マンガ体験記『銃夢』『銃夢 Last Order』木城ゆきと
今回はようやくマンガについて語るぞ!
どういうフォーマットで書こうか悩んでいたのですが、ぶっつけ本番の探り探り。
記念すべきマンガ回第一作目は木城ゆきと先生の『銃夢』『銃夢 Last Order』初読レビュー。
サイバーパンク好きなので気になっていました。実写映画も悪くなかったし。
本編画像を掲載しますが、法律に則った引用を遵守します。
というか何か言われたら消します……。
著者について
木城ゆきと先生は67年生まれで、世代的にはオタク第二世代なのではないかと思います。『銀河鉄道999』、『ガンダム』、『スター・ウォーズ』などを観て青春時代を過ごしたようです。
そしてSF者として気になるのが、海外SF歴です。
『ガンダム』のモビルスーツが、ハインラインオマージュであることを即座に見破るほどなので、50年代のハードSFにはそうとう親しんでいる節が伺えます。
『銃夢』の主人公ガリィが、『虎よ!虎よ!』のガリィ・フォイルからきていたりとか。(本人は無意識だったそう)
ですが途中でSFは非人間的すぎて飽きてしまったらしく、時期で言うとニューウェーブSFが流行ったころでしょうか?
そこらへんの影響は受けていないようです。
ベアの『ブラッド・ミュージック』で再びSF熱が戻ったと、どこかに書いていたような気がするのですが思い出せません。
デビューは84年の少年サンデー。17歳という早熟さ。
『銃夢』掲載までの半生は、Web日記のような形で読むことができ、これだけでも
ドキュメントとして、かなり面白い。
『銃夢』
まず『銃夢』の方から。大まかに五つの章があります。
マカク編
“クズ鉄町”でサイバネ医師をしているイド・ダイスケが、空中都市“ザレム”から廃棄されてくる瓦礫の山で、一体の少女のボディを見つけるところから、物語は幕をあける。
イドはトルソーのみだった少女にサイボーグの全身を与え、ガリィという名前をつけた。
ガリィは自由な体を与えてくれたイドに、恩義と愛情を感じる。
クズ鉄町では女性サイボーグを狙った連続殺人が発生中だった。
イドは、自分の体を治すために、高価なボディを見繕ってくれた。でも、これはどこで手に入れたものだろう? まさか……。
実写映画でも描かれていたエピソードで、ガリィがハンター・ウォリアー、賞金稼ぎとして戦いの世界に足を踏みいれるまでが描かれます。
イド先生に拾われたばかりのガリィは、記憶がなく、無垢な少女です。
肉体には、機甲術と呼ばれる格闘術が仕込まれており、その強力な戦闘力だけが自身の過去を示すものだった。
ジェイソン・ボーン状態です。
木城先生の担当編集が「(『カムイ外伝』の)“飯綱落とし”みたいな必殺技持たせよーよ。」という一言を発し、生まれたそうです。
パンツァー・クンストというドイツ語読みは、松本零士の洗礼を受けたかららしい。
なんにせよ、ハッタリが効いてカッコいい。
士郎正宗+白土三平な感じだろうか。
なのでガリィに、自分が何者なのか知りたい、イドの役に立ちたいという思いが芽生え始めてきます。
さらにガリィは、富裕層が暮らす空中都市ザレムから落ちてきたという存在なので、貴種流離譚でもあるわけです。強力な神話のプロットですね。
相棒役であるイド・ダイスケも、悪者かと思いきや、善人。と思いきや…? という二転三転する筋書きの妙と合わさって、キャラ立ちがいい。
さてハンター・ウォリアーになったガリィは、狂気のサイボーグ「マカク」と死闘を演じ、ボディを破壊されます。
イドは悩んだ末、テラフォーミング戦争時に使われた、狂戦士体を、ガリィに移植します。
マカクを打ち倒したころには、すっかりタフな戦士に変わっているガリィ。
数話でこの変貌ですよ。
初見で感じた『銃夢』の面白さの一つが、章をまたぐたびに主人公ガリィのパーソナリティがガラッと変わってしまうことです。
サイボーグであるが故に、パーツの変換=肉体の変化が、精神の変化となり、揺らぎやすいアイデンティティを持たざるを得ない感じが、的確なSF的視点として刺さりました。
マカクというのも、掃き溜めで生まれた哀れなフリークスだったりするので、泣かせる。
舞台設定についてですが、木城先生が上記のような言葉を残しています。これに思い至らない作り手は結構多い。
作品世界を象徴するヴィジュアルイメージとして、ザレム、クズ鉄町は見事にハマっいる。
ユーゴ編
クズ鉄町にすっかり居ついたガリィはユーゴという少年と出会い恋に落ちます。
しかし、ガリィはあまりに強力なサイボーグ体なので、周囲のものを傷つけてしまう。ガリィの悲恋が描かれます。
ユーゴ少年は、クズ鉄町で金を稼ぎ、空中都市ザレムに行くことを夢見ますが
、現実は容赦無く夢を打ち砕き、ガリィを絶望させる。
モーターボール編
新装版『銃夢』の裏表紙には、「絶大な人気を誇る『モーターボール』編開幕!」とありますが、ここがファンの間では人気エピソードということでしょうか?
なんとびっくりする展開ですが、失恋したガリィは孤独なレーサーと化して、モーターボールという命知らずなサイボーグレースのルーキーとして活躍し始めます。
思えば、こっから無口なキャラになっていく……。
イドは失踪したガリィを取り戻そうとするのですが、ガリィはレースに取り憑かれていて離れようとしない。
そこで、最強のモーターボールチャンピオン、ジャシュガンのバックアップとなり、ガリィと対峙することに。
ジャシュガンは無敗の英雄ですが、実は脳改造を施して無茶な力を手に入れた男で、刻々と死期が迫っています。
それでも無様な最後は晒すまいと、誇り高くレースで死のうとします。
みんな…ジャシュガンの死に様を見てくれ……。
かっこいい死に様というのを久々にマンガで見た。神なった男のために。
一方ガリィのバックアップには、かつてジャシュガンのライバルとして腕を競った男、エスドックが控えます。
ドーピングのせいで末梢神経凍結症に陥ったエスドックは、すっかり落ちぶれ、モーターボール界から忘れられています。
ガリィに自らの夢をたくすことで、魂の再生をかけた勝負に挑むのです。
ロマンチズム溢れる展開で、屈指のアツさなのは確かです。
ザパン編
ジャシュガンとの決闘後、ガリィはモーターボールは自身の居場所ではないと感じ、引退してしまう。
そしてその後クズ鉄町に戻って、なんと酒場のミュージシャンになって慕われているという変身ぶり。
しかし平穏は長く続かず、ユーゴ編でガリィに屈辱を嘗めさせられたザパンという男が、発狂し襲いかかってきます。
一度は退けるものの、ザパンのボディを、シリーズ屈指の人気キャラ?、ディスティ・ノヴァ教授が、バーサーカー・ボディを使って復活させてしまいます。暴走したザパンは、イド先生を殺し、クズ鉄町に襲いかかります。
慕われていた町の人から、「疫病神!」と謗られ、それでもガリィはクズ鉄町のためにザパンと戦う決意をする。
後でも言いますが『銃夢』シリーズは集英社とセリフの規制で揉めて、打ち切りになります。
ザパンに対する『発狂』とか『サイコ野郎』といったセリフが、精神障害者に対する偏見を助長するからという理由のようですが、僕が手にした講談社版では、元に戻っているっぽいです。
詳しいことは著者のWEBで確認してください。
TUNED編(バージャック編)
ザパンとの戦いで、銃器を使用したガリィは、クズ鉄町の法律によって処分されることに。
しかし、空中都市ザレムの地上監察局から取引を持ちかけられ、「TUNED」と呼ばれるエージェントになります。
イドを殺したノヴァ教授を追って、ザレム落としを計画するテロリストの首魁バージャックとの戦いになります。
ガリィは今度、戦闘狂みたいなキャラになっています。
TUNED編のハイテク秘密兵器を操りつつ、任務を遂行するエージェントみたいなのが一番好きかも。
ソケット兵も好き。
こういう倫理ガン無視の描写こそSFって感じでいいですねー。
いったん『銃夢』はここで幕を閉じます。
『銃夢 Last Order』
そして問題のラストオーダー。
またまた破壊されてしまったガリィは、今度はザレムで目覚めます。
ノヴァ教授が、「ザレム人の秘密」を暴いてしまったために、都市は混乱をきたしていました。
ガリィはTUNED編で立場を超えて自分を庇ってくれたザレム人のオペレーターであり友人、ルウを探すことにします。
ルウはとっくに死亡していましたが、生身の脳は生きていて、ザレムよりさらに上、軌道エレベーターで繋がっているイェールという都市の中央電脳「メルキセデク」に接続されていることがわかります。サイコパスのシビュラシステム状態です。
ガリィは彼女を救出するため、イェール、宇宙へと向かい、「ZOTT」、森羅天頂トーナメントと呼ばれる格闘技大会に出ることになります。
読み間違いではありません。格闘技大会に出ます。
初めはただ陽動のために出場して、裏でこっそりルウの脳みそを取り返す算段だったのですが、大会優勝者は独立国家権を勝ち取ることができるということで、しだいにクズ鉄町、ザレムの独立をかけた戦いになっていきます。
途中、カエルラという吸血鬼が出てきて、読み間違いではないですよ、吸血鬼が出てきてガリィと戦うのですが、こいつの過去編が途中で挟まって、ザレム、イェールが生まれた経緯が語られます。ハードSFなのに勢い余って吸血鬼とか出てきちゃう闇鍋感、好きです。賛否ありそうだけど。しかもナノマシンで不死になったとかじゃなく、マジで吸血鬼なの。
ZOTTの予選を勝ち抜いて、決勝に進むガリィたちに立ちはだかるのは、宇宙空手連合というチームです。宇宙空手連合。
そのうえ、全宇宙空手道連盟(UKF)と太陽系空手道連盟(SSKF)まで参戦し始めるので、会場はこうです↓
なーにが、カラテ大戦争だ。
信じられないことですが、本格SFを読んでいたら、いつの間にかトンデモ空手漫画になっていました。
最終的に、手の平からブラックホールを発生させたり、お腹に加速器を仕込んで、反物質を拳に込めるキャラとかが、空手とかぬかしています。
とにかく超テクノロジーのオンパレードすぎる。『三体 死神永生』規模の空手試合をするな。
それでも、宇宙空間における格闘術とはどんなかとか考察している箇所もあって、そういう想像力には素直に感心しました。
空手にしても、サイボーグ化で身体が機械化したとき、格闘術というものはどう変化するかという極めてSF的な関心も一応あるのですが。
にしてもブッとびすぎだろ。ラストオーダーはトンデモSFとして磨き上げられている。
決勝戦が終わった後、エピローグとも言える地上編が始まるのですが、この時初めて、無印『銃夢』のキャラが活躍し始めます。
ラストオーダーでは、無印のキャラをほぼ切り捨てて新展開をするので、ガリィといい感じの仲になったフォギアとか、イド先生、コヨミちゃんのエピソードがようやくここで読めるのです。なんで初めからこっちをやらないんだ。これを読みたかったんだよ。
単行本のバージョン違いについて
これから『銃夢』シリーズを買おうという人のための情報です。一応残しておきたいと思います。
『銃夢』はトラブルがあって集英社から講談社に移籍した漫画で、複数バージョンの単行本があります。どれを買えばいいのか混乱します。
ぶっちゃけ僕もよくわかっていません。
僕が読んだのは、講談社版の『新装版 銃夢』全6巻と、同じく講談社版の『銃夢 Last Order New Edition』全12巻です。この二つが現状最新のコミックスなので、これを買っておけば間違いないと思うのですが……。
講談社版の『新装版 銃夢』には、集英社版のコミックスに含まれていた外伝三本が収録され、どうやら確認できていませんが、結末がラストオーダーにつながるよう、差し替えられているようです。結末の変更は集英社の愛蔵版かららしいです。
ラストオーダーは、まず集英社のコミックスが15巻出ていて、そこで打ち切りになっています。そして奇妙なことですが16巻から講談社がコミックスを出していて、19巻で完結します。
そしてこの集英社、講談社の両コミックスをまとめたのがNew Editionと銘打たれた新装版みたいです。
New Editionには、巻末に木城ゆきと先生の初期短編もおまけでついているので、よっぽど理由がない限りNew Editionが無難でしょう。
短編は1〜7巻に
『飛人』
『大・魔神』
『怪洋星』
『未来東京HEADMAN』
『気怪』
『宇宙海賊少年団』
が収録されています。おそらくかつて出版されていた短編集の内容だと思います。
読み切りといえば、飛浩隆先生オリジナル原作の『霧界』!
コミックDaysのポイントが足りず、読めませんでしたが、めちゃ気になる…。
追記:読みました。めっちゃJGバラードっぽい。(2024年1月13日)
現在はコミックdaysで『銃夢 火星戦記』というガリィの前日譚、プリクエルをやっていて、他にも『銃夢 外伝』という短編集もあるようです。
よく確認してからの購入推奨。
あとがき
絵に関してのレビューも別個に項目を作って書いたら面白いかな。よく考えんとな…。
『銃夢』の絵に関しては、木城先生が17歳のころから卓越した技術を持っているおかげで、正確なデッサン力があり、ラストオーダーにかけて次第に大友タッチに寄りつつ、デジタル技術も開発していったという感じに絵柄の変遷が窺えます。
グロテスクな描写とかもあるのですが、デッサンが整っているのでエグい感じまではいかない。ラストオーダーになるとさっぱりした画面になっていくので、なおさらそう感じました。
メカや背景描写の緻密さは申し分なく、世界観の構築はリアルです。しかもデザインが大友先生以前のマンガのセンスなのが面白い。
あと士郎正宗ほどじゃないですが、設定の注釈がコマの外にまで書き込まれていて、適宜内容を補ってくれるというのも特殊な演出でしょうか。
まだマンガのレビューの書き方、考えあぐねてるので、ごちゃごちゃした文章になっちまったなー。ディティールとかも語り落としが多いし。水星だけナノマシンの海になってたりとか、火星に逃げ延びたナチスの残党とかいるんですよ。笑
無印『銃夢』は誰にでもおすすめできるSFエンタメバトルマンガになっていて、ラストオーダーはトンデモSF闇鍋マンガという感じです。チャレンジャーは是非。