記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『ルックバック』『ハケンアニメ!』から誘われる【京アニ事件】

『京都アニメーション放火殺人事件』は日本にとって多大なる損失


京アニ事件の真相

2019年7月18日に発生した京都アニメーション放火殺人事件(京アニ事件)は、白昼、建物内にガソリンをまいて火をつけるという、稀にみる凶悪な犯行だった。
しかも、多くの若いクリエイターの働く場が標的になったこと、そこは日本を代表するアニメ制作スタジオだったこと、そして結果的に、36名が死亡、33名が重軽傷を負うという大惨事になったことで、日本中に大きな衝撃を与えた。

本書は、事件発生から、犯人逮捕までの期間に書かれているものであるため、事件の結末までは描かれていない。
しかし、2024年(令和6年)1月25日に判決公判が開かれ、京都地裁第1刑事部(増田啓佑裁判長)は求刑通り、被告人Xを死刑とする判決を言い渡されている。
同地裁は判決理由で、Xの事件当時の責任能力について検討し、Xは事件当時は検察側の主張する「Xは妄想性パーソナリティ障害に罹患していた」という主張を退け、弁護側の主張する妄想性障害に罹患していたことを認定した上で、Xの性格傾向については「独善性、猜疑心が強い、怒りやすい、攻撃行動をしやすい」という傾向があると認定した。その妄想が「京アニを攻撃しなければならない」という動機の形成に影響したことを指摘し、犯行を思いとどまる能力が多少低下していた疑いは否定できないと判断した。

しかし京アニに「小説を盗用された」と思い込み、「やられたらやり返す」との考えから京アニへの報復を決意し、「言っても無駄だ」との考えから抗議などの合法的な手段を検討せず、また「盗用」を知らない従業員も全員連帯責任を負うものとして、京アニ従業員全体を狙った大量殺人ないし放火殺人という攻撃手段を選択した――というXの考え方は、X自身の経験に基づく、Xの攻撃的な性格傾向と一致するものであり、そこに妄想の影響はほとんど認められないと判断した。

また放火殺人を「よからぬこと」と考え、「良心の呵責」から犯行直前に逡巡していたことや、自己の行為が犯罪に当たるという認識を前提とした合理的な行動を取っていたこと、京アニへの放火殺人を考え始めた2018年11月から約8か月間にわたって犯行を思いとどまったりしていた点などから、善悪を弁別する能力、およびその弁別に従って行動を制御する能力は有していたと認定した。

『ルックバック』『ハケンアニメ!』を見たことで事件の内容を改めて見直すきっかけとなった

私事で恐縮であるが、最近になってはじめて『ルックバック』という作品を拝見した。
これは、アマプラにおすすめ映画としてあげられていた為であるが、これによって『チェンソーマン』という作品を知るきっかけにもなった。
『ルックバック』は漫画も購入して、映画と何ら変わらない内容に満足しては、何度も読み返している。
先日、『ルックバック』に対して、感想をブログにしたためたことでも、そのことは理解していただけると思う。

その後、とある古本マルシェで知り合ったクリエイター仲間の方からおススメされて、『ハケンアニメ!』という映画を拝見した。
『ハケンアニメ!』は、辻村深月さん原作の小説でも知られている。

この二作を見ることになったのは、まったくの偶然であるが、この二作品を見たということに言いようのない【縁】を感じたのだ。
奇しくも、『ルックバック』に描かれているのは、この事件をモチーフにしているともいえる内容である。
一緒に漫画を描いていた大切な人を、空からたらいが降ってきたような偶然の出来事(事件)によって失ってしまう。
喪失感とかけがえのないものを失ったことによって、何も手につかなくなるようすが描かれているが、まさにこれは、京アニ事件の被害者遺族の心境ではないかと思う。
おそらく原作者の藤本タツキさんは、この事件に心を痛め、そうした被害者遺族に励ます意味も込めて、この作品を描いたのだろうと想像させる。

一方の『ハケンアニメ!』は、まさにこうしたアニメーターやアニメーションスタジオに疎いわたしのような人間には、京アニの日常を切り取っているような描写に胸が締め付けられる思いで見ることになった。
もちろん、映画は素晴らしい。
その素晴らしさは、これもまた先日のブログで書いている。
しかし、このブログの内容が、日ごろ書いているブログよりも文字数的にも内容的にも、薄い記事となってしまったのは、この京アニ事件のことが頭から離れないままこの映画を観てしまったからである。

この、京アニ事件の書籍を読み切ってから思ったのは、京都アニメーションという会社の素晴らしさだった。

京アニクオリティ

1981年(昭和56年)に創業した京都アニメーションは「京アニクオリティー」と呼ばれる高い品質によって国内外でも人気を得ていた。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『氷菓』『Free!』
こうした作品の素晴らしさが語られていて、京都アニメーションが今まで成し遂げてきた作品作りに対する情熱や素晴らしい技術をもったスタッフを養成してきた会社の仕組みにまで言及している。

京アニは、日本の“アニメ文化”や空前の大ブームとなっている“聖地巡礼”の先駆けをつくった会社でもあるとも書かれている。
こうした、以前なら【オタク文化】として特別視されてきた業界全体の、イメージを押し上げたと言っても過言ではない。

【仕上げの京アニ】と言われていたほど、アニメーションの最後の仕上げをさせたら、右に出るものは居ないほど、丁寧な仕事ぶりだったということまで書かれている。
スタッフには女性が多かったのだが、その理由として福利厚生のしっかりした会社であることが挙げられている。
ブラックで、男性が多かったアニメ業界において、この功績は多大なるものである。
どんな業界でも、女性が活躍する業界は伸びると言われている。
男性だけの閉ざされたアニメ文化を、広く一般にも受け入れられる文化に育て上げたことも、功績としてたたえるべきだろう。

そうした内容が間違いないのは、以下に上げている個人の方のブログにも書かれているため、この根強いファンを獲得していることからも、京アニがいままでアニメーションという業界にもたらした功績というものがお分かりになるだろう。

“京アニ”が誇る!《アニメ界最高峰の美しさ》とは? | EMMARY(エマリー) by TeamCinderella

今回、この京アニ事件のことを知ることになったのだが、この本を読んでよかったと思ったのは、何より京都アニメーションという会社のことを知れたことだ。
この会社は、一朝一夕には成し遂げられないほどの努力を積み重ね、小さな【仕上げ専門】の会社から【自身で作品を生み出す】ほどの会社にまで育て上げた。
その背景には、スタッフの教育や日々の作品に対する情熱などの、昨日今日では成し得なかったことに対する努力がある。

わたしも、今日という日を大切にしよう。
そう思える一連の、作品たちだった。
『ルックバック』『ハケンアニメ!』『京アニ事件』
こうした本に関われた方は勿論、こうした本を読むことができたご縁と、京都アニメーションで被害にあわれた方をはじめとする、京アニにたずさわられた多くの人々に感謝申し上げたい。

いいなと思ったら応援しよう!

尾崎コスモス/小説家新人賞を目指して執筆中
とっても嬉しいです!! いただいたサポートはクリエイターとしての活動に使わせていただきます! ありがとうございます!