鑑みればそれも止む無しと理解はできますし、マルグリットの職業を敬遠してただけで人間性そのものには一目置いていたんじゃないかなと思ってます。領収書のくだりとか筋を通す人はむしろ好ましいと感じてそう。
⑤語り部役・岩田裕耳さん
導入部の登場人物がそのまま語り部になるという演出もなかなかオシャレだな~と思っていたのですが、特筆すべきは岩田さんの技術。競売の時はアクの強そうな人物を演じていたのに、本筋に入ってからは各シーンの雰囲気を作り出す語りが素晴らしかったです。
何より岩田さんの声を聴いているはずなのに、小説の文章がそのまま脳裏に浮かんでくるというか「この人、脳内に直接語りかけてきてる…?!」と思ってしまうほどでした。BGMならぬBGV(バックグラウンドボイス)。
各登場人物の掛け合いについても岩田さんの語りによってテンポが作られていたので、キャストさんたちもやりやすかったのではないでしょうか。特にアルマンが闇落ちしてしまうシーンなどは岩田さんの低音ボイスと相まって一気に陰鬱なシーンになっていました。
物語において主張せず、阻害しない。なおかつ登場人物の感情の動きをより際立たせるという意味で本当に理想的なナレーションでした。
それにしても文章量もかなり多く発音の難しい単語が頻出していたはずなのに、全く嚙まなかったのがすごい。当たり前と言えば当たり前なのかもですけど没入感にかなり影響しますからね。
4.まとめ
以上、僕が観た初日公演の感想を述べさせていただきました。
2日目、3日目はそれぞれキャストさんが異なっているのでどんな感じだったかが気になります。特にマルグリット役の方々。
Xに掲載されていたビジュアルを見た印象だと大庭すみ花さんはかなり気合が入ってそうでしたし、豆咲りおさんは10月のグリム姫(のカエル)からガラッと役柄が変わりますし。ゲコ。
海外の古典文学というのは滅多に触れる機会が無いのでとてもいい経験になりました。キャストのみなさん、関係者のみなさん、そして観劇されたみなさんもお疲れさまでした!
5.宣伝
「シャミ子が悪いんだよ」(言ってない)で有名な漫画「まちカドまぞく」および同アニメが2025年1月9日~15日で舞台化されるらしく、荒井さんがアンサンブルキャストとして出演するそうです。
原作がコメディな内容なので「椿姫」とはうって変わって荒井さんの独特かつ個性的な動きが見れる…かもしれません!チケットの先行抽選が受付中です。間に合わなくなってもしらんぞーっ!!
すれ違い続けようが何だろうが僕にできることは変わらないので、
マルグリットの言葉をそのままお返しします。
「今さら誓う必要なんてないでしょう?」、と。