
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』から見る「幸せのカタチ」の変化
幸せのカタチはこの10年で変化している
多動力の時代の価値観
いま、職場の20代の若者が、堀江貴文さんの『多動力』を一生懸命読んでいる。
私は転職を何度かしているのだが、転職した先の職場に多くの読書家を誕生させる力が備わっているようで、自然と読書家が増えていく。
「最近、尾崎さんの影響で本を読み始めた」
そう言われるのは、もちろん嬉しいです。
しかし、それ以上に嬉しいのは、どんな本を読んでいて、その本のかんそうはどうであるか。それを聞く方が何倍も嬉しかったりします。
多動力を読んでいる20代の職場仲間は、本についての感想は「勉強になります」だったときは、ガクッときたのだが、それでも嬉しかった。
「オレは多動だから」
そのように公言している友人が、現在の会社の代表をしていることもあり、社内では「行動こそ正義」となっている。
もちろん、その意見を否定するつまりはない。
かつて自分もそうであったため、行動することによって出た結果は、間違いなく少なくないものだったと記憶している。
しかし、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の中にも出てくるが、蓑輪厚介さんの『死ぬこと以外かすり傷』という著書の続編が2020年代に発売されたときの題名は『かすり傷も痛かった』である。そう、かすり傷でも痛いのだ、と著者の三宅香帆さんもおっしゃっている。
つまり、多動によって行動した結果、あまりにも傷口が深くて驚いたという経験ができるのだ。この怪我は、そんじょそこいらの手当ではよくならなかった。つまり、疲弊した人々を量産し続けたのである。
労働スタイルの変化
コントロールできないことには目を向けず、コントロールできることをコントロールして、理想の人生を手に入れる。
これには、行動への幻想を抱かせて、行動できたものだけがたどり着くことができる場所が、あたかも本当に存在するように語られていた。
「抜群の行動量を持った人間だけが、成功を手に入れられる」
こうした夢物語によって、成功することは難しくないように思わせた。
実際に行動している最中には、成功までの距離は確実に見ることができない。
地面を掘る作業をしている作業員が、金塊を目の前にしてやめてしまうようなアニメーション動画がSNSで流れてくる。
これは、ある種の脅迫に近いのではないだろうか。
仕事への結果なら、ある程度予測することはできても、【人生の成功】という漠然とした結果は、人によって異なるものだ。
その結果を、諦めずに掘り続けたモノだけが掘り当てることができる動画を、半ば“強制的に”見させられるのは、拷問と言わずしてなんなのだろう。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の中でも書かれているように、2020年代に入ってから、確実に働き方は変化している。
『働き方改革』と称して、各企業の中にも浸透していったように、全身全霊で働くことを良しとしていない社会になってきた。
2010年代の多動力の時代にも、「早期リタイア」を目指して、成功を目指している者でも、結果が出るまでは睡眠時間を削ってでも行動する方が正義とされている。
このような働き方をしたところで、現代社会では、目を見張るような収入を得ることは難しい。
読書をするためにはノイズを受け入れる
ノイズを受け入れることが、読書をするための第一歩なのかもしれない、と三宅さんはおっしゃっている。
行動重視の一昔前とは違い、自分に直接関係のなさそうな情報を、一旦は自分の中に取り入れることが読書への第一歩というわけだ。
これには、共感を持っている。
目標を定め、無駄なく行動した結果、成功した者はいい。
しかし成功を収めることなく行動し続けた結果、人生に残るのは何だろうか。
道端の花を見る余裕もなく、小説や映画について語ることもなく過ごした人生は、果たして豊かなのだろうか。
そこには、かけがえのない一つの考え方が抜け落ちている。
それは、
「人はいつ死ぬのかわからない」
ということだ。
道半ばで、倒れる人も多い。
思い残して死んでいく自分には、何が残っているのだろうか。
やりたいことがあった?
お金をもっと稼ぎたかった?
他人がひれ伏すような人生にしたかった?
自分が本当に生きたい人生は、本当にそれなのか?
毎日毎日、そうして自分に問うても、結論が出るのは棺桶に手がかかってからだろう。
人生において、読書をすることをやめないのは、それが私の人生だからだ。
たとえ、明日、この命が尽きても、私はこの目の前の本を読むだろう。
いいなと思ったら応援しよう!
