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わたしが何度も読み返す本
パスカル『パンセ』は思想、思考のかたまり
ブレーズ・パスカル
パスカルの父が、人生をかけて教育を施した。
数学で力を発揮したが、28歳のとき父が他界して以来、哲学に目覚めた。
39歳で亡くなるまで、数々の思索を残したが、それをまとめて本にしたのが『パンセ』だった。
※パンセとは……フランス語で思考、思想のこと
パスカルのパンセは再読の友
わたしは昨晩、ニーチェの『ツァラトゥストラ』を読みました。
本棚にある本を、ランダムに手に取って、就寝前に読むことが毎日の日課なのです。
ニーチェは言っていることはわかるのですが、どうも考え方が暗くって苦手です。なんとなく、ツァラトゥストラ自体がニーチェ自身の心の叫びのように書かれていることが、原因であるように思います。
ツァラトゥストラのとなりに、パンセが置いてあるのですが、パンセはずっと愛読している本です。
パンセが好きだからと言っても、ツァラトゥストラをパンセと比較して、「劣っている」と言っているのではありません。
いま現在もっている『パンセ』は中公文庫から出ている2020年の改版3刷ですが、初版は1973年ということで同い年であることも勝手に共感しているだけかもしれません。
しかし、本書『パンセ』はなんど読み直しても、心に直接届く気がしてなりません。
少しだけ内容の紹介
昨晩読みふけっていたのですが、パンセやツァラトゥストラの良いところは、「どこから開いても読める」点にあります。
哲学書として読むことも可能ですし、思考を巡らせるための材料としても活用できます。
そんな『パンセ』を、今、パッと開いたところをご紹介してみたいと思います。
三〇一
力。
なぜ人は多数に従うのか。彼らがいっそう多くの道理を持っているからなのか、いな、いっそう多くの力を持っているからである。
なぜ人は古い法律や古い意見に従うのか。それらが最も健全であるからか。いな、それらが、それぞれ一つしかなく、多様性の根をわれわれから取り除いてくれるからである。
「多数に従うのは、多数の方が力を持っているから」
多くの場合はそうであることの方が多いはず。
多数に従っている方が、安心なのだ。戦わなくてもいいのです。
そんな理由で選択していることも多い上に、力を見せつけていきたいという、人間の欲望まで垣間見える文節となっています。
昨今、「多様性」という言葉を耳にするようになってから、たいへん多くの時間が経過しましたが、まさに「多様性」の対義語に当たるものが「しきたり」なのかもしれません。
古くから伝わっているきまりや、意見などは、時代と共に古くなっていくことが当たり前だと考えられます。
それにもかかわらず、古くから伝わってきたものを大切にするのは、おそらく考え方の軸を持つということなのだと思うのです。
考え方の軸
スタートラインが無くては、スタートすることができません。
それは、いかなるものも例外はなく、考えるという行為に関しても、スタートラインがあってはじめて、巡らせることができるものなのです。
考え方の軸、それがすなわち「古くから伝わっていること」なのであれば、わたしたちは過去の先祖たちが歩んできた道のりから、改めてスタートすることができます。
人生という、たった7~80年の短い人生の中で培った知恵や知見を、本という媒体に書き写して、それを祖先にあたる私たちが読んでいる。
それによって、先祖が人生をかけて見つけた「生き方」から、わたしたちはスタートすることができるのです。
これこそが、考え方の軸となって、道徳や倫理という形でも残っていきます。
多様性というのは、それらを無かったことにしてしまう力があるのです。
つまり、多様性というものを尊重すると、「今まで見てこなかった視点」で物事を見ることになっていきます。
それは、古くから伝わってきたものを、否定する意見になることもあるのです。
何代にもわたって守ってきた古くから伝わる知恵や知見を、否定してしまうことになっていくことに、多くの人は気がついていません。
そして、「多様性が世界を救っている」と本気で考えています。
もちろん、救っている面もあるでしょう。
しかし、古くから伝わるように、何事も良い面と悪い面があるのです。
相反する意見が、当然のように存在します。
食べないことが健康には良いという意見もあれば、食べることで健康になる方法もあるのです。
それらは、「どちらが正しい」ではありません。
そのどちらも正しいのであって、そのどちらも間違っているとも言えます。
多様性というものによって、古いものと新しいものを、両側の視点で見ることが大切だ。
そのようにパスカルは言っているのです。
それにしても、1662年に亡くなったパスカルが、多様性について述べていたことにも、驚きますね。
この『パンセ』は、『護教論』という著作を生み出すときに、準備ノートの中に書き留められていたものをまとめたものです。
あなたも、ノートに書き留めていることが、あなたの死後、出版されるかも知れませんね。
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